追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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バベル

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「は……? つまり、外の建物は全部ドワーフが造ったってことか? 外壁もこのバベルとやらも、統一された家々も全部か?」

「うん。全部だよ!」

 名も無き領地の中心部にドンっと聳え立つバベルを目指しながら、俺はユルメルに聞きたいことを好きなだけ聞きまくっていた。

「じゃ、じゃあ、ドワーフに毛が生えている理由はなんだ?」

「ニーフェが魔法で造った度数の高いお酒を飲んだおかげで体が活性化したらしいよ。だから、ドワーフたちはみんな元気すぎるくらい元気だし、お酒を造ってくれたニーフェにはすっごく感謝してる。でも、そもそもニーフェはゲイルに感謝してるから、ドワーフたちも自然とゲイルを崇めてるんだ」

 俺を崇めるにしてもそんなに自然に話が進むものなのだろうか。確かに俺はドワーフのことをここに勧誘したが、それ以外は特に何もしていない。俺を崇めるに至った別の理由がありそうだな。

「……そうか」

 特に言葉も見当たらず、俺は小さな声で返事をするにとどまった。
 これは慣れるのに時間がかかりそうだな。

「っていうか、ゲイルばっかり質問してるけど、その背中の女の子は誰なの? 魔力もちょっと弱いから心配になるよ」

 ユルメルは俺に背負われているヘレンの顔を覗き込んだ。

「今更か。この子はヘレン。胡散臭い商人に押し付けられたんだ。獣人の病持ちで体が弱いらしいが、今のところ命に別状はない。バベルについたら、まずはこの子の容態を確認しよう」

 死がすぐそこに迫っているというような容態ではないため、今は焦る必要はないだろう。
 むしろ、ゆっくりと眠ってくれているので、今は安静に運ぶ必要がある。

「わかった! まだ聞きたいことはあるけど、バベルに到着したし、話の続きはまた後でね」

 ユルメルはすぐ目の前に聳え立つバベルを、下から上までゆっくりと見やった。
 全体的にくすんだ白色をしているバベルは、どこから見ても目を引くこと間違いなしだろう。

「そうだな。早速中に入りたいんだが、入り口はあそこか?」

 円形筒型のバベルには、丸みを帯びた大きな穴がぽっかりと一つだけ開いていた。
 さらに、バベルの周辺には、鮮やかな緑色をした様々な高さの草木が生い茂っていた。というか、今更気がついたが、出発前は乾燥しきっていた硬い地面も、水気を帯びたほんのり柔らかさのある良質な地面に変わっていた。

「そう! ほら、ついてきて!」

「……ほう? こりゃあ凄いな」

 ユルメルを追ってバベルの中に入ると、そこには今までに見たことのないような光景が広がっていた。

「中はこんな風に螺旋状の階段になっていて六十階建てだよ。それぞれの階層に何個か部屋があって、僕たちの部屋は六十階に……あれ? ゲイル? ぼーっとしてどうしたの?」

 ユルメルはテンポ良く楽しそうに話していたが、俺が言葉を発さないことに気が付いたのか、俺の服の袖にくいくいと引いてきた。
 ちなみに、ダンジョンの最下層にいたドラゴンに袴を散り散りにされたため、今の俺はイグワイアに仕える執事の正装である、黒のタキシードを着用している。
 正装と言っても、かなり着崩しているため台無しだ。

「……いや、六十階建てで階段とは、言っちゃあアレだが、中々面倒だと思ってな」

 初見だと、バベル内の中心にある謎の円柱を軸に、周囲をめぐりなが上昇することができる螺旋階段に惚れ惚れとしたが、説明を聞くとどうしても面倒臭さが優ってしまう。

「ふっふっふっ……そこは安心だよっ! ほら、ここを見て! ここにこうやって手を当てるとね……」

「この円柱がどうした? バベルを支えるただの柱だろ?」

 楽しげだがどこか不敵な笑みを見せたユルメルは、何の変哲もない柱に右の手のひらを軽く当てた。
 それから僅か数秒のことだった。柱の中からガタガタと何かを運搬するような音が聞こえ始めた。

「もう来るよ!」

 ユルメルは何かを確認してからすぐに手のひらを柱から離すと、ワクワクした様子で俺に言った。

「もう来るって何が……っ! おお、なんだこれ!」

「凄いでしょ! 正式名称は魔力式運搬装置って言うらしいんだけど、ドワーフたちはエレベーターって呼んでたよ。柱に擬態させたこの中には、見ての通り人が十五人くらい入れる部屋があって、中にあるボタンを押して行きたい階層を指定すると、短い時間でそこまでいけるんだ!」

 驚きから思わず飛び跳ねた俺を見て、ユルメルは簡潔かつ丁寧に説明をしてくれた。
 頭が回らないせいで半分以上理解することができなかったが、とにかく凄いものだということは一眼で理解した。

「……よくわからんが、乗ってみてもいいか? いや、乗る」

 俺はユルメルの返事を聞く前に、エレベーターとやらに乗り込んだ。
 部屋はそこそこの広さがあり、色はくすんだ白色のバベルと同系色だった。
 壁一面に1~60までの数字が書かれたボタンがあり、本当にどこでもいけるのだとわかる。
 
「ゲイル。60を押して。上でニーフェがゲイルが帰りをずっと待ってるから、早く顔を出してあげよう!」

「わかった。ニーフェにはかなり無理をさせただろうし、礼を言わないとな」

 俺はユルメルの言葉通り60を押した俺は、閉じていく扉を見ながら聞いた。
 エレベーターはほとんど音を立てずに上昇していく。

「僕も頑張ったよ? ドワーフたちにお酒を分配したり、ゲイルのこれまでの戦いと功績を布教したりしたよ! ニーフェはゲイルの凄さを全てのドワーフに毎夜毎晩言い聞かせてたしね! おかげでドワーフたちはゲイルの大ファンだよ!」

「お前たちか、数百人のドワーフたちを狂信者にしたのは」

 堂々と言い放ったユルメルの頭を、俺は手のひらで軽く叩いた。
 何か外的要因があるとは思っていたが、まさかこんな近くに潜んでいたとはな。

「痛っ……あ、あながち間違ってないかも!」

 ユルメルはぺろっと赤い舌を出すと、悪戯な笑みを浮かべた。

「……あ? もう到着か。こうも到着が早いと螺旋階段を造った意味がわからなくなってきたな」

「——ゲイルさーーーーん! お久しぶりです! 私、本当に心配で心配で夜も眠れませんでした! あっ、?」

 開かれたエレベーターの扉から出て、広々とした部屋に一歩足を踏み出すと、ニーフェは僅か二秒足らずで俺の前に姿を現した。
 そして、すぐに俺のことを歓迎し、嬉しそうに笑みを浮かべた。
 かと思いきや、最後には冷え切った口調で、俺の背にいるヘレンのことを睨みつけた。

「すまない。魔法でこの子の容態を確認してくれないか? かなり弱っているようだから、温かい食事と新鮮な水を頼む」

 ニーフェの気持ちもわかるが、今はそれに付き合っている場合ではないので、俺はヘレンのことをニーフェに預けながら簡潔に指示を飛ばした。
 本来は俺が処置を施すべきなのだろうが、魔法も使えないことに加えて部屋の構造も知らないので、ニーフェに任せることにしたのだ。

「わ、わかりました! ユルメルさん、お手伝いお願いします」

 ニーフェは俺の言葉に緊急性を見出したのか、ヘレンのことをギュッと腕に抱えると、ユルメルに応援を要請した。

「う、うん! 任せて!」

 本当は特に緊急性はないのだが、二人は焦った様子で言葉を紡いだ。

「帰って早々すまないな」

「いいんです! ゲイルさんは疲れているでしょうし、ゆっくりお風呂にでも入っていてください! この子の処置が終わったら食事にしましょう。では」

 俺の言葉にニーフェは首を横に振ると、すぐさまユルメルを連れて部屋の奥へ走っていった。

「……俺、風呂に入っていいのかな」

 本人に言われたのなら別にいいのだろうが、どこか罪悪感を感じてしまっていた。まあ、ヘレンの命さえ無事であればそれで良いだろう。
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