追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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「つまり、ゲイルさんはこの子のことを商人から無理やり押し付けられたということですね。何か詳しい背景はわかりますか?」

「自分の名前はわかるみたいだが、それ以外のことは不明だ。奴隷として売られたのなら故郷に帰してあげたいが、それすらもわからないからな」

 俺はため息混じりの口調で向かいに座るニーフェに言った。
 当の本人であるヘレンは、少し離れたテーブルでユルメルにスープを飲ませてもらっていた。
 俺が風呂から上がった時点で主食とおかずを食べ終えていたので、どうやら食欲は十二分にあるようだ。

「故郷に帰すのは酷ではありませんか……」

 ニーフェは目を落としながら呟いた。
 残酷な選択であることを理解しているのだろう。

「確かにな。自分のことを売った故郷に帰したところで何が起こるかは明白だ。だが、本人が望むのなら、俺たちはヘレンのことを故郷に送り届ける義務がある。割り切るしかない」

 元々、ヘレンが故郷から奴隷として売り出されていた場合、ヘレンのことを故郷に帰したところで、未来は明るくないだろう。奴隷堕ちした人間を見る世間の目は、本人が思っている以上に冷たいものだ。
 ただし、イグワイアのアルファとガンマとベータのように、善良な人の心を持った権力者に購入されたのなら話は別だ。

「そう、ですよね……。では、ヘレンさんが私たちに心を開いてくれたら、今の話を持ちかけてみますか」

「ああ。今は仲を深めることに重きをおいた方が良さそうだな。同時に病の治療も並行して行おう。頼めるか?」

 俺は苦しげな顔をしているニーフェに向かって、一つの願いを預けた。
 土地を潤したり酒を造ったり、色々と大変だとは思うが、俺はニーフェにヘレンのことを頼むことにした。
 ニーフェに任せれば安心だろうという俺の独断になってしまったが、ニーフェは柔らかい笑みを浮かべてヘレンのことを見つめているので、適度な距離で寄り添うことができるだろう。

「わかりました。私がヘレンさんの面倒を見ます。ですが、私も忙しくて手が回らないことがありますので、その時はお二人に頼みますね」

 ニーフェはそう言ってコクリと頷くと、ユルメルとヘレンがいるテーブルの方へ向かっていった。
 二人というのは俺とユルメルのことだろう。十中八九ドワーフのことではない。

「少し街の様子でも見に行くか」

 本当は良くないのだが暇になってしまったので、俺は三人のことを置いて一人で街の様子を見に行くことに決めた。
 俺は肩下げのカバンは適当にテーブルの上に置いてから椅子から立ち上がり、懐にしまっていた一枚のコインを凝視した。何の柄も模様もない銀色のコインだ。どこか懐かしいような魔力を感じるが、その正体はわからない。

「……そのうちわかるし、今はいいか」

 俺は部屋を後にして、一人でエレベーターに乗り込んだ。
 今は街を散策するとしよう。どれだけの変化があったのか、この目で確かめてみたいからな。





「それにしても、とてつもない発展を遂げたな」

 俺はドワーフたちの狂気的かつ熱い視線を無視しながら、名も無き領地を歩き回っていた。

「——おや? ゲイルさん……? 帰還したとの噂が流れておったが、まさか本当だったとはのぅ」

 俺は突如として前方から歩いてきた一人のドワーフに声をかけられた。
 どこか聞き覚えのある古臭い口調だったが、誰なのかまではわからなかった。

「……すまない。あなたは……?」

 数秒間思い出そうと努力をしたが、結局無理だったため、俺は素直に正体を聞くことにした。
 そもそもドワーフは元々似たような見た目をしていたので、パッと見ただけでわかるはずがないのだ。
 しかも、今は全員が剛毛を全身から生やしているので、ますますわからない。

「何をおっしゃられる! ワシはドワーフ族の最年少にして、名も無き領地の警らをしておる、ワイナルドゥエムじゃよ!」

「あぁ! ワイナルドゥエムさんでしたか。どうも、お久しぶりです」

 ドンっと目の前で胸を張ったドワーフの正体は、洞穴で見張り番をしていたワイナルドゥエムさんだった。
 他のドワーフとは違って髭が薄らと青みがかっている。

「やっと思い出されたか! いやぁ、貴方様のおかげでドワーフ族は安泰じゃよ。我々下界の者は感謝の念が絶えぬわい。どわっはっはっはっはっ!!」

 ワイナルドゥエムさんは口を大きく広げて豪快に笑うと、ばんばんと俺の肩を叩いてきた。

「あの、ところで下界ってなんですか?」

 俺は叩かれる衝撃に目を細めながら、ワイナルドゥエムさんに質問した。

「下界とはバベル以外の場所を指す言葉じゃ。つまり、下界の者というのは、ゲイルさん御一行以外の者ということじゃな! ワシを含めてな」

 下界という言い方をすると、どうも俺たちが神のような立場にいるように感じてしまうが、ドワーフたちがそれで負い目を感じないのなら、別にそれで良いのだろう。
 できれば対等でありたいが、これから国としての立ち上げを目指す以上、必要なことなのかもしれない。

「そういうことですか。ところで、俺からワイナルドゥエムさんに頼み事があるんですけど……」

「む? 何用かのう?」

 俺が一つ咳払いをして場の空気を整理すると、ワイナルドゥエムさんは肩を叩く手を静止させて、俺の顔をじっと見てきた。
 髭の奥で唇を尖らせている。

「俺が思ったよりも名も無き領地が広いみたいで、少し地形と構造を理解するのが大変なんです」
 
「ふむ。それで?」

 ワイナルドゥエムさんは首を数回縦に振ると、胸の前で剛腕を組んだ。

「俺のことを案内してくれませんか?」

 俺は照れ恥ずかしさを胸に秘めながら言った。
 自分の領地の地形と構造を理解できずに住民に案内してもらうなんて、恥ずかしいったらありゃしない。
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