追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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彼はドウグラス

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「——よし。これで終わりだな」

 俺はサクッと代替武器の細剣で目的のモンスターの首を切り落として、解体作業に取り掛かっていく。

「案外使いやすかったな」

 俺はモンスターの素材を回収して自前のバックパックに詰め込みながら考える。

 細剣は強引に力任せに扱っては今にも壊れてしまいそうなので戦闘中にも落ち着きも保てるし、何より刀よりも軽いので多彩な攻撃をすることができそうだな。
 目的のモンスターの強さがAランク相当と聞いて多少は激しい戦闘になるのではと考えていたが、それは全くの杞憂だった。

「なんだ?」

 俺はユルメルを待たせるのも悪いのでとっとと帰路に就こうとしたが、静かな森の中に激しい爆音が響き渡った。
 俺は音の発生源を見つけるべくすぐさま森から抜け出し、荒れ果てた大地の方へ向かった。

「戦闘中だったか。それに、相手はガビアルワニか。ってことはBランククエストでもやっているのか?」

 音の原因が分かったのでそれ以上の深い興味も関心あまりもなかったが、一応視線を向けて確認してみると、そこでは見知らぬ三人組のパーティーがBランク相当のモンスターであるガビアルワニと死闘を繰り広げている最中だった。

 死闘と言ってもガビアルワニの方はまだまだピンピンしており、必死なのは三人組のパーティーだけのように見える。

「ごらぁっ! テメェら、何ぼーっとしてやがんだよ! もっと俺にバフをかけやがれッッ!!」

 おそらく前線を任されているであろう戦士の男は、背後からサポートをしている二人の魔法使いに怒声を浴びせるが、既に二人の魔法使いはその場で横に倒れており、まともな戦闘は続けられそうにない状態だ。

「くそがっ! 俺ァ役に立たねぇ奴ァ大嫌いなんだよ!」

 戦士の男は既にバフは解けてしまって体力が底を尽きかけているのか、全身で懸命に息を整えようと試みている。

「……」

 どれだけ戦士の男が叫んでも戦況は変わらない。
 ガビアルワニは短い足と胴体を器用に動かしながら、息を荒げる戦士の男を目掛けて徐々に前進していく。

「……助けるか」

 正直助ける義理はないが、目の前で死なれるのは御免だしな。

「——ふっ……はぁっ……!」

「っ!? な、なにもんだテメェっ!?」

 俺はおよそ二十メートルほどの距離を一瞬で詰めて、ガビアルワニの直前で垂直に飛んだ。
 途中、特徴的な細くて長い鼻先を足場にして瞬時に呼吸を落ち着かせる。
 それから鼻先から首元へと走り出す。
 心を穏やかに保ち、縦横無尽に静かに、それでいて素早く細剣を振るう。
 ガビアルワニはもう既に首から鼻先までズタズタに斬り裂かれている。ただガビアルワニはそれに気が付いていない。
 なんとか俺の姿を捉えようと、未だにその小さく鋭い瞳をギョロギョロと動かし続け、ギラついた尻尾を振るって攻撃を仕掛けていく。

 しかし、それもここまで。
 
「——終わりだ」

 俺は最後にガビアルワニの首を両断した。
 ガビアルワニは悲鳴を上げることもできずに絶命し、間抜けに口を開いてその場に崩れ落ちた。






「大丈夫ですか」

 戦士の男は血を流して顔を歪めてはいるもののしっかりと意識があったので、俺は真っ先にその背後で倒れていた二人の魔法使いに声をかけたが返事はなかった。

「……魔力切れと出血多量か……」

 二人は魔力を過剰かつ強引に使いすぎたせいで体の負担になってしまい、意識を失ってしまったようだ。
 他にも痛々しい外傷が見られることから、結構な攻撃を受けてしまったことがわかる。

「おい! テメェッ! なに手ェ出してんだ! 俺の獲物だぞ!」

 俺が二人の容態を確認していると、戦士の男は俺の背中を蹴り飛ばした。
 そして俺は特に警戒もしていなかったため、勢いそのままに吹き飛ばされてしまったが、すぐさま受け身の姿勢を取ることで事なきを得る。

「……お前は……?」

 戦士の男に俺は見覚えがあった。
 確か、こいつは……。

「あぁん? 天下のBランク冒険者ドウグラス様を知らねぇのか?」

「ああ……思い出した」

 そうだ。目の前で偉そうに腕を組んでいるのは、俺が門前払いを食らったマルジェイラの武器屋に意気揚々と入っていった男だ。

「ぶつぶつ言ってんじゃねぇよッ! テメェのせいで獲物を逃しちまったんだ! どうしてくれんだ!? 他の冒険者の冒険に手ェ出してんじゃねぇぞ!」

 ドウグラスは俺の胸ぐらを掴んで怒声を浴びせた。
 
「すまない。だが、俺が助けに入らなければ全滅していたかもしれない」

 俺はそんなものに怯むことなくドウグラスと視線を交差させる。
 確かに他の冒険者の冒険に手を出すのはタブーとされている。
 それはクエストの妨害だったり、横取りにつながるからだ。
 だがそれは時と場合によってよく考えるべきだ。
 命の危険がある以上、手を貸さないわけにはいかないだろう?

「手加減した俺に吹っ飛ばされる雑魚が粋がんじゃねぇぞ!」

 ドウグラスは唾を吐き散らかしながら言った。

 こいつは勘違いしているが俺が吹き飛ばされたのはわざとだ。
 あそこで無駄に抵抗してしまったら印象が悪くなるため、わざと吹き飛ばされるという選択をとったまでだ。

「それは関係ない。別に礼を求めるわけじゃないが、ありがとうの一言くらい言ってくれてもいいんじゃないか?」

 別に心が込もってなくてもいいんだ。ただ、人として最低限の礼儀は果たすべきだ。
 
「ッるせぇ! もう少しで勝てたんだよッ! おら! テメェらも起きろや! いつまで寝てんだよッ!」

「おい! 何をしている?」

 ドウグラスは俺の胸ぐらを離して手で押し飛ばすと、意識を失っている二人の魔法使いの腹をかなりの力を込めて蹴り飛ばした。
 俺は咄嗟に声を荒げるが、ドウグラスは興奮状態にあるのか言葉では止められなかった。

「帰るぞ! 格下の雑魚にクエストを台無しにされたからな! ギルドに報告だ!」

「……ぐっ……っっ……」

 ドウグラスは二人の魔法使いの意識を無理矢理覚醒させると、自分のペースで歩くことも許さず、強引に引っ張っていった。
 二人の魔法使いの体は既に満身創痍。まともな状態ではないはずだ。

 俺は目の前で起きているこれを止めるべきなのか……わからないでいた。

 やがて小さな丘を越えた三人の姿が見えなくなると、その場には冷たい風が吹きつけた。
 そして空は赤く染まり、帰りの合図を告げる。

「……なんだったんだ……」

 まるで意味がわからない。
 あれが同じパーティーメンバーに対する扱いなのか?

 俺はモンスターの素材を詰め込んだバックパックの中身を確認してからユルメルが待つ工房へとゆっくりと帰るのだった。
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