追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!

文字の大きさ
56 / 91

精神状態

しおりを挟む
「……あ……」

 俺はハッと目が覚めた。ある程度回復しきったのか、体がこれ以上眠る必要がないと判断したのかもしれない。

「あ! やっと起きた! また眠っちゃったからびっくりしたよっ!」

 ユルメルは自慢の長い耳をぴくぴくと動かしながら、そんな俺の顔を覗き込んでいた。

「悪い。寝てたみたいだ……。というか、誰か呼びに行ったんじゃなかったのか?」

 確かユルメルはそんな理由をつけて部屋から出て行った気がするが、この部屋には俺とユルメルしかいなかった。

「しょうがないでしょっ! ゲイルが二度寝のくせに二時間も寝てたんだから! 僕は看病してたからここにいるけど、みんなはもう部屋に戻っちゃったよ!」

 外は暗くなっていた。
 いや、草原で倒れる前から外は暗かったので、おそらく、俺は一日以上眠っていたのだろう。
 余程体に疲れが溜まっていたようだ。

「すまない。迷惑をかけたな。それで……どうしてここにいるんだ? 家で待機してるように言ったはずだが……」

「それはね——」

 ユルメルはゆっくりと説明を始めた。
 曰く、ニーフェさんが森と湖がある方向から巨大な爆発が発生したことに気がついて、外へ飛び出したらしい。
 時間をかけて現場へ駆けつけたユルメルとニーフェさんは、そこで国王を助け終えてから、俺の援護に来ていたフリードリーフと鉢合わせたようだ。
 三人は初対面だったはずだが、目的は一緒だったので特に揉めることなく、俺のことをウォーブルの王宮まで運んだそうだ。

 そして最後に俺が意識を失ってから三日も経過していたということも教えてくれた。

「——ニーフェさんは無事か?」

 俺は全身の痛みに耐えながらベッドから抜け出して、赤い絨毯の上に立った。

「無事……うん。でも、少し悲しそうだった。僕は具体的な話はわからないけど、嘘をつかれるのが辛いのはわかるから……」

 ユルメルは首を横に振ると、小さな声でそう言った。

 今回の件で良くも悪くも最も影響があったのは、ニーフェさんで間違い無いだろう。
 ニーフェさんが心を立て直すのには、時間が必要だとは思うが、そこは俺が責任を持って向き合っていかなければならない。

「……そうか」
 
「——入ってもいいか?」

 俺が端的な返事をしたその時。
 リズム良く扉をノックする音が部屋に響いた。

「どうぞー!」

 ユルメルが伸びのある声でそう言うと、声の主は気を遣うように静かに扉を開いて部屋に入ってきた。
 
「失礼する。ゲイル殿。無事で何よりだ」

 フリードリーフは窓際に立って外を眺めながら言った。
 何があったのかはわからないが少し疲れたような表情をしている。
 色々と大変だったのだろう。
 それに名前を教えていないのに知っているし、呼び方まで少し仰々しい気がする。

「フリードリーフか。国王は無事だったか?」

「ああ。もう普通に生活できている。傷口は深かったが内臓に損傷はなかったからな。俺からも聞きたいことがあるのだが……やはり、シェイクジョーは死んだのか?」

「……死んだよ。あいつは悪魔と契約を結んでいたから、殺さざるを得なかった……」

 俺は小さな椅子に腰をかけてテーブルの上に両手を置いた。

「あまり悩むな。人を殺すという行為は決して褒められたものではないが、今回に限っては例外だ。自分の身が危険に晒されたのだから、自己防衛は成立するはずだ。それと、この件に関する事後処理は俺に任せてくれ。ゲイル殿はいつ頃お帰りになる予定だ? いつまででも留まってくれていいのだが、国王様がお礼を述べたがっていてな。後日でもいいが、そっちも気にしてくれると助かる」

 フリードリーフは依然として窓越しから星空を眺めていた。
 俺のことを慰めるような強気な口調は、今の俺にとっては非常に心強いものだった。

「国王には悪いが、俺はやることがあるから明日には帰る予定だ。領地の発展が進んでなくて、切羽詰まっているんだ。こっちの問題が片付いたら、またお邪魔させてもらうよ」

「何か困っているのか? あまり人は派遣できないが、個人的になら手を貸すぞ?」

 フリードリーフは俺の向かいに座ると、真剣な眼差しを作って俺の目を見てきた。

 水と食料の不足、住民の勧誘、この三つの問題を解決するために動いたはいいものの、今のところ解決しているのは何一つない。
 ニーフェさんだって、いつまでも俺のところにいるわけではないので、すぐに名も無き領地に帰還して立て直したいところだ。

「食料と住民が欲しい。何かいい方法はないか?」

 水はニーフェさんに土下座をしてでも頼み込むとして、ここは食料と住民の情報をフリードリーフから貰うとしよう。

「一応心当たりがあるが、住民として勧誘するとなると少し難しいな」

「聞かせてくれ」

 俺はここでチラリとユルメルの方に目をやったが、ユルメルは鼻歌を歌いながら乱れたベッドを直していたので放っておいても大丈夫だろう。
 というより、見た目と年齢がまるで違うので、別に子供扱いする必要はないのだ。

「イグワイアのさらに奥、そのまたさらに奥には深い洞穴があるらしい。そこに暮らすドワーフが住む地を求めて、数ヶ月前にウォーブルにやってきていた。我々はそれほどのドワーフを養えるだけの酒を用意できなかったので断ったが、ゲイル殿ならなんとかなるのではないか?」

「数は?」

「百だ」

 フリードリーフは不敵な笑みを浮かべていた。

 それにしても、ドワーフか……。
 ドワーフは酒を与えれば、基本的に話を聞いてくれる種族だ。なら従えるのは簡単……と思ってしまうが、問題はその量だ。
 一人当たり一日五リットルの酒を必要としていて、その数が百となると五百リットルの酒を毎日提供しなくてはならない。

 確かに難しい条件だが、ドワーフという種族はどんな質素な材料からでも簡単になんでも作ってしまうので、接触する価値は大いにある。
 現にアノールドのギルドと王宮は、ドワーフが易々と完成させたという逸話があるくらいだ。

「よし。行こう。二人はもう部屋に戻っててくれ。俺はやることができた」

「あ、ああ。行くのはいいが、準備は怠るなよ? ドワーフは力も強いからな?」

「わかっている。ユルメルも明日には帰るから早く寝るといい。俺のことは心配するな」

 フリードリーフは困惑しながらもそそくさと部屋から去っていったが、ユルメルは未だにベッドメイクに明け暮れていたので、俺は適当に声をかけた。

「はーい! 後は頼んだよ!」

 ユルメルは元気な返事をして部屋から出ていくと、扉の外から俺に向かって意味ありげな言葉を口にした。
 やっぱりユルメルも気がついていたか。

「——ニーフェさん。入ってもいいですよ」

「失礼します」

 俺が呼び込むと、ニーフェさんはおずおずと部屋に入ってきた。
 少し緊張している様子も窺えるが、それよりも少し顔に影が差していることが気になった。

「さっ、座ってください。何か話したいことでもあるのでしょう?」

 俺はニーフェさんを向かいの席に座らせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪霊令嬢~死した聖女憎悪に染まりて呪いを成す~

女譜香あいす
ファンタジー
 数え切れない人々をその身に宿す奇跡の力で救ってきた少女、サヤ・パメラ・カグラバ。  聖女と称えられた彼女であったが陰謀の末に愛した者から婚約破棄を言い渡され、友人達からも裏切られ、最後には命を奪われてしまう。  だがそのとき感じた怒りと悲しみ、そして絶望によって彼女の心は黒く歪み、果てにサヤは悪霊として蘇った。  そして、そんな彼女と世を憎みながらもただ生きる事しかできていなかった一人の少女が巡り合う事で、世界に呪いが拡がり始める事となる。  これは誰よりも清らかだった乙女が、憎悪の化身となりすべての人間に復讐を果たす物語。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...