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悪臭の帰り道
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「ぁぁ……後少しだ。あそこのダンジョンはモンスターが強くて修行にはなるが、めちゃくちゃな距離があるから行き来が大変だな」
ダンジョンとイグワイア、ひいてはその周辺国の距離は、俺が全力で走っても遠いと感じるほどだ。
あそこの森や草木、大地はもしかす?と未開拓の地域なのかもしれない。全く人が手を加えた様子もないし、強さはそれぞれだが見たことのないモンスターも多数見つかったからな。
「ふぅ……少し疲れたな」
雲ひとつない晴れ渡る空の下に広がる草原の上で俺は立ち止まった。
ここに至るまで休むことなく連続して走っていたので、少しばかり心身に疲れが溜まっていた。
イグワイアにはもう少しで到着するので、ここで一旦休憩を挟むとしよう
「にしても妙だな。ここまでモンスターが全く寄ってこないぞ……」
俺は近くにいた鳥型のモンスターをチラリと見た。
すると、鳥型のモンスターは俺と目が合った瞬間に、退化した翼をバタバタと懸命に動かしながらどこかへ走り去っていってしまった。
ギョッと目を開き、慌てふためくその姿は、まるで目の前に悪魔でも現れたかのようだった。
「モンスターに嫌われるとは……俺は人間の中でも最底辺なのかもしれないな」
俺は気を取り直して再び足を動かし始めることにした。
明らかに格下のモンスターと戦わなくて済むのは好都合だが、その理由が嫌われているという可能性があるとは思いもしなかった。
「そういえば、ドワーフたちは無事に到着したのかなぁ……んぁ? なんだありゃ?」
数日前に勧誘したドワーフたちのことや、名も無き領地で留守番をしてくれているユルメルとニーフェのことを考えていると、イグワイアがある方向からやや左の方向に巨大な塔状の建造物が薄らと見えた。
ここからはかなりの距離があるため、目を細めてじっくりと見ても輪郭程度しか見えないが、見れば見るほど不思議であり巨大な建造物だ。
「というか、あれって名も無き領地がある方向だよな」
俺は右の手のひらを太陽に向けることで、より鮮明にその建造物の姿を捉えようと試みるが、やはりしっかりと捉えることはできなかった。
俺の視力だとあまりにも遠いすぎる距離はさすがに厳しかったようだ。
「……見間違いか」
俺は思考を中心して視線を元に戻した。
もしかしたら、不眠不休で動きすぎて疲れているだけかもしれない。今はイグワイアへ向かうことだけを考えるとしよう。
「よし! 頭を切り替えてまた走るか」
俺は一旦ドラゴンの胃袋で作られたバックパックを草原の上に置き、輝く太陽に向かって大きく深呼吸をした。
そして、肺に入れた空気を吐き切ると同時にバックパックを左の肩で担ぎ直した。
普段の走力に今の体力や精神力を加味すると、到着は十分ほどといったところだろうか。
何はともあれ、到着さえしてしまえば気楽になれるので、取り敢えず今は気力を振り絞って走るとしよう。
◇
「——で、ゲイルさん。悪臭でイグワイアを滅ぼすおつもりではありませんよね? いきなり窓から王室に入ってきたかと思ったら変な服を着てるし、変なバックパックを持ってるし……一体なんですか、それ……?」
クララ女王は左手の人差し指と親指で形が変わるほど強く自分の鼻を摘んでいた。
少しでもその悪い空気を吸わまいと、口をあまり開かずにボソボソと話している。
「いきなり入ったのは謝ります。申し訳ありませんでした。ですが、これはアルファたちの外傷を癒やすことができるかもしれないモノなんです。この中にはダンジョンの最奥に出現するドラゴンの内臓や肉塊が詰め込まれていて、これをうまく体に取り入れることで身体の活性化が望めます」
俺は真っ赤な血で染まったバックパックを真っ赤なカーペットが敷かれた床の上に置いた。
そして、中から内臓や肉塊、眼球や舌など、それぞれの得た部位を一つずつ取り出して、クララ女王に見せつけていく。
「ぅぅ……っその……も、もうわかりましたから、しまってくださると助かります……」
「あ、すみません。もうこっちを向いても大丈夫ですよ」
クララ女王は口元を右の手のひらで押さえると、窓を開いて大きく深呼吸をしていた。
新鮮な空気を取り入れたいほど気持ち悪いのだろう。
まあ、俺が見ても禍々しく気持ち悪いので、常人が見たら当然か。
「それで、体に取り入れるとおっしゃっていましたが……まさか……!」
「ええ、そのまさかです。そうすれば全身の生傷はおろか、古傷でさえ簡単に癒えるんです。アルファの傷はあまりにも深すぎるのでまだわかりませんが、ガンマとベータの傷は完全に消すことが可能でしょう」
「そんなことが可能なのですか……!?」
クララ女王は目を見開くと同時に、本当に驚いたというような表情を浮かべて半歩ほど後退った。
「まあ、モンスターの肉を食べなければいけないので、最初のうちは体が拒否しますけどね。その後に全身に死を覚悟するほどの激痛が走ります。ですが、アルファとガンマとベータの三人にこの肉を食べさせることができれば、必ず良い結果を迎えることができるでしょう」
俺は隠すことなく正直に伝えた。
激痛が走ることやモンスターの肉だということを隠しても良かったのだが、やはりクララ女王は三人の過去や現在の心境について俺より遥かに詳しいので、真実を伝えずに隠すのは失礼だと考えた。
「……つまり、私に嘘をつけということですか?」
「まあ、簡潔に言えばそういうことです」
クララ女王の全身は窓から差し込む陽の光に照らされていた。眩しさから顔色を伺うことはできないが、その口調から選択に悩んでいることはすぐに伝わった。
「激痛というので死ぬことはありますか? また、モンスターの肉塊を体に取り込むことによる後遺症は残りますか?」
「両方とも不明です。少なくとも俺は無事でした。完全に砕けた骨も潰れかけていた内臓も元通りになりました」
危機的な状況に追い込まれたからこそ、俺はモンスターの肉を喰っていたが、クララ女王の言う通り冷静に考えてみると、死の危険性や後遺症が残る可能性もあるのかもしれないな。
「その言葉、信じても良いのですか?」
クララ女王は胸の前で両の指を組むと、潤んだ瞳で俺のことを見てきた。
「彼らがその痛みに耐えることができるとあなたが信じられるのなら、俺の言葉は真実になるでしょう」
「……私が、信じる?」
「ええ。彼らは長年連れ添ってきたあなたの専属の護衛でしょう? 信じてみても良いのではありませんか?」
クララ女王と三人は数年間に渡って、楽しいことも苦しいことも悲しいことも嬉しいことも分け合ってきたのだろう。まるで家族のように。
例え結果がわからなくとも、信じてみる価値は十全にあるだろう。
「……そう、ですね……。信じます。私はアルファとガンマとベータのことを信じます。三人に嘘をつくのは心苦しいことですが、三人のためを思えばやれる気がします!」
クララ女王は嘘をついてしまう自分のことを肯定するように、何度も首を縦に振っていた。
「ふふっ……。では、これをどうぞ。火で軽く炙って、家畜の肉とでも嘘をついて食べさせてください」
俺はバックパックの中からクララ女王の頭よりも大きい肉塊を取り出した。俺が食べたものよりも何回りも大きなものだ。
「その口振りだと、ゲイルさんはついてきてくださらないんですか?」
「当たり前でしょう。あなたは三人にとっての大切なパートナーなんですから。っしょっと……それじゃ、俺は部屋に戻りますね」
「あっ! ちょっ——」
床に置いていたバックパックを左手で持ち直した俺は、クララ女王に止められる前に部屋を後にした。
後は俺がいなくてもなんとかなるだろう。苦楽を乗り越える場面に部外者は必要ないのだ。
「さて……風呂で全部の水洗いを終えたら部屋に戻ってぐっすり眠るとするか」
あまりにもバックパックとその中にあるモノが臭いので、まずは王宮が誇るだだっ広い風呂に向かうとしよう。
ダンジョンとイグワイア、ひいてはその周辺国の距離は、俺が全力で走っても遠いと感じるほどだ。
あそこの森や草木、大地はもしかす?と未開拓の地域なのかもしれない。全く人が手を加えた様子もないし、強さはそれぞれだが見たことのないモンスターも多数見つかったからな。
「ふぅ……少し疲れたな」
雲ひとつない晴れ渡る空の下に広がる草原の上で俺は立ち止まった。
ここに至るまで休むことなく連続して走っていたので、少しばかり心身に疲れが溜まっていた。
イグワイアにはもう少しで到着するので、ここで一旦休憩を挟むとしよう
「にしても妙だな。ここまでモンスターが全く寄ってこないぞ……」
俺は近くにいた鳥型のモンスターをチラリと見た。
すると、鳥型のモンスターは俺と目が合った瞬間に、退化した翼をバタバタと懸命に動かしながらどこかへ走り去っていってしまった。
ギョッと目を開き、慌てふためくその姿は、まるで目の前に悪魔でも現れたかのようだった。
「モンスターに嫌われるとは……俺は人間の中でも最底辺なのかもしれないな」
俺は気を取り直して再び足を動かし始めることにした。
明らかに格下のモンスターと戦わなくて済むのは好都合だが、その理由が嫌われているという可能性があるとは思いもしなかった。
「そういえば、ドワーフたちは無事に到着したのかなぁ……んぁ? なんだありゃ?」
数日前に勧誘したドワーフたちのことや、名も無き領地で留守番をしてくれているユルメルとニーフェのことを考えていると、イグワイアがある方向からやや左の方向に巨大な塔状の建造物が薄らと見えた。
ここからはかなりの距離があるため、目を細めてじっくりと見ても輪郭程度しか見えないが、見れば見るほど不思議であり巨大な建造物だ。
「というか、あれって名も無き領地がある方向だよな」
俺は右の手のひらを太陽に向けることで、より鮮明にその建造物の姿を捉えようと試みるが、やはりしっかりと捉えることはできなかった。
俺の視力だとあまりにも遠いすぎる距離はさすがに厳しかったようだ。
「……見間違いか」
俺は思考を中心して視線を元に戻した。
もしかしたら、不眠不休で動きすぎて疲れているだけかもしれない。今はイグワイアへ向かうことだけを考えるとしよう。
「よし! 頭を切り替えてまた走るか」
俺は一旦ドラゴンの胃袋で作られたバックパックを草原の上に置き、輝く太陽に向かって大きく深呼吸をした。
そして、肺に入れた空気を吐き切ると同時にバックパックを左の肩で担ぎ直した。
普段の走力に今の体力や精神力を加味すると、到着は十分ほどといったところだろうか。
何はともあれ、到着さえしてしまえば気楽になれるので、取り敢えず今は気力を振り絞って走るとしよう。
◇
「——で、ゲイルさん。悪臭でイグワイアを滅ぼすおつもりではありませんよね? いきなり窓から王室に入ってきたかと思ったら変な服を着てるし、変なバックパックを持ってるし……一体なんですか、それ……?」
クララ女王は左手の人差し指と親指で形が変わるほど強く自分の鼻を摘んでいた。
少しでもその悪い空気を吸わまいと、口をあまり開かずにボソボソと話している。
「いきなり入ったのは謝ります。申し訳ありませんでした。ですが、これはアルファたちの外傷を癒やすことができるかもしれないモノなんです。この中にはダンジョンの最奥に出現するドラゴンの内臓や肉塊が詰め込まれていて、これをうまく体に取り入れることで身体の活性化が望めます」
俺は真っ赤な血で染まったバックパックを真っ赤なカーペットが敷かれた床の上に置いた。
そして、中から内臓や肉塊、眼球や舌など、それぞれの得た部位を一つずつ取り出して、クララ女王に見せつけていく。
「ぅぅ……っその……も、もうわかりましたから、しまってくださると助かります……」
「あ、すみません。もうこっちを向いても大丈夫ですよ」
クララ女王は口元を右の手のひらで押さえると、窓を開いて大きく深呼吸をしていた。
新鮮な空気を取り入れたいほど気持ち悪いのだろう。
まあ、俺が見ても禍々しく気持ち悪いので、常人が見たら当然か。
「それで、体に取り入れるとおっしゃっていましたが……まさか……!」
「ええ、そのまさかです。そうすれば全身の生傷はおろか、古傷でさえ簡単に癒えるんです。アルファの傷はあまりにも深すぎるのでまだわかりませんが、ガンマとベータの傷は完全に消すことが可能でしょう」
「そんなことが可能なのですか……!?」
クララ女王は目を見開くと同時に、本当に驚いたというような表情を浮かべて半歩ほど後退った。
「まあ、モンスターの肉を食べなければいけないので、最初のうちは体が拒否しますけどね。その後に全身に死を覚悟するほどの激痛が走ります。ですが、アルファとガンマとベータの三人にこの肉を食べさせることができれば、必ず良い結果を迎えることができるでしょう」
俺は隠すことなく正直に伝えた。
激痛が走ることやモンスターの肉だということを隠しても良かったのだが、やはりクララ女王は三人の過去や現在の心境について俺より遥かに詳しいので、真実を伝えずに隠すのは失礼だと考えた。
「……つまり、私に嘘をつけということですか?」
「まあ、簡潔に言えばそういうことです」
クララ女王の全身は窓から差し込む陽の光に照らされていた。眩しさから顔色を伺うことはできないが、その口調から選択に悩んでいることはすぐに伝わった。
「激痛というので死ぬことはありますか? また、モンスターの肉塊を体に取り込むことによる後遺症は残りますか?」
「両方とも不明です。少なくとも俺は無事でした。完全に砕けた骨も潰れかけていた内臓も元通りになりました」
危機的な状況に追い込まれたからこそ、俺はモンスターの肉を喰っていたが、クララ女王の言う通り冷静に考えてみると、死の危険性や後遺症が残る可能性もあるのかもしれないな。
「その言葉、信じても良いのですか?」
クララ女王は胸の前で両の指を組むと、潤んだ瞳で俺のことを見てきた。
「彼らがその痛みに耐えることができるとあなたが信じられるのなら、俺の言葉は真実になるでしょう」
「……私が、信じる?」
「ええ。彼らは長年連れ添ってきたあなたの専属の護衛でしょう? 信じてみても良いのではありませんか?」
クララ女王と三人は数年間に渡って、楽しいことも苦しいことも悲しいことも嬉しいことも分け合ってきたのだろう。まるで家族のように。
例え結果がわからなくとも、信じてみる価値は十全にあるだろう。
「……そう、ですね……。信じます。私はアルファとガンマとベータのことを信じます。三人に嘘をつくのは心苦しいことですが、三人のためを思えばやれる気がします!」
クララ女王は嘘をついてしまう自分のことを肯定するように、何度も首を縦に振っていた。
「ふふっ……。では、これをどうぞ。火で軽く炙って、家畜の肉とでも嘘をついて食べさせてください」
俺はバックパックの中からクララ女王の頭よりも大きい肉塊を取り出した。俺が食べたものよりも何回りも大きなものだ。
「その口振りだと、ゲイルさんはついてきてくださらないんですか?」
「当たり前でしょう。あなたは三人にとっての大切なパートナーなんですから。っしょっと……それじゃ、俺は部屋に戻りますね」
「あっ! ちょっ——」
床に置いていたバックパックを左手で持ち直した俺は、クララ女王に止められる前に部屋を後にした。
後は俺がいなくてもなんとかなるだろう。苦楽を乗り越える場面に部外者は必要ないのだ。
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