追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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バイオレット

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「グルァァ! グルァァァッ!」

 俺が攻撃のタイミングを窺って穴の中へ飛び込まずにいると、最下層からドラゴンの咆哮が響いてきた。
 まるで「早く来い」とでも言いたげな余裕を孕んだ咆哮は、俺の興奮をより大きいものにさせた。

「ならこちらからいかせてもらう!」

 俺は大きく跳躍してから、最下層を目掛けて天井を蹴りつけ、左手で鞘を支えながら右手で柄を握り、体を一直線に保つように急降下していった。
 ドラゴンのブレスが襲いかかる前に最下層に到達しなければならないが、おそらく余裕だろう。高威力で広範囲のあのブレスを放つには、ある程度のインターバルを必要とするはずだ。重力に任せて落下していけば、それよりも早く最下層に到達することができるだろう。

「……到達まで残り百メートル。以前の倍以上の大きさがあるな。首も相当な厚みがあるし、一太刀でいけるかわからなくなってきたぞ」

 俺は自由落下をしながらも、真下から俺のことを見上げている敵の情報をまとめていた。
 首は長く太く厚くの三拍子が揃っていることに加えて、体躯はかなりのものだった。
 全身が暗い赤色と青色が混ぜられたような色合いをしており、両の瞳は眩い金の色をしていた。さらにドラゴンとしては珍しい二足歩行なことに加えて、背中からは立派な翼が生えている。
 それにしても、あの時の修行を終えたばかりの俺に首を両断される程度の実力しかなかったドラゴンが、ダンジョンの力で一度復活からといってこのように見た目そのものが変わり、大幅に力が増すとは到底思えない。あまりにも異質だな。

「グルァァァァァァァッッッッ!!!」

「……残り三秒」

 俺とドラゴンの距離は既に目と鼻の先だ。到達まで残り秒数で言えば僅か三秒というところだが、互いに最大限の警戒心を隠すことはない。
 ドラゴンはその鋭い牙を剥き出しにしながら咆哮をあげている。対して、俺は柄を握る掌に力を込めながら、ドラゴンの強靭な首を見据えて、”斬る”という軌道を瞬時に頭の中で思い浮かべた。
 ドラゴンの初撃がブレス以外だと仮定すると、鋭い牙による攻撃か刺々しい尻尾による攻撃だろう。あるいはブレス以外の魔法と考えるべきか。何にせよ、この時点でのスピードは俺の方が遥かに上回っているので、初撃を回避してから首をいただくとしよう。
 
「グルァ!」

 残り十メートルというところでドラゴンは咆哮をあげながらもグルリと反転し、胴体と同じくらいの大きさはあろう尻尾を俺を目掛けて振るってきた。

「やはり尻尾か!」

 ドラゴンが攻撃を開始する前の僅かな挙動の変化で攻撃の軌道を大まかに見切った俺は、迫り来るドラゴンの尻尾を紙一重のところで抜刀した。
 そして、俺はすぐに横方向に振るわれたドラゴンの尻尾に対して縦方向に抜刀した刀を、ドラゴンの尻尾に軽く添えるようにして振るうことで、空中で前向きに一回転をしながら回避することに成功した。
 上方向からの力を加えられたドラゴンの尻尾は、金属と金属が強烈な衝突を引き起こしたかのような甲高い音を立てた。

「もう追撃は間に合うまい!」

 それと同時にドラゴンが体幹を崩してよろけ始めたので、俺はその隙を見逃さずにドラゴンの尻尾を踏み台にして、光沢感のある無数の鱗に覆われたドラゴンの首へと向かった。

「雁首をいただくぞ——なっ!? 流石に硬すぎるだろ!」

 が、しかし、全てを断ち斬ることができるであろう俺の一撃は、数枚の鱗を斬るだけに終わり、淀みのない動作に確かな力を込めた俺の刀は鱗の先の筋肉にあっさりと弾かれてしまった。

「グルァ……!」

 すると、ドラゴンはまるで俺のことを嘲笑するかのように小さく唸りをあげたが、攻撃を仕掛けてくる気はないみたいだ。

「くそ!」

 俺は刀が弾かれて反動でほんの僅かな時間だけ静止してしまったが、すぐに体勢を立て直してドラゴンから距離を取った。

「なめやがって……!」

 俺はドラゴンから二十数メートルほど離れた地点で大きな舌打ちを打った。
 ドラゴンは俺のことを殺せたはずだ。その柔軟かつ硬度の高い首と尻尾を使えば、反動で静止していた俺のことを粉々にできたはずなのだ。
 なのに殺さなかった。それはどうしてか。答えは簡単だ。俺はなめられているのだ。現に今も目の前のドラゴンの口角がニヤリと上がっていることがわかる。

「ただ立っているだけに見えるが……隙がないな」

 首がダメなら尻尾や手足を斬ろうかと考えたが、その体格や根本的な身体能力の差を考えると、もう少し様子を見る必要がありそうだった。そのまま無策で突っ込んでも無駄死にするだけだ。ここはあえて攻撃を受たせて攻撃のパターンと癖を見極めた方が良さそうだな。

「……よし。かかってこい。その余裕混じりの笑顔を絶望に変えてやるよ」

 俺は刀を両手で構え直した。
 目の前に聳え立つは、ダンジョンの最下層を守る名も知らぬドラゴン。
 実力はほぼ同格か、あちらの方が僅かに上。一切の油断をせずに本気で戦うとしよう。最近は敗北こそしていないが明らかに自身の実力不足を感じていたので、これは良い機会だ。高鳴る胸の鼓動でリズムを保ちながら、挑戦者としての気持ちで戦いに臨むとしよう……。
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