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再降臨ダンジョン
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「それにしてもここに来るのは久しぶりだなぁ。あれから時間もかなり経ったし、最下層のドラゴンも復活しているといいが……」
ここは俺が過去数年間に渡って篭り続けたダンジョンだ。
懐かしさを感じながらも、目の前に立ちはだかるモンスターを斬り伏せながら、高速で下へ下へと向かっていく。
ちなみにここは幾度となく苦戦し、絶望し、探究したダンジョンのフロアなので、俺は全ての通路を丸暗記しているので道に迷う心配は毛頭ない。
「次はそこを左で……あぁ……懐かしいな。俺はここでコカトリスに殺されかけたんだったな」
記憶に深く焼き付いているフロアに到着した俺は、無意識にそのフロアの冷たい外壁に手のひらを添えていた。
そこは瀕死の状態であった俺が限界を超越した場所。
言い換えるのなら、ダンジョン内での生活における分岐点でもあった。ここでのコカトリスとの邂逅によって瀕死まで追い込まれていなければ、今俺はこうして強く慣れていなかったと確信を持って強く言える。
「——グゲェェェェェ!」
そんなことを考えていると、背後からコカトリスが現れた。
相変わらずの巨体と鋭利な黒い鉤爪、今思えばあの時の俺はどうやって倒したのか不思議でしょうがないくらいだ。
「……ちょうどお前のことを考えていたんだ」
「グゲェ?」
俺はゆっくりと右足を踏み出して、コカトリスに接近した。
コカトリスは「はぁ?」とでも言いたげな表情を浮かべて、俺のことを見つめている。
これ以上接近すればそのクチバシと鉤爪で斬り刻まれる範囲に入るだろう。
「今なら素手でも倒せそうだ」
コカトリスまで残り二メートルといったところで立ち止まった俺は、コカトリスの長毛に覆われた胴体に手を伸ばした。
確か前はここにモンスターの死骸を隠していたんだったかな。腐敗臭がしないことから、今回はその心配はなさそうだ。なら遠慮なく殺してやる。
「……? グゲェ……! グゲェ! グゲェ!」
俺が戸惑っていたコカトリスの長毛の中に手を入れると、コカトリスは途端に喚き始め、長い翼と鋭利な鉤爪を振るって俺から数メートルの距離をとった。
どうやら何をされたか気がついていないらしい。
「そう喚くな。既にお前の心臓は潰し終えた。楽になれ」
俺は真っ赤な鮮血で濡らした自身の右手を眺めながら言った。
地面はコカトリスの血で濡れており、その中心には指の形の穴が開けられたコカトリスの心臓が落ちていた。
「グゲェ……グ……ェェ……?」
コカトリスは俺に言われて気がついたのか、それとも自身の体温が急激に低下することで気がついたのか、苦しそうな断末魔をあげると、ほんの数秒でまるで持ち手を無くした人形のようにその場に倒れ伏した。
「俺はこれを喰って全治したんだ。俺の考えが正しければアルファの……いや、三人の傷を完全に消せるかもしれないな」
俺は目の前で白目を向いて転がるコカトリスを一瞥した。
「だが、この肉じゃぁ足りないな。もっと強いモンスターの肉じゃないとな。例えば……下にいる”バケモノ”とかな」
俺は約三十フロアほど下から感じる気配に目を細めた。
気配の正体は最下層で待ち構える巨大なドラゴンだ。前回は不意をついて一刀両断したが、今回はそうもいかなさそうだ。
というのも、復活してから明らかに全ての”力”が増しているからだ。おそらく、ここに足を踏み入れた者は俺以外にはいないので、たった一回の復活でこうも強くなったのだろう。
「コカトリスを喰っただけであれだけの回復を見せたんだ。それよりも遥かに強いドラゴンを喰えば……ははは……何もかも完治しそうだな」
Bランク程度のコカトリスを喰っただけで全身の傷が完全に癒えて、体力まで回復したことを考えれば、それよりも遥かに強いモンスターを喰らえば、さらなる回復を見込めるというわけだ。
心の傷は癒えずとも、酷く歪んだ深い悲しみを孕んだ古傷を消したりすることで過去を清算することが不可能ではないはずだ。
「さあ——って、おいおい、まさかそっちから仕掛けてくるとはな!」
こちらから攻撃を仕掛けようと、真下に向かって斬撃を放とうとした刹那。
俺のいるフロア全体が突如として強く揺れると同時に、青白い炎が一直線に俺を目掛けて飛んできた。
これはドラゴンが得意とするブレスだ。
「だが……甘いな」
俺が刀を引き抜いて真下に向かって斬撃を放つと、青白い炎はいとも容易く完全に吹き払われた。
「……油断ならねぇな」
そして、俺は双方のたった一度の攻撃によって巻き上げられた砂煙の中で目を凝らし、ポッカリと地面に穴が空いていることを発見した。
最下層で待つドラゴンが放った業火の威力があまりにも強力すぎたせいで、綺麗な円形をした五メートルほどの穴が、最下層から俺のフロアまで貫通していたのだ。
「それにしても久しぶりだな。この胸の高鳴りは……」
俺はぽっかりと開けられた穴から最下層の真白い地面を見下ろした。
これから起こる戦闘を想像するだけで、脳からはドーパミンがドバドバと生成され、心臓がドクドクと脈打ち、刀を握る右手にも自然と力が入っていた。
ここは俺が過去数年間に渡って篭り続けたダンジョンだ。
懐かしさを感じながらも、目の前に立ちはだかるモンスターを斬り伏せながら、高速で下へ下へと向かっていく。
ちなみにここは幾度となく苦戦し、絶望し、探究したダンジョンのフロアなので、俺は全ての通路を丸暗記しているので道に迷う心配は毛頭ない。
「次はそこを左で……あぁ……懐かしいな。俺はここでコカトリスに殺されかけたんだったな」
記憶に深く焼き付いているフロアに到着した俺は、無意識にそのフロアの冷たい外壁に手のひらを添えていた。
そこは瀕死の状態であった俺が限界を超越した場所。
言い換えるのなら、ダンジョン内での生活における分岐点でもあった。ここでのコカトリスとの邂逅によって瀕死まで追い込まれていなければ、今俺はこうして強く慣れていなかったと確信を持って強く言える。
「——グゲェェェェェ!」
そんなことを考えていると、背後からコカトリスが現れた。
相変わらずの巨体と鋭利な黒い鉤爪、今思えばあの時の俺はどうやって倒したのか不思議でしょうがないくらいだ。
「……ちょうどお前のことを考えていたんだ」
「グゲェ?」
俺はゆっくりと右足を踏み出して、コカトリスに接近した。
コカトリスは「はぁ?」とでも言いたげな表情を浮かべて、俺のことを見つめている。
これ以上接近すればそのクチバシと鉤爪で斬り刻まれる範囲に入るだろう。
「今なら素手でも倒せそうだ」
コカトリスまで残り二メートルといったところで立ち止まった俺は、コカトリスの長毛に覆われた胴体に手を伸ばした。
確か前はここにモンスターの死骸を隠していたんだったかな。腐敗臭がしないことから、今回はその心配はなさそうだ。なら遠慮なく殺してやる。
「……? グゲェ……! グゲェ! グゲェ!」
俺が戸惑っていたコカトリスの長毛の中に手を入れると、コカトリスは途端に喚き始め、長い翼と鋭利な鉤爪を振るって俺から数メートルの距離をとった。
どうやら何をされたか気がついていないらしい。
「そう喚くな。既にお前の心臓は潰し終えた。楽になれ」
俺は真っ赤な鮮血で濡らした自身の右手を眺めながら言った。
地面はコカトリスの血で濡れており、その中心には指の形の穴が開けられたコカトリスの心臓が落ちていた。
「グゲェ……グ……ェェ……?」
コカトリスは俺に言われて気がついたのか、それとも自身の体温が急激に低下することで気がついたのか、苦しそうな断末魔をあげると、ほんの数秒でまるで持ち手を無くした人形のようにその場に倒れ伏した。
「俺はこれを喰って全治したんだ。俺の考えが正しければアルファの……いや、三人の傷を完全に消せるかもしれないな」
俺は目の前で白目を向いて転がるコカトリスを一瞥した。
「だが、この肉じゃぁ足りないな。もっと強いモンスターの肉じゃないとな。例えば……下にいる”バケモノ”とかな」
俺は約三十フロアほど下から感じる気配に目を細めた。
気配の正体は最下層で待ち構える巨大なドラゴンだ。前回は不意をついて一刀両断したが、今回はそうもいかなさそうだ。
というのも、復活してから明らかに全ての”力”が増しているからだ。おそらく、ここに足を踏み入れた者は俺以外にはいないので、たった一回の復活でこうも強くなったのだろう。
「コカトリスを喰っただけであれだけの回復を見せたんだ。それよりも遥かに強いドラゴンを喰えば……ははは……何もかも完治しそうだな」
Bランク程度のコカトリスを喰っただけで全身の傷が完全に癒えて、体力まで回復したことを考えれば、それよりも遥かに強いモンスターを喰らえば、さらなる回復を見込めるというわけだ。
心の傷は癒えずとも、酷く歪んだ深い悲しみを孕んだ古傷を消したりすることで過去を清算することが不可能ではないはずだ。
「さあ——って、おいおい、まさかそっちから仕掛けてくるとはな!」
こちらから攻撃を仕掛けようと、真下に向かって斬撃を放とうとした刹那。
俺のいるフロア全体が突如として強く揺れると同時に、青白い炎が一直線に俺を目掛けて飛んできた。
これはドラゴンが得意とするブレスだ。
「だが……甘いな」
俺が刀を引き抜いて真下に向かって斬撃を放つと、青白い炎はいとも容易く完全に吹き払われた。
「……油断ならねぇな」
そして、俺は双方のたった一度の攻撃によって巻き上げられた砂煙の中で目を凝らし、ポッカリと地面に穴が空いていることを発見した。
最下層で待つドラゴンが放った業火の威力があまりにも強力すぎたせいで、綺麗な円形をした五メートルほどの穴が、最下層から俺のフロアまで貫通していたのだ。
「それにしても久しぶりだな。この胸の高鳴りは……」
俺はぽっかりと開けられた穴から最下層の真白い地面を見下ろした。
これから起こる戦闘を想像するだけで、脳からはドーパミンがドバドバと生成され、心臓がドクドクと脈打ち、刀を握る右手にも自然と力が入っていた。
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