最凶の極道は異世界で復讐を希う

きょんきょん

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第二章

25.裏社会と癒着

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「サカナシ様以外、退席してもらってもよろしいですか」
「えっ、私もですか?」

 ガランドとアイリスを退席させ、最後まで無悪と妖精姫を二人きりにすることに渋るエレーナを無理矢理部屋の外へ押し出した妖精姫は、重厚な扉を閉めると執務机に腰掛けた。

 それまでのおしとやかにも見えた態度をひるがえし、重ねた両手に顎を乗せて検察官さながらの口調で尋ねてきた。

「さて、サカナシさん。一つお尋ねしたいのですが、〝アキツ組〟という名をご存知でしょうか」

「様」から「さん」に格が下がったことには目を瞑り、当たり障りなく答える。

「ああ、名前くらいはな。それがどうした」
「実は、数日前にエペ村付近に根城アジトを構えるアキツ組のの幹部と、その他の構成員数名が突如姿を消して未だ行き先がようとして知れないのです。なにぶん多くの恨みを買ってる無法者達の集まりですので、現状様々な憶測が飛び交ってるんですが発見には至っていません」
「ほう。そんな恐ろしい事件があったのか。それはそれは互いに気をつけねばならないな。怖くておちおち一人で便所にも行けやしない。早く発見されることを祈ってるよ。で、その事件を俺に聞いてどうするつもりだ」
「いえ、少々気にかかることがありまして」

「ヤクザ」と「役者」は一文字違いだと、生前に大鰐会長は常々口にしていた。
 暴力一辺倒だけではなく、時として役者さながらの演技力が必要とされる場面に必ず遭遇することになる。

 世間話にしてはあまりに唐突な話題に、無悪の警戒心は一気に跳ね上がっていた。エペ村を出立する際、転がる山賊の死屍累々ししるいるいに顔を青褪めさせていた村人に、「山中に腰より深い穴を掘って全て埋めとけ」とガキでも理解できる指示を出していた。

 数十センチの浅い穴だと、野犬やその他の動物の鋭敏な嗅覚を誤魔化しきれず、翌朝には掘り返されていることが往々にしてある。ましてやここは日本の常識が通用しない異世界だ。

 死体を食い荒らすモンスターがいたとしても何らおかしくはなく、現に人間より小型のモンスターに返り討ちにされて五体満足で帰ってこれない初心者ルーキーも多いと聞く。

「俺が殺したと外部の人間に口外でもしてみろ。お前らも、お前らの大事な人間もまとめてアキツ組の連中と同じ目に遭わせてやるからな」

 連帯責任を臭わせて強くくぎを差しておいたので、簡単に密告チンコロするような愚か者が現れる危険性はほぼゼロに等しい。

 根っからの負け犬体質である村人どもの性格からして、俺の命令を破るほどの度胸を持っているとは考えにくい。もしも抗う気概があれば、違法薬物の栽培から製造の片棒を担ぐような馬鹿な真似はしないはずだ。

 ――いや、まてよ。違法薬物のことか。

 なるほど、妖精姫の思惑が朧気《おぼろげ》にみえてきた。


「実は同時刻にエペ村から二名の村人が出奔しゅっぽんしたとの報告を受けてます。その二人の名を調べさせたところ、ガランドとアイリスという子供であることがわかりました。それと、村には一切関係のない外部の人間が関わってることもこの耳で聞いてます。その御仁が失踪事件に何らかの形で関係しているのでは――なんて思えてならないのです」
「それがどうした。まさかアキツ組の連中を殺害した犯人でも探しだして罰しようとでもしているのか」
「いえ、ギルドに独自の捜査権はありません。あったところで私は自由の身ではありませんし、当ギルドに犯人探しを買って出るような殊勝な心掛けの冒険者はいませんしね。ですが――」

 机の引き出しから一枚の紙を取り出すと、広げてみせた。

「異例中の異例ですが、さる子爵から直々にアキツ組失踪事件に関する捜査を秘密裏に行えとの依頼が届いたのです。しかも犯人を捕まえた暁には大金貨十枚というあり得ない報酬が提示されたのです」

 後で知ったが、大金貨とは一枚で金貨百枚に相当するという。それが十枚だと庶民には途方もない金額だという。

「俺を呼び出したのはつまり、その実行犯であると踏んでのことだったか。てっきり片田舎でという事実が外部に漏れ出るのを危惧して、口封じの為に呼出したのかと思っていたがな」

 超越草の一言に、妖精姫のやたら長い耳がピクリと反応を見せる。

「はあ……やはり失踪事件の渦中の人物は貴方でしたか。まったく厄介なことをしてくれましたね。そもそもギルドが暗殺に手を貸すはずもないでしょう」

 初めて眉間にシワを寄せて深い溜息を吐くと、腰掛けた椅子を回転させて立ち上がり正面のソファに腰を下ろした。

「ここだけの話、アキツ組を葬ったのはサカナシさん――貴方ですよね?」
「さぁてな。ちなみに俺が手にかけたとして問題はないはずだが。奴らも裏稼業に身をやつしていた連中だ、誰かに殺されたところで文句の一つも言う資格はないだろ」

 そう言ってスーツのシガレットポケットに手を伸ばすも、貰った煙草を全て吸いきったことを思い出し舌打ちをした。

「これでよければ。私は吸いませんので」

 そう言って差し出されたのは葉巻だった。黙って受け取ると穂先に火を灯す。
 やはり黄金茶と同じく高級品なのだろう。肺腑に流れ込む煙は最上級のコヒーバ産の芳醇な薫りを更に凝縮したような逸品だった。

「正直に話すと、あれは正当防衛だ」
「先に襲いかかってきたと?」
「俺は村の秘密を外部に密告しようとしていたガキを王都まで逃がす依頼を請け負ってたんだよ。だが出発前に先回りしてやってきたアキツ組の連中は、リスクの芽を摘もうと俺達を葬ろうとした。こちらとしては危険が及ぶ可能性があったもんで、仕方無しに反撃したまでとのことだ」

 紫煙を天井に向かって燻らせながら、何が起こったのか一から教えてやった。

「――わかりました。サカナシさんの言い分を一先ず信じることに致しましょう」

 そう告げると、手にしていた依頼書が突然燃えだし、灰皿の中で一瞬にして灰となって消えた。

「無下に扱ってよかったのかよ」
「そもそもコレが真っ当な依頼だとは思っていませんからね」
「事情は知らないが、どう考えてもその子爵とやらが一枚噛んでるのは間違いないだろう。何故片田舎のチンピラを探し出す為だけに秘密裏にギルドへ依頼をする必要があるのか。アキツ組からすれば一つの村を犯罪拠点に作り変えるのはメリットもあるだろうが、流石に奴らだけで実行に移すのはリスクが高すぎる。というより無謀だ」

 黙って聞いていた妖精姫は、手のひらをかざして先を促す。

「ただし、政治家や公権力者との癒着さえあれば最大の懸念は払拭される。いつの時代も権力と暴力は切っても切れないもんだ。イレギュラーな問題が発生したとして、互いが互いに利用しあって揉み消すことは日常茶飯事だからな。俺らの世界でもよく目にしたことだ」

 全て聞き終えた妖精姫は、こめかみを揉んで自分も似合わない葉巻を吸い出すと、煙を吐き出して訊いてきた。

「つまり、この場合子爵が裏で糸を引いてると?」
「子爵とやらかどうかは知らないがな」
「その一言は王侯貴族が君臨するこの国ではかなり危険な思想ですよ。もし私が告げ口でもすれば、問答無用で処刑台の上に立たされてもおかしくない状況だとおわかりですか?」
「知らん。貴様に聞かれたから答えてやったまでのことだ。それにこの無悪斬人がむざむざと殺されるわけ無いだろ。俺を殺そうとするやつには、必ず報復をしてやる」
「はあ……。サカナシさんのお考えはよくわかりました。そのうえで頼みたいことがあります」

 今度はまっさらな紙を取り出すと、流れるような美しい所作ですらすらと文字を書いていった。理屈はわからないがこの世界の文字はどうしたことか解読ができる。

「貴方にギルドマスターである私から直々に依頼をします。超越草の密売に携わる黒幕を炙り出してください」
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