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満身創痍の終焉
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両の手を使って刀を構えた俺は、目の前に佇む二足歩行の巨大なドラゴンと対峙していたが、睨み合っている状態が数十秒ほど続いていた。ドラゴンは確かな警戒心を募らせながら、俺が仕掛けてくるのを待っているようだった。
「……軽く仕掛けてみるか」
俺は硬い地面を蹴って、ドラゴンの足元へと向かった。大きな体躯に加えて二足歩行ということもあり、目線を合わせて戦うよりも有利だと考えたからだ。
「グルルル……!」
「やはり体格差が影響しているからか、足元を彷徨かれるのは不快らしいな」
案の定と言うべきか、ドラゴンは怒りに任せた形相で、四本の指が生えた足で俺のことを踏みつけようとしてきたので、俺は的確に攻撃を見極めながら次の手を考える。
「くっ! 上半身よりも下半身の方が強固なのか!」
俺はドラゴンの下半身を斬りつけてダメージを与えようと刀を振るったが、思った以上に鱗が厚いため、その奥の筋肉までは刃が届きそうになかった。
つまり、致命傷を与えるには上半身を攻めるしかないということだ。ドラゴンが油断しているうちに仕掛けるのも一つの手だろう。
「グルァァッ!」
「……まあ、当たり前か。不利になったら主戦場である空に逃げるよな!」
俺が執拗にドラゴンの足元を走り回っていると、ドラゴンは翼を大きくはためかせながら上へ上へと飛んでいったので、俺は咄嗟の判断でドラゴンの刺々しい尻尾に飛びついた。
そして、俺はそのまま若干屈曲した尻尾を踏み台にして上へ飛び、ドラゴンの全身を覆う鱗の間に足を引っ掛けながら、上半身を目掛けて動き続けていく。
空中でドラゴンを野放しにしてしまうと、やりたいようにやられてしまうので悪い判断ではないだろう。
「キシャァァァッ!」
「くっそ! 何もかも壊しやがって!」
しかし、ドラゴンは怒りを体現したような甲高い声をあげると、ダンジョンの天井など関係ないと言わんばかりの勢いで、自身のブレスで破壊した直りかけの穴へ突っ込むと、上層へ向かって突き進んでいく。
どうやら静止するつもりはさらさらないようだ。
「何考えてるか知らねぇが、その前に仕留めてやる。おらァッ!」
「グルルァァァァァッッッッ……!」
俺は胴体の突き出た鱗に左手で捕まりながら空いている右手で刀を握り、切先で胴体を突き刺した。
刀越しに伝わるのは肉を刃を突き立てた時の感触だった。ドラゴンが苦しみの咆哮をあげていることから、相当なダメージが期待できる。
「グルァッ!!」
「っと! 危ねぇ! ノールックでこんな攻撃してくるのかよ……動き続けないと捉えられそうだな」
ドラゴンが視線を上にあげながらもゴツゴツとした掌で俺のことを叩き潰そうとしてきたので、俺はギリギリのところで回避してからドラゴンの肩に飛び乗った。
「にしてもどこまで行く気だ? もう三十層は突破したぞ。何を企んでいるんだ……? これは早めの決着をつけないとな」
俺はグラグラと大きく揺れる足場の上で足を踏ん張りながら、ドラゴンの肩口から頸にかけて数百発の斬撃をお見舞いした。
「グルァ!! グルァ!」
全身を硬くして痛みに耐えながら悲鳴を上げ続けるドラゴンは、俺が放つ無数の斬撃を受けても尚、ひたすら上昇を続けていたことから、無策ではないことがわかる。
「いつ仕掛けてくるんだ——なッ!? ここから急降下する気かよ!」
刹那。ドラゴンはグンっと空中で停止すると、すぐさま上下を反転させて急降下を始めた。
俺は本能的な危機感を孕んだ体の反射に従って、刀を手にしていない左手で、ドラゴンの首元の鱗にしがみついた。今は急停止からの急降下によってかかる全身への負荷に対して抗うことしかできなかったのだ。
「グルルルルル……グルァァァァァァッ!」
「ぐ……ッ! まんまとやられたってわけか!」
ドラゴンはそんな俺の姿を横目で睨みつけると、してやったりと言ったように重低音の雄叫びをあげた。
まさかこれが狙いだったとはな。
今ここで離脱したとしても宙に放たれてしまうし、このスピードを保ったまま地面に衝突すればタダでは済まないだろう。
体勢が整った状態から出ないと空を駆けることは難しいので、今俺にできることはないということだ。
「グルァッ!」
「くそ! 離せ! こんなスピードで墜落したらお前だってタダでは済まないぞ!?」
ドラゴンは時間を重ねるごとにスピードを増していくと、振り落とされまいとする無抵抗な俺の首から下を、右手でガッシリと握りしめた。
さらにその際、俺は刀を手放してしまったことで、完全にドラゴンに主導権を握られてしまう。
どうやら己の命を捨ててまで俺のことを殺す気らしい。
「グルルルァァ!」
「急げ……! 急げ!」
地上に衝突するまで残り数十メートルといったところで、俺は全身に力を込めて逃れようと足掻いた。
ドラゴンもこれから訪れる衝撃に気がいっていたのか、俺のことを握る手はほんの僅かに緩んでいたからだ。
「っし! くそ! 間に合わ——」
「——くッ! カハッッ!!」
既にドラゴンの長い首が先に地面に衝突しかけていたことも相まって、俺は目の鼻の先に地面が迫っているところで離脱に成功したが、それだけだった。
ギリギリでの離脱に成功したからと言って、完璧に難を逃れたわけではないのだ。
「ッッッッ!」
勢いを保ったまま宙に投げ出された俺は、咄嗟に砂煙が巻き上げられている硬い地面の上を受け身を取るようにして体を丸めて転がったが、その衝撃を抑えることはできずに肺の中から全ての酸素が強制的に吐き出され、同時にドス黒い血が喉に絡みつく。
「……ぐぅッ! 左の手足に加えて、何本か肋骨をもってかれたか……痛ぇ……」
やがて壁を破壊するほどの勢いで壁に衝突した俺は、全身を脱力した状態で壁に背中を預けていた。
着ていたくすんだ黒色の袴はボロボロに綻びており、紫色に滲んだ上半身が完全に曝け出されていた。
「全身の打撲もひどいし、生き残れただけラッキーと考えるべきだな……」
少し体を動かすだけでも、全身の筋肉と骨が音を立てて「動くな」と俺に警告を出してくる。
さらに顔面は血と汗で滲んでおり、左目が思うように開かなくなっている。
「あぁ……やつは……? やつは生きているのか?」
俺は袴についたパラパラと細かい砂利石を落としながら、壁に手をついて立ち上がり、深い砂煙の向こうに見える巨大な影が見つめた。
「……グルルルァァァァァッ!」
それから数秒後。振り絞るような咆哮によって砂煙が吹き払われると、そこには全身の鱗がところどころ剥がれ落ち、片翼を半分ほど失ったドラゴンの姿があった。
「俺は運がいいらしい。まさか手放した刀が戻ってくるとはな」
同時に、空中から激しく物が回転するような空気を斬り裂く音が聞こえてくると、俺の真横にソレは突き刺さった。
俺は地面に突き刺さった刀を右の掌で握りしめて力任せに抜き去り、その勢いのままに空中に残った砂塵を横薙ぎに吹き払った。
互いに満身創痍。これで最後の一撃になるだろう。
「さあ……決着といこうか!」
「グルルル……グルルル……グルァァァァァァッッッッ!」
「……甘い!」
仕掛けたのは殆ど同時だったが、勝負は一瞬で決した。
ドラゴンは溜め込んでいたブレスを放ち、俺はブレスに対して真っ向から勝負を挑み、腰を深く落としながら縦横無尽に刀を振るった。
「グル……ァァ……ッッッッ——」
俺はその僅か一秒後にはドラゴンの長い首を根本から断ち切っており、ブレスで焼け焦げた黒髪以外には新しい傷はつかなかった。
「……ははは……勝った……」
仰向けに寝転がった俺は、ぽっかりと穴の空いた天井に右の拳を突き上げると同時に意識を失った。
「……軽く仕掛けてみるか」
俺は硬い地面を蹴って、ドラゴンの足元へと向かった。大きな体躯に加えて二足歩行ということもあり、目線を合わせて戦うよりも有利だと考えたからだ。
「グルルル……!」
「やはり体格差が影響しているからか、足元を彷徨かれるのは不快らしいな」
案の定と言うべきか、ドラゴンは怒りに任せた形相で、四本の指が生えた足で俺のことを踏みつけようとしてきたので、俺は的確に攻撃を見極めながら次の手を考える。
「くっ! 上半身よりも下半身の方が強固なのか!」
俺はドラゴンの下半身を斬りつけてダメージを与えようと刀を振るったが、思った以上に鱗が厚いため、その奥の筋肉までは刃が届きそうになかった。
つまり、致命傷を与えるには上半身を攻めるしかないということだ。ドラゴンが油断しているうちに仕掛けるのも一つの手だろう。
「グルァァッ!」
「……まあ、当たり前か。不利になったら主戦場である空に逃げるよな!」
俺が執拗にドラゴンの足元を走り回っていると、ドラゴンは翼を大きくはためかせながら上へ上へと飛んでいったので、俺は咄嗟の判断でドラゴンの刺々しい尻尾に飛びついた。
そして、俺はそのまま若干屈曲した尻尾を踏み台にして上へ飛び、ドラゴンの全身を覆う鱗の間に足を引っ掛けながら、上半身を目掛けて動き続けていく。
空中でドラゴンを野放しにしてしまうと、やりたいようにやられてしまうので悪い判断ではないだろう。
「キシャァァァッ!」
「くっそ! 何もかも壊しやがって!」
しかし、ドラゴンは怒りを体現したような甲高い声をあげると、ダンジョンの天井など関係ないと言わんばかりの勢いで、自身のブレスで破壊した直りかけの穴へ突っ込むと、上層へ向かって突き進んでいく。
どうやら静止するつもりはさらさらないようだ。
「何考えてるか知らねぇが、その前に仕留めてやる。おらァッ!」
「グルルァァァァァッッッッ……!」
俺は胴体の突き出た鱗に左手で捕まりながら空いている右手で刀を握り、切先で胴体を突き刺した。
刀越しに伝わるのは肉を刃を突き立てた時の感触だった。ドラゴンが苦しみの咆哮をあげていることから、相当なダメージが期待できる。
「グルァッ!!」
「っと! 危ねぇ! ノールックでこんな攻撃してくるのかよ……動き続けないと捉えられそうだな」
ドラゴンが視線を上にあげながらもゴツゴツとした掌で俺のことを叩き潰そうとしてきたので、俺はギリギリのところで回避してからドラゴンの肩に飛び乗った。
「にしてもどこまで行く気だ? もう三十層は突破したぞ。何を企んでいるんだ……? これは早めの決着をつけないとな」
俺はグラグラと大きく揺れる足場の上で足を踏ん張りながら、ドラゴンの肩口から頸にかけて数百発の斬撃をお見舞いした。
「グルァ!! グルァ!」
全身を硬くして痛みに耐えながら悲鳴を上げ続けるドラゴンは、俺が放つ無数の斬撃を受けても尚、ひたすら上昇を続けていたことから、無策ではないことがわかる。
「いつ仕掛けてくるんだ——なッ!? ここから急降下する気かよ!」
刹那。ドラゴンはグンっと空中で停止すると、すぐさま上下を反転させて急降下を始めた。
俺は本能的な危機感を孕んだ体の反射に従って、刀を手にしていない左手で、ドラゴンの首元の鱗にしがみついた。今は急停止からの急降下によってかかる全身への負荷に対して抗うことしかできなかったのだ。
「グルルルルル……グルァァァァァァッ!」
「ぐ……ッ! まんまとやられたってわけか!」
ドラゴンはそんな俺の姿を横目で睨みつけると、してやったりと言ったように重低音の雄叫びをあげた。
まさかこれが狙いだったとはな。
今ここで離脱したとしても宙に放たれてしまうし、このスピードを保ったまま地面に衝突すればタダでは済まないだろう。
体勢が整った状態から出ないと空を駆けることは難しいので、今俺にできることはないということだ。
「グルァッ!」
「くそ! 離せ! こんなスピードで墜落したらお前だってタダでは済まないぞ!?」
ドラゴンは時間を重ねるごとにスピードを増していくと、振り落とされまいとする無抵抗な俺の首から下を、右手でガッシリと握りしめた。
さらにその際、俺は刀を手放してしまったことで、完全にドラゴンに主導権を握られてしまう。
どうやら己の命を捨ててまで俺のことを殺す気らしい。
「グルルルァァ!」
「急げ……! 急げ!」
地上に衝突するまで残り数十メートルといったところで、俺は全身に力を込めて逃れようと足掻いた。
ドラゴンもこれから訪れる衝撃に気がいっていたのか、俺のことを握る手はほんの僅かに緩んでいたからだ。
「っし! くそ! 間に合わ——」
「——くッ! カハッッ!!」
既にドラゴンの長い首が先に地面に衝突しかけていたことも相まって、俺は目の鼻の先に地面が迫っているところで離脱に成功したが、それだけだった。
ギリギリでの離脱に成功したからと言って、完璧に難を逃れたわけではないのだ。
「ッッッッ!」
勢いを保ったまま宙に投げ出された俺は、咄嗟に砂煙が巻き上げられている硬い地面の上を受け身を取るようにして体を丸めて転がったが、その衝撃を抑えることはできずに肺の中から全ての酸素が強制的に吐き出され、同時にドス黒い血が喉に絡みつく。
「……ぐぅッ! 左の手足に加えて、何本か肋骨をもってかれたか……痛ぇ……」
やがて壁を破壊するほどの勢いで壁に衝突した俺は、全身を脱力した状態で壁に背中を預けていた。
着ていたくすんだ黒色の袴はボロボロに綻びており、紫色に滲んだ上半身が完全に曝け出されていた。
「全身の打撲もひどいし、生き残れただけラッキーと考えるべきだな……」
少し体を動かすだけでも、全身の筋肉と骨が音を立てて「動くな」と俺に警告を出してくる。
さらに顔面は血と汗で滲んでおり、左目が思うように開かなくなっている。
「あぁ……やつは……? やつは生きているのか?」
俺は袴についたパラパラと細かい砂利石を落としながら、壁に手をついて立ち上がり、深い砂煙の向こうに見える巨大な影が見つめた。
「……グルルルァァァァァッ!」
それから数秒後。振り絞るような咆哮によって砂煙が吹き払われると、そこには全身の鱗がところどころ剥がれ落ち、片翼を半分ほど失ったドラゴンの姿があった。
「俺は運がいいらしい。まさか手放した刀が戻ってくるとはな」
同時に、空中から激しく物が回転するような空気を斬り裂く音が聞こえてくると、俺の真横にソレは突き刺さった。
俺は地面に突き刺さった刀を右の掌で握りしめて力任せに抜き去り、その勢いのままに空中に残った砂塵を横薙ぎに吹き払った。
互いに満身創痍。これで最後の一撃になるだろう。
「さあ……決着といこうか!」
「グルルル……グルルル……グルァァァァァァッッッッ!」
「……甘い!」
仕掛けたのは殆ど同時だったが、勝負は一瞬で決した。
ドラゴンは溜め込んでいたブレスを放ち、俺はブレスに対して真っ向から勝負を挑み、腰を深く落としながら縦横無尽に刀を振るった。
「グル……ァァ……ッッッッ——」
俺はその僅か一秒後にはドラゴンの長い首を根本から断ち切っており、ブレスで焼け焦げた黒髪以外には新しい傷はつかなかった。
「……ははは……勝った……」
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