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ユルメルは不機嫌
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「——つまり、ニーフェさんの恩人であるシェイクジョーさんは、どういうわけかフリードリーフと敵対していると?」
「ええ。彼は本当に優しい人なんです。私がここに住み着いていることをずっと内緒にしてくださいましたし……彼がそんな目にあうなんておかしいです」
ニーフェさん曰く、フリードリーフと同じ騎士団長であるシェイクジョーという男は、義理堅く優しい男らしい。
「ふむ……では、どうしてシェイクジョーさんは湖にあなたが住んでいることを内緒にしてくれたんですか? 何か約束をしたとか?」
俺はニーフェさんが用意してくれた冷たい水で、渇いた口内を潤してから言った。
普通に考えて、幻の種族と言われている水精族を発見した一国の騎士団長が、国王、ひいては国のトップに報告をしないわけがないのだ。
「ええ。実は彼らが住む国ウォーブルは、ここ数年間干魃の事態に直面しているらしいのですが、それが深く関係しています」
「ウォーブルが干魃? 聞いたことがありませんが……それは確かですか?」
俺はウォーブルに対して良くも悪くも特に目立った印象はないが、かなり平和的な国だと認識している。
もしかすると、俺がいない間に大きな変化があったのかもしれないな。
「はい。シェイクジョーさんが仰られていたので間違いありません」
ニーフェさんは目に力を込めると自信ありげに頷いた。
どうやらニーフェさんがシェイクジョーさんに寄せる信頼は相当なものらしい。
「……それと旱魃について何の関係が?」
「私がこの湖に住んでいることを秘密にする代わりに、水の玉という魔道具を定期的に差し上げることにしたんです」
ニーフェさんは言葉を言い終えると同時に、人差し指の先にグンっと魔力を込めると、そこから直径五センチほどの透明な球体が現れた。
魔法が得意ではなく、あまり魔力に敏感ではない俺でも、その球体に込められている魔力がどれほどのものなのか理解することができた。
「これが水の玉ですか?」
俺はそれをニーフェさんから受け取り、ジッと凝視しながら言った。
魔道具自体、非常に高価なものなのであまり触れたことはないが、水精族はこうも簡単に生み出してしまうのか。
「ええ。使用すると一定の範囲内に数時間の雨を降らせることができます。三回使うと壊れてしまいますが、一時的に干魃を救うには十分だと思います。シェイクジョーさんも助かっていると仰っていましたしね」
ニーフェさんは人の良い幸せそうな笑みを浮かべた。
もしかしたら他人のために役に立つということが嬉しいのかもしれないな。
何の信頼もない俺を頼ってまで恩人を助けたいのだろう。
「……わかりました。それなら早速動いた方が良さそうですね。湖と森の周りには既にフリードリーフの部下たちが張り込んでいますし、シェイクジョーさんはもう狙われているでしょうしね」
騎士団長であるフリードリーフが動き出していたので、既にシェイクジョーさんはかなり追い込まれていると推測できる。
手を貸すと決めて詳しい事情を聞いたからには、早いうちにウォーブルへ向かうべきだな。
「手を貸してくださるのですね!」
「ええ。早速俺の領地へ向かいましょう。ここはいつやつらに見つかってもおかしくないですからね」
ニーフェさんはここにきて初めて感情をあらわにしていたが、いちいちそれに触れる時間も勿体無いので、俺は颯爽とソファから立ち上がった。
ここが湖の底とはいえ、あれだけ警戒されていたら見つかる可能性だって無くはないので、早々にここから抜け出した方がいいだろうしな。
◇
「——ってことで、ユルメル。俺は少し用事があるからニーフェさんと仲良くな?」
名も無き領地には難なく戻ってこれた。
湖の底から地上まではニーフェさんが水魔法でサポートしてくれたので苦しさもなく上がることができたし、湖の周りを見張っていた騎士たちもぐっすりと眠っていたので、俺はニーフェさんを担いで名も無き領地まで無休で走ってきたのだった。
森の周りを見張っていた騎士の目を掻い潜るのは大変だったが、俺の本気のスピードは簡単に目で追えるものではないので何とかなった。
「う、うん? 意味わからないんだけど……水と食料と住民は?」
ユルメルは長い耳をピンと張って頬を膨らましていた。
これは普段無邪気で天真爛漫なユルメルが見せたことのない顔だな。
「水はニーフェさんがなんとかしてくれる。食料と住民はもう少しだけ待ってほしい。ていうか、なんか怒ってないか?」
俺が話している最中も「ムムムム」と小さく唸りながら俺の顔を見上げていたので、よく分からないが機嫌が悪いことは確かだった。
「なんでもないよっ! それより、この人は変なことしないよね?」
どう見ても怒っているようにしか見えない。
その証拠に、ユルメルは鍛治に必要な金槌をドンっとテーブルに叩きつけていた。
「あ、ああ……大丈夫だ。悪い人ではないから安心してくれ。だから俺が帰ってくるまではここに住まわせても良いか?」
俺はそんなユルメルの行動に戸惑いながらも返事をした。
「はぁぁぁ……どうせダメって言っても、聞かないんでしょ? 仕方ないからいいよ」
ユルメルはこれまでに見たことのないような大きなため息をつくと、やれやれと言った感じで承諾してくれた。
あまり信頼に足らない人物と一緒にはいたくないのかもしれないな。
俺のわがままのせいで無理をさせたみたいだし、今度何かお礼でもしてやりたいな。
「悪いな。ニーフェさん、二、三日で済ませてきますから、その間はここでユルメルと一緒にいてください」
俺はここまで静観していたニーフェさんに目をやると、ニーフェさんは兄弟喧嘩でも見ているような柔らかな表情を浮かべていた。
「あっ! わかりました……あの、今更ですが、あなたのお名前をお伺いしてもいいですか?」
ニーフェさんはハッと我に帰ったような返事をすると、俺に名前を聞いてきた。
そういえば名乗ってなかったな。
ドタバタしすぎてすっかり忘れていた。
「俺はゲイルです……っと、時間もあまりなさそうなのでもう行きますね。では」
俺はニーフェさんに名前だけ伝えてから、すぐに扉を開けて外へ出た。
「ふぅぅぅ……行くか!」
そして大きく深呼吸をしてからカチカチに干上がった地面を思い切り蹴って走り出した。
帰ってくる頃にはこのカチカチの地面も、適度に柔らかくなっていてほしいものだ。
俺が目指す先はウォーブル。
目標はシェイクジョーさんの安否の確認と窮地に瀕していた場合の手助けだ。
あわよくば媚を売れれば尚良し……ってところか。
「ええ。彼は本当に優しい人なんです。私がここに住み着いていることをずっと内緒にしてくださいましたし……彼がそんな目にあうなんておかしいです」
ニーフェさん曰く、フリードリーフと同じ騎士団長であるシェイクジョーという男は、義理堅く優しい男らしい。
「ふむ……では、どうしてシェイクジョーさんは湖にあなたが住んでいることを内緒にしてくれたんですか? 何か約束をしたとか?」
俺はニーフェさんが用意してくれた冷たい水で、渇いた口内を潤してから言った。
普通に考えて、幻の種族と言われている水精族を発見した一国の騎士団長が、国王、ひいては国のトップに報告をしないわけがないのだ。
「ええ。実は彼らが住む国ウォーブルは、ここ数年間干魃の事態に直面しているらしいのですが、それが深く関係しています」
「ウォーブルが干魃? 聞いたことがありませんが……それは確かですか?」
俺はウォーブルに対して良くも悪くも特に目立った印象はないが、かなり平和的な国だと認識している。
もしかすると、俺がいない間に大きな変化があったのかもしれないな。
「はい。シェイクジョーさんが仰られていたので間違いありません」
ニーフェさんは目に力を込めると自信ありげに頷いた。
どうやらニーフェさんがシェイクジョーさんに寄せる信頼は相当なものらしい。
「……それと旱魃について何の関係が?」
「私がこの湖に住んでいることを秘密にする代わりに、水の玉という魔道具を定期的に差し上げることにしたんです」
ニーフェさんは言葉を言い終えると同時に、人差し指の先にグンっと魔力を込めると、そこから直径五センチほどの透明な球体が現れた。
魔法が得意ではなく、あまり魔力に敏感ではない俺でも、その球体に込められている魔力がどれほどのものなのか理解することができた。
「これが水の玉ですか?」
俺はそれをニーフェさんから受け取り、ジッと凝視しながら言った。
魔道具自体、非常に高価なものなのであまり触れたことはないが、水精族はこうも簡単に生み出してしまうのか。
「ええ。使用すると一定の範囲内に数時間の雨を降らせることができます。三回使うと壊れてしまいますが、一時的に干魃を救うには十分だと思います。シェイクジョーさんも助かっていると仰っていましたしね」
ニーフェさんは人の良い幸せそうな笑みを浮かべた。
もしかしたら他人のために役に立つということが嬉しいのかもしれないな。
何の信頼もない俺を頼ってまで恩人を助けたいのだろう。
「……わかりました。それなら早速動いた方が良さそうですね。湖と森の周りには既にフリードリーフの部下たちが張り込んでいますし、シェイクジョーさんはもう狙われているでしょうしね」
騎士団長であるフリードリーフが動き出していたので、既にシェイクジョーさんはかなり追い込まれていると推測できる。
手を貸すと決めて詳しい事情を聞いたからには、早いうちにウォーブルへ向かうべきだな。
「手を貸してくださるのですね!」
「ええ。早速俺の領地へ向かいましょう。ここはいつやつらに見つかってもおかしくないですからね」
ニーフェさんはここにきて初めて感情をあらわにしていたが、いちいちそれに触れる時間も勿体無いので、俺は颯爽とソファから立ち上がった。
ここが湖の底とはいえ、あれだけ警戒されていたら見つかる可能性だって無くはないので、早々にここから抜け出した方がいいだろうしな。
◇
「——ってことで、ユルメル。俺は少し用事があるからニーフェさんと仲良くな?」
名も無き領地には難なく戻ってこれた。
湖の底から地上まではニーフェさんが水魔法でサポートしてくれたので苦しさもなく上がることができたし、湖の周りを見張っていた騎士たちもぐっすりと眠っていたので、俺はニーフェさんを担いで名も無き領地まで無休で走ってきたのだった。
森の周りを見張っていた騎士の目を掻い潜るのは大変だったが、俺の本気のスピードは簡単に目で追えるものではないので何とかなった。
「う、うん? 意味わからないんだけど……水と食料と住民は?」
ユルメルは長い耳をピンと張って頬を膨らましていた。
これは普段無邪気で天真爛漫なユルメルが見せたことのない顔だな。
「水はニーフェさんがなんとかしてくれる。食料と住民はもう少しだけ待ってほしい。ていうか、なんか怒ってないか?」
俺が話している最中も「ムムムム」と小さく唸りながら俺の顔を見上げていたので、よく分からないが機嫌が悪いことは確かだった。
「なんでもないよっ! それより、この人は変なことしないよね?」
どう見ても怒っているようにしか見えない。
その証拠に、ユルメルは鍛治に必要な金槌をドンっとテーブルに叩きつけていた。
「あ、ああ……大丈夫だ。悪い人ではないから安心してくれ。だから俺が帰ってくるまではここに住まわせても良いか?」
俺はそんなユルメルの行動に戸惑いながらも返事をした。
「はぁぁぁ……どうせダメって言っても、聞かないんでしょ? 仕方ないからいいよ」
ユルメルはこれまでに見たことのないような大きなため息をつくと、やれやれと言った感じで承諾してくれた。
あまり信頼に足らない人物と一緒にはいたくないのかもしれないな。
俺のわがままのせいで無理をさせたみたいだし、今度何かお礼でもしてやりたいな。
「悪いな。ニーフェさん、二、三日で済ませてきますから、その間はここでユルメルと一緒にいてください」
俺はここまで静観していたニーフェさんに目をやると、ニーフェさんは兄弟喧嘩でも見ているような柔らかな表情を浮かべていた。
「あっ! わかりました……あの、今更ですが、あなたのお名前をお伺いしてもいいですか?」
ニーフェさんはハッと我に帰ったような返事をすると、俺に名前を聞いてきた。
そういえば名乗ってなかったな。
ドタバタしすぎてすっかり忘れていた。
「俺はゲイルです……っと、時間もあまりなさそうなのでもう行きますね。では」
俺はニーフェさんに名前だけ伝えてから、すぐに扉を開けて外へ出た。
「ふぅぅぅ……行くか!」
そして大きく深呼吸をしてからカチカチに干上がった地面を思い切り蹴って走り出した。
帰ってくる頃にはこのカチカチの地面も、適度に柔らかくなっていてほしいものだ。
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