追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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緊急事態?

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 風呂に入り終えてベッド身を委ねてから早一時間が経過していた。
 俺は何とか疲れに抗って意識を保った状態で、がくるのをジッと待っていた。
 クララ女王の気配は既にアルファとガンマとベータがいる部屋にあるので、おそらくもうすぐ始まるのだろう。

「おっ……始まったか……。人の苦しむ声ってのは中々心にくるものだな」

 その時は突然訪れた。
 三人の気配が小さくなると同時に、苦しんでいることが瞬時に理解できるほどの悲鳴が王宮内に響いた。
 その声によって、木々で羽を休める小鳥たちが一気にバサバサと飛び始め、王宮に仕える多くの人間が戸惑いと焦燥を孕んだ声を上げながら、王宮内をドタバタと走り回った。
 俺とクララ女王以外は今回の件について全く把握していないので、そうなるのも仕方がない。

「あの古傷の具合だと一時間は痛みが継続しそうだが、治った時には笑顔になってくれるといいな」

 俺は呑気にそんなことを考えているが、実際は目の前の問題から目を背けているだけだ。
 苦しんでいるのに救えないという現実を目の当たりにしてしまうと、自然と自責の念に駆られてしまうので、俺は時にはこうして先のことを考えるようにしている。
 これが良いことなのか悪いことなのかは自分ではわからないが、こうでもしないと気が滅入ってしまうのだ。

「それにしても眠たいな。今日は久しぶりの本気の戦闘だったしなぁ……寝るか」

 枕を横によけてベッドの上で大の字になっていると、ものの数秒で上瞼が重たくなってきたので、俺はここいらで眠ることにした。
 ダンジョンの中で数年間過ごしていたこともあって、人間の悲鳴程度では俺の睡眠欲は阻害されないのだ。
 一時間ほどの軽い仮眠を取るとしよう。目が覚めた時に良い結果が訪れていることを願って……。

「——ゲイル殿ですか!? お疲れのところ申し上げにくいのですが、クララ様から急いで部屋に来てほしいという言葉を預かっております! 御同行願えますか!」

「んぁ……? あ、あぁ、別に構わないが……って、おい。やけに強引だな……」

 既に頭が眠る体制に入っていた俺の意識は強引に醒めさせられた。
 というのも、目から下の鼻を除いた部分が髭で青くなっているおっさんが、俺の部屋の扉を力強く蹴破ったかと思いきや、俺の返事を聞く前に部屋着の首元を掴んでどこかへ連行し始めたからだ。

「貴方もこの悲鳴が聞こえるでしょう? 現在、その悲鳴の発信源となるクララ様がいる部屋は既に施錠されており、貴方以外の人間を部屋に入れる気はさらさらないようです。そこで、女王様がかなり焦った様子でしたので、ワタシが参上した次第であります。何もないと良いのですが……」

 青髭のおっさんはその剛腕で俺のことを引きずりながら、結構なスピードで廊下を走っていた。
 幅も長さもある広い廊下には多くの使用人や兵士が困惑した様子でウロウロしていたが、青髭のおっさんの姿を見た途端顔色を変えると、ザッと道を開くように端へ避けた。

「何もないから安心しろ。クララ女王は深く考えた末に決断したんだ。そのうち全ての説明が行われるだろうから今はジッとしていろ」

 ただ、モンスターの肉に生傷や古傷を回復させる特性があるということについて知らせるかどうかは後々考えるとしよう。

「で、ですが……!」

「あんたがクララ女王のことを思っているなら今は俺の言葉を信じろ。付き合いは長いんだろう?」

 青髭のおっさんは通常の使用人とは明らかに格が違うことがわかる上等な服を着ている。
 戦闘ができる感じは全くないが、その行動力や畏まった言葉遣いから察するに、名のある役職持ちで間違い無いだろう。

「え、ええ、まあ……。ワタシはクララ様がご誕生なさる前からイグワイアに仕えております故、付き合いの長さは王宮でも一、二を争うかと思います」

「そうだろ? 見たところあんたはクララ女王とその護衛の三人にも嫌悪感を抱いていなさそうだし、目下の人間からの信頼も厚いと見た。そこでだ。後は俺がなんとかするから、あんたには王宮内の沈静化を頼みたい。もうだ?」

 俺の言葉を聞いた青髭のおっさんが話の途中で手の力をスッと緩めたせいで、俺は重力に従って床に落下したが、俺はすぐに立ち上がって気にせずに言葉を続けた。

「わかりました。クララ様があなたを信頼なさっているのならそれに従うまでです。しかし! ワタシはあなたのことを良く知りませんので、事態が収束したら話を聞かせていただきますからね!」
 
「おう。また後でな」

 青髭のおっさんは肩幅と同じくらいの広さに足を開くと、俺に向かってビシッと指を差してきた。
 そして、俺が返事をして頷いたことを確認すると、来た道を戻るようにして走っていった。
 俺への信頼は殆どなさそうだったが、緊急事態ということで納得してくれたようだ。このような状況下でも、己の感情に左右されず臨機応変な対応ができるとは、さすが十年以上も王宮に仕えているだけあるな。

「はぁぁぁぁ……俺もいくかぁ……」

 俺は大きくため息をついた後、欠伸混じりの声を出しながら足を踏み出した。
 自分が苦しむのは一向に構わないが、見知った人間が苦しみに悶える姿はあまり見たくないので、あまり気が進まない。
 だが、ここまで来た以上引き返すわけにはいかないので、沈む気持ちをため息と欠伸で消化して、先に進むとしよう。
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