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毛繕い
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夜も更けた時間。
俺は私室に呼び出したルナをソファに座らせると、手に入れたばかりの毛繕い用ブラシをうきうきで動かしていた。
「んっ」
「あんっ……」
「っゃ……」
たまにルナが色っぽい声を出すが、多分痛いわけではないと思う。
上手にやれてると信じて毛繕いを続けていく。
それからしばらく経つと、ルナがぽつぽつと口を開いた。
「あ、あのぅ……ヤミノ様ぁ」
「なんだー」
「は、恥ずかしいです……」
ルナは真白い尻尾を揺らしながら、気恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
当たり前だが、行商人の男から買った媚薬を飲ませたわけではない。ルナはなぜか自然とこうなっていたのだ。
「どうしてだ?」
「その、毛繕いは自分以外の人にやってもらったほうがいいんですけど、異性が相手となると……しかも、ヤミノ様が奴隷のわたしに毛繕いをしてくれるだなんて恐れ多いですっ……」
「む? 獣人にとっての耳とか尻尾とか毛って、結構デリケートな部分なのか?」
ブラシを動かす手を止めて尋ねた。
「は、はい」
「……悪い」
毛繕いは中止だ。
確かに見知らぬ野郎に髪を触られたら女の子は嫌がるもんな。
異世界で獣人が相手だからとたかを括って配慮に欠けていた。
しかも、毛繕いの途中で色っぽい声が漏れていたが、あれはそういうことだったのか……性感帯ってことか?
俺、とんでもないド変態じゃん。
「あっ……やめちゃうんですか?」
気を遣って名残惜しそうな顔で見ないでほしい。
「俺はルナのことが好きだけど、ルナは俺のことなんて大嫌いだろうし……ドラゴンの件で少しは仲良くなれたと思ってたから変な勘違いをしてたよ」
あの日以来、たまに食事を共にしたり、寝る前は部屋に呼んで少し雑談を交わすこともあった。
色々な人と仲良くなるための第一歩として対等に接していたつもりだったが、ルナが酷い扱いを受けてきた奴隷だと考えると早計だった。
「勘違いだなんて……今はそんなことないですよ?」
「無理しなくていい。このブラシはルナにあげるから好きに使ってくれ」
俺はルナにブラシを渡すと、ソファを離れて窓際に向かった。
夜空を眺める。
それにしても、ファイアブレストドラゴンの一件からもう3日も経つか。
あれから街の復旧は急速に進められたし、ドラゴンの肉は街の人々に振る舞った。
俺はなんか気持ち悪くて食べてないが、めちゃくちゃ美味いらしい。
明るい時間にここを訪ねてきた行商人の男も顔を蕩けさせていたしな。
「……ヤナヤーツの街に住む人たちは、今の俺のことをどう思ってるんだろうな」
ドラゴンを討伐したことで多少は見る目を変えてくれただろうか。
それともやっぱり何も覆せずにめちゃくちゃ嫌われたままか。
どちらにせよ、大嫌いから嫌いになるまでには時間が必要だし、その先の好きになるまではもっと大変な思いをしなくちゃならない。
マッチポンプ作戦は悪くないと思うし、もっともっと派手な計画を立てていこうか。
「あ、あの、ヤミノ様」
「ん? どうした、ルナ。毛繕いは終わったのか?」
「いえ、恐れ多いのですが、実はわたしたちの今後について相談したくて……」
ルナたちの今後、つまり地下室にいる奴隷たちのことだ。
「確か奴隷は10人くらいいるんだっけ?」
「はい。わたしを含めてちょうど10人います」
「男女の構成はどんなもんなんだ?」
奴隷ついては何も記憶にないからルナに聞くしか知る術がない。
「えと、男性は2人いて、どちらもドワーフのおじいちゃんです。残りは全員女性ですね。わたしと同じくらいの年齢の子がほとんどで、小さい子と20歳以上のお姉さんもいます」
「ちなみにルナは何歳なんだ?」
「わたしは15歳です」
現代日本で言うところの高校1年生になるわけか。
にしては体が小さい気がするが、これはこれで可愛いからよしとする。
「みんな故郷に帰りたいって言ってるのか?」
大事なのはそこだった。場合によってはたくさんの馬車を手配する必要があるから少し時間がかかる。
「いえ、以前までは帰りたがっていたんですが、最近はお湯で体を洗えて、お腹いっぱい食べられて、お洋服もたくさんもらえるので、全員ここにいても良いって言ってました。そもそも全員に奴隷として売られた理由があるので……そう簡単に元の場所には戻れないんですけど」
「ルナもそうなのか?」
「はいっ。わたしも故郷の家族のために売られた立場なので、今さら戻ることはできませんし……わ、わたしは、できれば今後もヤミノ様にお仕えしたいですっ」
ルナは上目遣いで見つめてきた。紅潮した顔には年齢以上の色気が宿っている。
なんだこいつ可愛い!
「そ、そうか……」
あれ? 思ったより嫌われてなかったりする?
他の奴隷たちは記憶の片隅にもないくらい覚えてないけど、思いのほか順調に進むような気がする。
明日は奴隷たちと会ってみるか。
俺は私室に呼び出したルナをソファに座らせると、手に入れたばかりの毛繕い用ブラシをうきうきで動かしていた。
「んっ」
「あんっ……」
「っゃ……」
たまにルナが色っぽい声を出すが、多分痛いわけではないと思う。
上手にやれてると信じて毛繕いを続けていく。
それからしばらく経つと、ルナがぽつぽつと口を開いた。
「あ、あのぅ……ヤミノ様ぁ」
「なんだー」
「は、恥ずかしいです……」
ルナは真白い尻尾を揺らしながら、気恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
当たり前だが、行商人の男から買った媚薬を飲ませたわけではない。ルナはなぜか自然とこうなっていたのだ。
「どうしてだ?」
「その、毛繕いは自分以外の人にやってもらったほうがいいんですけど、異性が相手となると……しかも、ヤミノ様が奴隷のわたしに毛繕いをしてくれるだなんて恐れ多いですっ……」
「む? 獣人にとっての耳とか尻尾とか毛って、結構デリケートな部分なのか?」
ブラシを動かす手を止めて尋ねた。
「は、はい」
「……悪い」
毛繕いは中止だ。
確かに見知らぬ野郎に髪を触られたら女の子は嫌がるもんな。
異世界で獣人が相手だからとたかを括って配慮に欠けていた。
しかも、毛繕いの途中で色っぽい声が漏れていたが、あれはそういうことだったのか……性感帯ってことか?
俺、とんでもないド変態じゃん。
「あっ……やめちゃうんですか?」
気を遣って名残惜しそうな顔で見ないでほしい。
「俺はルナのことが好きだけど、ルナは俺のことなんて大嫌いだろうし……ドラゴンの件で少しは仲良くなれたと思ってたから変な勘違いをしてたよ」
あの日以来、たまに食事を共にしたり、寝る前は部屋に呼んで少し雑談を交わすこともあった。
色々な人と仲良くなるための第一歩として対等に接していたつもりだったが、ルナが酷い扱いを受けてきた奴隷だと考えると早計だった。
「勘違いだなんて……今はそんなことないですよ?」
「無理しなくていい。このブラシはルナにあげるから好きに使ってくれ」
俺はルナにブラシを渡すと、ソファを離れて窓際に向かった。
夜空を眺める。
それにしても、ファイアブレストドラゴンの一件からもう3日も経つか。
あれから街の復旧は急速に進められたし、ドラゴンの肉は街の人々に振る舞った。
俺はなんか気持ち悪くて食べてないが、めちゃくちゃ美味いらしい。
明るい時間にここを訪ねてきた行商人の男も顔を蕩けさせていたしな。
「……ヤナヤーツの街に住む人たちは、今の俺のことをどう思ってるんだろうな」
ドラゴンを討伐したことで多少は見る目を変えてくれただろうか。
それともやっぱり何も覆せずにめちゃくちゃ嫌われたままか。
どちらにせよ、大嫌いから嫌いになるまでには時間が必要だし、その先の好きになるまではもっと大変な思いをしなくちゃならない。
マッチポンプ作戦は悪くないと思うし、もっともっと派手な計画を立てていこうか。
「あ、あの、ヤミノ様」
「ん? どうした、ルナ。毛繕いは終わったのか?」
「いえ、恐れ多いのですが、実はわたしたちの今後について相談したくて……」
ルナたちの今後、つまり地下室にいる奴隷たちのことだ。
「確か奴隷は10人くらいいるんだっけ?」
「はい。わたしを含めてちょうど10人います」
「男女の構成はどんなもんなんだ?」
奴隷ついては何も記憶にないからルナに聞くしか知る術がない。
「えと、男性は2人いて、どちらもドワーフのおじいちゃんです。残りは全員女性ですね。わたしと同じくらいの年齢の子がほとんどで、小さい子と20歳以上のお姉さんもいます」
「ちなみにルナは何歳なんだ?」
「わたしは15歳です」
現代日本で言うところの高校1年生になるわけか。
にしては体が小さい気がするが、これはこれで可愛いからよしとする。
「みんな故郷に帰りたいって言ってるのか?」
大事なのはそこだった。場合によってはたくさんの馬車を手配する必要があるから少し時間がかかる。
「いえ、以前までは帰りたがっていたんですが、最近はお湯で体を洗えて、お腹いっぱい食べられて、お洋服もたくさんもらえるので、全員ここにいても良いって言ってました。そもそも全員に奴隷として売られた理由があるので……そう簡単に元の場所には戻れないんですけど」
「ルナもそうなのか?」
「はいっ。わたしも故郷の家族のために売られた立場なので、今さら戻ることはできませんし……わ、わたしは、できれば今後もヤミノ様にお仕えしたいですっ」
ルナは上目遣いで見つめてきた。紅潮した顔には年齢以上の色気が宿っている。
なんだこいつ可愛い!
「そ、そうか……」
あれ? 思ったより嫌われてなかったりする?
他の奴隷たちは記憶の片隅にもないくらい覚えてないけど、思いのほか順調に進むような気がする。
明日は奴隷たちと会ってみるか。
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