追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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錯綜する情報

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「おい。全く干魃していないぞ……」

 俺は入国金と身分の証明を済ませてウォーブルに入国してから、すぐにあることに気がついた。
 ウォーブルの国は全く干魃していなかったのだ。
 それどころか、中心部にはデカデカとした噴水まであり、人々は特に苦しんでいる様子がない。

「どういうことだ……?」

 俺は噴水の近くに設けられた横長のベンチに腰をかけて、真っ赤な夕日を眺めた。

 まさかニーフェさんが嘘をついた?
 いや、そんな感じは全くしなかった。少し話してわかったが、あの人は良くも悪くも裏表がない性格だ。
 だから俺みたいな名も知らない強いだけのやつを頼ったし、恩人であるシェイクジョーさんのためにと己の身をも差し出す覚悟でいた。

「すみません」

 俺は俺が座っているベンチの側にいた中年男性に声をかけた。
 どうこう考えるよりも、ウォーブルに住む人間に聞いた方が早いと考えたからだ。

「はい? どうかしましたか?」

 中年男性は気の良さそうな笑顔を浮かべて返事をした。
 どういうわけかかっちりとした黒い正装を着ているが、そこは別に気にすることでもないだろう。

「ウォーブルが干魃していると聞いたのですが、もう事態は収束したんですか?」

「ん? ウォーブルが干魃……ですか? ウォーブルは戦争や内戦はもちろんのこと、環境問題に関しても全く問題はありませんよ? その証拠に……ほら。周りの人はみんな楽しそうでしょ?」

 中年男性は目を軽く開いて驚いたような表情を見せたが、特に気にする様子もなく、噴水の周りに集まる人々に指を差していた。

「確かに……では、ここ何年もそんな問題はないということですか?」

「うーん……そうですね。僕が生まれてから二十年間は特に物騒なことはなかったですね」

 中年男性はこめかみの辺りをポリポリと指でかきながら言った。
 少し困り眉になっており、あまり争いことを好んでいないことがわかる。

「あ、でも、ここだけの話ですよ? 実は最近、二人の騎士団長が勢力を争っているみたいで、僕たち国民も何か起きるんじゃないかってヒヤヒヤしているんですよねー」

 中年男性は付け加えるように手のひらをポンッと叩いた。
 
「その話、もう少し詳しくお願いできますか?」

 俺はグイッと詰め寄るようにして聞いた。
 何か情報が得られるかもしれないからだ。

 些細な情報だとしても聞いておくに越したことはないだろう。

「は、はい。昔ながらの騎士団長であるフリードリーフさんと数ヶ月前に別部隊の騎士団長になったばかりのシェイ——」

「——ちょっとー! どこ行ってたのよ! 今日は私のママとパパに挨拶する日でしょ!」 

「ご、ごめん! お兄さん、すみません! この話はまたいつの日か! あっ! や、やめて! い、痛いよ! 耳を引っ張らないでよ!」

「なぁに言ってんの! 婚約者の両親に挨拶するってのに、その直前で逃げたんだから当然でしょ!」

 俺がドキドキしながら耳を澄ませて二人の騎士団長の話を聞いていると、突如として中年男性の背後から、強面で大柄な女性が現れた。
 そして、強面で大柄な女性は中年男性の耳を思い切り引っ張ると、勢いそのままにどこかへ行ってしまった。

「肝心なところを聞けなかったな」

 まるで嵐のような展開だった。
 結局具体的な話も聞けず、分かったのは二人の騎士団長が勢力を争っていることと、二人は別の時期に騎士団長になったことくらいだ。

「はぁぁ……自分で探るか」

 俺は一つ大きく息を吐いてからベンチから立ち上がった。
 既に空は真っ赤に染まっており、残り数時間で日没を迎えるだろう。
 その前に少しでも多くの情報を掴みたいものだ。

「……ん? この音は?」

 俺が調査に乗り出そうと夕日に向かって深呼吸をしていた時だった。
 ウォーブルの正門から王宮へと続く長い道の向こうから、無数の金属が擦れるような甲高い音と、一瞬のズレもなく地面を踏みしめる重厚感のある音が聞こえてきた。
 それと同時に辺りにいた人々は一気にしんと静まり返る。

「……」

 俺も辺りにいた人々に合わせて口を紡ぎ、その光景に目をやった。
 先頭を歩いているのは、背が高くほっそりとした体躯が特徴的な若い男で、その背後にはどこかで見覚えのある旗を掲げている大勢の騎士を引き連れていた。

 あの旗……色こそ違うがどこかで見たことがあるな。
 白の背景に金色の十字架が記された旗……確かあれは……。

「……あぁ……あの時の」

 頭の中で記憶を遡っていくと、すぐに正解に辿り着いた。
 あれはフリードリーフの部下が掲げていた旗とよく似ているな。
 確かフリードリーフの部下が掲げていたのは、黒の背景に銀色の十字架が記された旗だったはずだ。

 同国なのに同じ旗を掲げないとは何か理由があるのか?

「なあ、坊や……あの先頭を歩いている人は誰だい?」

 俺は噴水のそばでキラキラを目を輝かせている小さな男の子に視線を合わせてから声をかけた。
 もうその正体についてはおおよその見当はついていたが、念のため確認してみる。

「お兄ちゃん知らないの? あの人はね! とっっってもすごい人なんだよ!」

 男の子は右手に持つ木の棒をブンブンと振りながら楽しげに答えた。
 噴水の水音のおかげで周囲に声は漏れていないが、やはり静寂の中だ。若干だが視線を感じる。

「そうなんだ。ちなみに名前はなんて言うのかな?」

「シェイクジョー! 背中にあるおっきい剣がカッコいいんだ! フリードリーフなんかよりも、ずぅーーーーっとすごいんだよ!」

 男の子は若い男——シェイクジョーさんに指を差しながら答えた。
 相変わらず右手で木の棒を振り回しており、まるで自分のことを話すように楽しそうに話していた。
 
「……彼がシェイクジョー……」

 未だに興奮して喋り続けている男の子をよそに、俺はシェイクジョーさんの姿を眺めた。

 すると、シェイクジョーさんはその視線に気が付いたのか、一瞬だけ俺と目が合ったが、特に表情を崩すことなくフッと目を逸らした。

「ねぇ! いま目が合ったよ! ねぇ!」

「ああ。お兄ちゃんはもう行くから、またね、坊や」

「うん! ばいばーい!」

 俺はぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ男の子の頭を軽く撫でてからすぐにその場を後にしたが、頭の中には数多くの疑問が浮かび上がっていた。
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