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街の人々の様子
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あえなく正体を看破された俺は、マフユに連れられて街を歩いていた。
ハルチエには許可をもらっているし、キエルにも話済みだ。
「どこを目指しているんだ?」
「ドミス教会よ」
「……直接乗り込むのか?」
「ええ。知り合いがいるから調査するのは簡単よ」
ドミス教会に知り合いがいることについては聞かないことにした。マフユがそれらの情報について妙に詳しい理由は痛いほどわかっていたから。
「マフユ、ドミス教会は悪なのか?」
「んー……そうねぇ、あんたへの恨みつらみは計り知れないけれど、周りに変なことをする感じではないわね」
「そうか」
「街やギルドの様子が違うことに気がついた?」
「ああ」
冒険者ギルドだけでなく、街全体にも活気がないのは一目で分かった。
咳き込む者も多く、老若男女問わず顔色が悪さが目立つ。
明らかに様子がおかしい。
「原因不明の病院が蔓延してるのよ。あんたのところもそういう兆候はあるんじゃない?」
「似たような病状に陥った者が数名いると聞いたな。厄介な病気ではなさそうだが」
狐の獣人のルナ、ほか数名の奴隷や召使いが体調不良になっているとキエルが言っていた。
「幸いなことに死者はいないみたいね。でも、街全体が機能停止しちゃってるし、誰がどこから病気を持ち込んだかはわからないから緊急事態だと思うわよ」
「そうだな」
「まあ、怪しいのはドミス教会ね。街に来た時期も一致するし、冒険者や街の人たちなんかはみんな口を揃えて疑っていたわよ。私とお母様は信じていないけどね」
マフユは呆れた様子で辺りを見回していた。
よくよく聞き耳を立ててみると、街の人々は口々に「ドミス教会のせいだ」と囃し立てているのがわかった。
「やはりドミス教会が怪しいか」
俺はこの世界についてはまるで詳しくないからわからないが、人々が疑うのには明確な根拠があるのかもしれない。
たとえば、獣人だけが持つ特有の病原菌が人にうつったとか?
「何を考えているかわからないけど、獣人は見た目や身体能力が少し人と違うだけで、変な病気を持っていたり人にうつすことはないわよ。色々調べてみたけど、そんな事例は一度としてなかったわ。現に私がドミス教会に顔を出していた時も病気にならなかったしね」
マフユは「絶対にありえないわよ」と付け加えて、首を振っていた。
現代日本の獣が持つ狂犬病やエキノコックスを疑ったが、この世界の獣人はそういう病原体を持っていないようだ。まあ、よくよく考えてみると、俺もルナと過ごして何もなかったし当然か。
となると……
「ドミス教会が意図的に何らかの病気を持ち込んだ可能性も考えられるのか」
「だからここに来たのよ」
そうこうしているうちに、街の隅にある大きな教会の前に到着していた。レイミーの母親がシスターをしている建物とはまた別の場所で、ここは見た目からしてかなり使い古されているようだった。
かなり大きい。冒険者ギルドにも引けを取らない規模感だ。
「この建物は?」
「ほんとに何も知らないのね。ここはね、三年前のあの日、あんたに獣人差別をされた獣人たちが暮らしていた建物よ。獣人は大勢での暮らしを好むから、ここにまとまって仲良く暮らしていたのよ」
「……そうか」
「と言っても、私がドミス教会に顔を出していたのは別の街にいた時だから、ここに来るのは初めてなのよね。話には聞いていたけれど、やっぱり三年間も使われていないとこうなっちゃうのね」
建物を眺めるマフユは寂しそうな口ぶりだった。
俺が、ヤミノ・アクニンが獣人差別をするまでは、ここは彼らにとって憩いの場だったのだろう。大勢で手を取り合って暮らしていたに違いない。
そんな彼らの破壊された日常が時とともに風化していく様は見るに耐えなかった。
「全部俺のせいだな」
「ええ、そうよ。あんたのせい。でも、まだ変えられるチャンスは残されているわ。今のあんたならそれができる」
マフユは微笑みを浮かべると、俺を残して建物に足を踏み入れた。
ややこしいことに、俺はヤミノ・アクニンであってヤミノ・アクニンではないのだが、そこまで期待されては仕方がないな。
ハルチエには許可をもらっているし、キエルにも話済みだ。
「どこを目指しているんだ?」
「ドミス教会よ」
「……直接乗り込むのか?」
「ええ。知り合いがいるから調査するのは簡単よ」
ドミス教会に知り合いがいることについては聞かないことにした。マフユがそれらの情報について妙に詳しい理由は痛いほどわかっていたから。
「マフユ、ドミス教会は悪なのか?」
「んー……そうねぇ、あんたへの恨みつらみは計り知れないけれど、周りに変なことをする感じではないわね」
「そうか」
「街やギルドの様子が違うことに気がついた?」
「ああ」
冒険者ギルドだけでなく、街全体にも活気がないのは一目で分かった。
咳き込む者も多く、老若男女問わず顔色が悪さが目立つ。
明らかに様子がおかしい。
「原因不明の病院が蔓延してるのよ。あんたのところもそういう兆候はあるんじゃない?」
「似たような病状に陥った者が数名いると聞いたな。厄介な病気ではなさそうだが」
狐の獣人のルナ、ほか数名の奴隷や召使いが体調不良になっているとキエルが言っていた。
「幸いなことに死者はいないみたいね。でも、街全体が機能停止しちゃってるし、誰がどこから病気を持ち込んだかはわからないから緊急事態だと思うわよ」
「そうだな」
「まあ、怪しいのはドミス教会ね。街に来た時期も一致するし、冒険者や街の人たちなんかはみんな口を揃えて疑っていたわよ。私とお母様は信じていないけどね」
マフユは呆れた様子で辺りを見回していた。
よくよく聞き耳を立ててみると、街の人々は口々に「ドミス教会のせいだ」と囃し立てているのがわかった。
「やはりドミス教会が怪しいか」
俺はこの世界についてはまるで詳しくないからわからないが、人々が疑うのには明確な根拠があるのかもしれない。
たとえば、獣人だけが持つ特有の病原菌が人にうつったとか?
「何を考えているかわからないけど、獣人は見た目や身体能力が少し人と違うだけで、変な病気を持っていたり人にうつすことはないわよ。色々調べてみたけど、そんな事例は一度としてなかったわ。現に私がドミス教会に顔を出していた時も病気にならなかったしね」
マフユは「絶対にありえないわよ」と付け加えて、首を振っていた。
現代日本の獣が持つ狂犬病やエキノコックスを疑ったが、この世界の獣人はそういう病原体を持っていないようだ。まあ、よくよく考えてみると、俺もルナと過ごして何もなかったし当然か。
となると……
「ドミス教会が意図的に何らかの病気を持ち込んだ可能性も考えられるのか」
「だからここに来たのよ」
そうこうしているうちに、街の隅にある大きな教会の前に到着していた。レイミーの母親がシスターをしている建物とはまた別の場所で、ここは見た目からしてかなり使い古されているようだった。
かなり大きい。冒険者ギルドにも引けを取らない規模感だ。
「この建物は?」
「ほんとに何も知らないのね。ここはね、三年前のあの日、あんたに獣人差別をされた獣人たちが暮らしていた建物よ。獣人は大勢での暮らしを好むから、ここにまとまって仲良く暮らしていたのよ」
「……そうか」
「と言っても、私がドミス教会に顔を出していたのは別の街にいた時だから、ここに来るのは初めてなのよね。話には聞いていたけれど、やっぱり三年間も使われていないとこうなっちゃうのね」
建物を眺めるマフユは寂しそうな口ぶりだった。
俺が、ヤミノ・アクニンが獣人差別をするまでは、ここは彼らにとって憩いの場だったのだろう。大勢で手を取り合って暮らしていたに違いない。
そんな彼らの破壊された日常が時とともに風化していく様は見るに耐えなかった。
「全部俺のせいだな」
「ええ、そうよ。あんたのせい。でも、まだ変えられるチャンスは残されているわ。今のあんたならそれができる」
マフユは微笑みを浮かべると、俺を残して建物に足を踏み入れた。
ややこしいことに、俺はヤミノ・アクニンであってヤミノ・アクニンではないのだが、そこまで期待されては仕方がないな。
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