追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!

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出発

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「もうご出発なさられるのですね。ゲイルさん」

 名も無き領地ことメシアスから外へと続く正門の前で、ニーフェは涙ぐんでいるが、どこかわざとらしく見えなくもない。
 背後には見送りにきた国中のドワーフたちがいて、ニーフェの隣にはどこか疲れた様子のユルメルがいる。

「ああ。そんな言葉の割には全く悲しそうには見えないな。どうしてだ? 俺のことを慕ってくれているんだろう?」

 自分で言っててかなりむず痒いセリフだが、その表情の理由が気になったので、ここはストレートに聞いてみることにした。

「……黙秘します。それより、ヘレンのことを頼みますね?」

「わかってる。起こさないように慎重に向かうよ」

 朝早いこともあって、ヘレンは俺の背中の上でぐっすりと眠っていた。
 本人の口から直接エースレイブルに向かって良いかどうかの許可は取れていないが、つきっきりで過ごしていたユルメルとニーフェが良いと言ったから問題ないだろう。
 昨日の夕方に国名を定めてからバベルに帰宅し、今朝になるまで、俺はヘレンと少しだけ時間を共にしたが、その間、ヘレンは故郷の話ばかりをしていたので、おそらく帰りたい気持ちがあると俺は踏んでいる。

「ふふっ。それじゃあ、私は朝の支度を済ませないといけないので、少し早いですけどここで失礼しますね」

 ニーフェは頬を朱に染めながら、どこか形容し難いような笑みを浮かべると、一人でに踵を返した。

「なんだ? もう行くのか? 出発までは後少しあるが……」

 出発前にもう少し話でもしようと思っていたのだが、ニーフェは行ってしまうようだ。

「だって、ゲイルさんはお強いですから、どうせすぐに帰還するのでしょう? 私はあなたに全幅の信頼を置いていますから大丈夫です。それでは」

 ニーフェは体を半分だけこちらに向けて小さく笑うと、その長い青色の髪を靡かせながら去っていった。
 ドワーフたちがザッと開けた道を鼻歌を歌いながら歩いていく。

「……何だったんだ」

「はぁぁぁ……ゲイル。僕、何でニーフェがあんなにおかしくなっちゃったのか知ってるよ。聞きたい?」

 俺がニーフェの背中を見ながらポツリと呟くと、ユルメルは俺の服の袖をくいくいと軽く引っ張った。

「それは俺にとって良い話か? 嫌な予感しかしないのだが……」

 ユルメルの顔が昨晩よりも疲れ気味なことから、今朝方、二人の間で何かが起きたことが予想できる。

「んーっとね。ニーフェ、昨日の夜はゲイルが出発しちゃうから少し元気なかったんだけど、今日の朝になって息を吹き返したみたい」

「というと?」

 俺は上目遣いで俺のことを見るユルメルに、話の続きを話すよう促した。

「これはほんの一部分なんだけど……『ゲイルさんが寝てたベッドの残り香を最後まで堪能します!』。『ゲイルさんの使っていた食器を洗って私も使います!』。『ゲイルさんとデートしたスポットを毎日一人で散歩します!』って言ってたよ……はぁぁ……」

 ユルメルはニーフェが時たま浮かべる恍惚とした表情を真似しながら捲し立てた。
 そして、最後には呆れたような大きなため息を一つ吐き、助けを求めるような目で俺のことを見てきた。

「食器を洗ったり、一人で散歩したり、少し良識があるのがニーフェらしいな」

 ヤンデレにも種類があるらしいが、ニーフェは比較的まともな部類のようだ。
 人に迷惑をかけないだけ良しとしよう。俺がニーフェのことを受け入れさえすれば済む話だからな。
 それに、以前よりはかなりマシになった気がする。
 やはりある程度の時間を共にすれば、多少なりとも収まるのだろうか。

「だから、僕的にはゲイルに早く帰ってきてほしいんだ。一人だと精神的に疲れちゃうからね」

 ユルメルは両の手のひらを上に向けて、やれやれと言ったように首を横に振った。

「善処しよう。ところで、ユルメルが背中に差しているそれって……」

 が、しかし、俺はそんなニーフェの言動よりも、気になったことがあった。
 そう。ヘレンを含めた四人でバベルを出発してから、ずっとユルメルが背中に差していた、細く長くしなやかな、まるで”刀”のような形状をしたモノのことだ。

「ふっふっふっ、そのまさかだよ! ゲイルくん! じゃーん! どう? 合間を縫って打ってみたんだ! ゲイルがくれたあの素材、すっごく使いやすかったから、こんなに早く打てたんだー」

 ユルメルは不敵だがどこか楽しげな笑みを溢すと、背中に差していた布に包まれたソレを俺に手渡した。
 そして、腕を組んで自身ありげな様子でうんうんと頷いている。

「……やはり刀だったか。俺のために打ってくれたんだな。時間がないっていうのに悪かったな」

「ううん。確かに少し疲れちゃったけど、僕はものづくりが好きだから」

 ユルメルは疲れた表情から一転して、空に浮かぶ太陽のような眩い笑顔を浮かべた。

「そうか。前回の刀よりも斬れ味も形状も重さも、何もかもが俺にフィットしている。それに……キレイな色合いだ」

 俺はソレを覆う布をハラリと取り払ってから、鞘から刀を抜き去った。
 刀身はブルーブラックとでも言おうか。黒の中に鮮やかな青色が混在しており、互いに邪魔をしていないその色合いは、非常に美しく俺好みだ。
 また、前回の刀よりも全体的に重くずっしりとしており、刀身のしなりが少しだけ強くなっている。
 使用してみなければわからないが、俺について詳しいユルメルのことだ。どうせ使いやすいのだろう。

 俺は古くなった刀を鞘ごと腰から外して、たった今受け取った新しい刀を腰に差しこんだ。
 これで準備は完了だ。ヘレンが両手で俺の首にまとわりついているせいで少し苦しいので、とっとと出発したいところだ。
 空に行けば、少しは和らぐだろうか。

「そういえば、ワイナルドゥエムと族長は来てないのか?」

「二人は『見送る必要なぞありませぬぞ。メシアは最強じゃ!』とか言ってたから、多分来てないよ。」

 ユルメルは生えてない顎髭を撫でるようなフリをしながら、渋く低い声でそう言った。
 あの二人なら来ると思ったのだが、どうやら信頼故の見送りなしということらしい。

「そうか。それじゃあ、俺はそろそろ行くよ。じゃあな」

「ばいばーい! 花火が上がるから飛びすぎには気をつけてねぇー!!」

 俺は背中にいるヘレンを背負いなおしてから、ぐっと地面を踏み込んで真上に跳躍した。
 十、二十、三十と高さを増していき、俺は地上五十メートルのあたりで静止した。

「花火……? おわっ!? ふっ、あの二人が見送りに来なかったのかそういうことか」

 ユルメルの言葉について一瞬思考したその瞬間。
 俺の真上に数百にもなろう真っ赤な花火が打ち上がった。
 驚いた俺が外壁の上に見やると、そこにはワイナルドゥエムと族長がこちらに手を振っている姿が見えた。

「……よっしゃあ! 気合入ったし、全速力で向かうか!」

 目指すはエースレイブル。ドワーフが住んでいた崖を越えた先にある奴隷の国だ。
 ヘレンが目を覚ましてしまう前に到着することを目指すか。
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みんなの感想(1件)

なかしゅん
2020.11.22 なかしゅん

めちゃくちゃ面白かったです

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