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ダンジョン探索

オオカミとこんにちは。

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「主様!!主様!!凄かったのデス!!」

 もはや戦いとも言えない一方的な戦闘を終え、俺は初めての戦いの楽しさと充実感を噛みしめていた。 
 実際の俺は戦っていないのだが、それでも十分な迫力があったのだ。

 そんな中興奮した様子のリリスが帰ってきた。

「なんだ、見てたのだ。てっきり果実でも採りに行ってるかと思ったよ。」
「見てたのデスよ!!当たり前デス!!」

 だが、そう言うリリスの口元は、果物の汁でべったりと汚れている。
 冗談のつもりが本当に採取にも行っていた様だ。

 この少ない時間で果物を見つけ、すぐに戻ってきてそれを食べながら見るなんて、随分とリリスらしく思わず苦笑してしまう。

「どうやって倒したのデスか??主様何もしてにように見えたデスけど??」

 だが、そんな自分の口元の汚れに気づくことなく、俺の頭の上をくるくると飛び回りながら弾んだ声で聞いてくる。

「なに、簡単なことだよ。」

 そう言って俺はクロ人形の片手を崩し、霧散させた。

 

「リリスも知ってるだろ。俺の魔法は魔粒子を生み出して操るんだ。」
「知ってるのデスよ!!」

「それは今俺が操ってる黒人形も同じ。これは人のように見えるけどただの魔粒子の集合体だからね。今は一つに固まってるから黒人形という一つの存在として操れるけど、別に黒人形を構成する粒子単位で操ることも出来るんだ。実際木にぶつかったときは治すために、粒子単位で操っていたし。」

「んー?つまりどういうことデスか??」

「つまりね、ゴブリンが殴って霧散したように見えたのは、俺が自分の意思で操ってそう見せただけなんだ。そしてその崩れた部分を構成していた魔粒子は俺がそのまま操って、すぐ横で隙だらけになってるゴブリン達の目や鼻から頭の中に侵入させて、適当に動かしまくっただけだよ。」

「ほぇー、主様最強なのデス!主様ならこの森の覇者になれるのデス!!」

 結構えげつない魔法の使い方だったのだが、それを聞いてもリリスは動揺など一切せず、なんならより物騒な事まで言い出した。

「覇者って…、いや、それにこの魔法全然無敵ってわけじゃないぞ。ゴブリンぐらいの相手なら完勝できるけど、もうちょっと強い魔物相手ならこの魔法だけじゃそう簡単には勝てないだろうし」

「そうなのデスか?」

「相手の体内に侵入したとしても、致命傷を与える前に黒人形から距離をとられたらどうしようもないからね。それに魔物によってはどこが弱点か分からないかもだし、多分俺が気づかないだけで他のも対処のしようはあるだろからね。」

「…そうなのですか。主様が覇者になれば、この森中の果物アチシが独り占めできると思ったのにデス……」

「なんだそれ…」

 考えてることの、スケールが大きいのか小さいのか。
 リリスのそんな野望に思わず苦笑しつつ、俺たちは再び森の中の探索を再開することにした。

 今度は追いかけ回さずに、前よりはゆっくりと。

「あっ、というかリリス。口元食べかすでベタベタだぞ。もう既に森中の果実独り占めしてるんじゃないか?」

「なっ!?もっと早く教えて欲しかったデス!!」

「はっはっは。ごめんごめん。ほら行くぞ!」

「全くもー、待つのデス!!アチシはまだ独り占めしてないデスから!!」


◆◇◆

「無いなー」
「無いのデスー」

 賑やかに探索を再開した俺等だったが、今は一転沈んだ空気が漂っている。

 というのも、出口が一向に見つかる様子が無いのだ。
 既に数時間は経過してるが手掛かり一つみつからない。

 考えてみれば、このバカ広い空間を地道に探すのは馬鹿げていたのかもしれない。

 気分転換に魔物を再び追いかけ回したりもした。
 だが目の前に現れるのは毎回ゴブリンだけ。

 あの図体のでかくて動きが鈍そうだったオークでさえ、見つけるより先に逃げてしまうのに、ゴブリンだけは毎回逃げ遅れている。

 というか、追いかけ回さずに宝箱を探していたときでさえ、宝箱は見つからずゴブリンならば見つけることだって出来たりした。

 もしかして奴ら逃げようとすらしていなかったかもしれない。

 奴らは危機意識という物が低いのか?
 そのくせ毎回驚いた顔をするのだから腹が立つ。

 最初は楽しかった戦闘も、ワンパターンの繰り返しでゴブリンにはいい加減飽きていた。

 そんなわけで今では素直にダンジョンの端まで飛んでいけば良かったと後悔している。
 いや、今からでも遅くないのか?

 なんてことを考えながらも、結局は辞め時を見失い、だらだらと二人で探索していた。

 リリスはたまにふらりといなくなれば、手に一杯の果実を持って帰り、一人で美味しそうに食べたりしていた。

「…一体この体のどこにあんな量が入るんだ?」
「…?主様も食べるデスか?」
「いや、黒人形じゃ食べれないよ。」
「かわいそうにデス!!」

 これまで頻繁に食べているのに、この人形のような体の体型は一切変わってない。
 そんなリリスの不思議な体を考えていたときである。

「ッ!?リリス今の聞こえた?」
「ばっちり聞こえたのデス!こっちなのデス!」

 今まで聞こえていた喧噪とは明らかに異なった、音が聞こえた。
 聞いたことの無い種類の雄叫びと、何かを殴りつけるような音だ。

 黒人形越しなので聞き間違いかとも思い確認したが、リリスの耳にはその方角まで分かったようだ。
 
 速度を上げ、その音のする方へとすぐに向かう。

「いや、またお前等かよ…」

 だがまだ遠目に見えるその現場を見て、俺は思わずため息が漏れた。

 そこにはもはや、お馴染みとなったゴブリンが数匹いたのだ。
 他には魔物の姿が見えない。
 
 そしてよく見ればゴブリン達は体に傷を負い血を流してもボロボロだ。
 更にはゴブリンの周囲には、同族の何体か死体が落ちている。

「仲間討ちか?流石ゴブリンだなぁ…」

 きっと、仲間割れでもしたのだろうと考えた。
 だが奇妙なことに今は地面に向けて、必死に棍棒を振り下ろしているではないか。

「なにしてんだ、こいつら?」
「ッ!?主様、あそこ!!なんかいるデス!!」

 俺の目にはまだ映っていなかったが、リリスが何かを見つけようだ。
 ゴブリン達が振り下ろしている場所を指さしている。

「なんだ?…あれはオオカミか?」

 俺は一度飛ぶのをやめ、木の枝に立ちながら凝視した。
 するとそこには、ゴブリンによって袋叩きにされ瀕死の様のなにかが倒れているのが見えたのだ。
 自分の血だまりで真っ赤に染まっているが、かろうじてそれがオオカミの姿とわかった。

「どうするのデスか?」
「そうだなー、生きてるか分からないけど助けるか。」

 俺は未だに殴られ続けるオオカミを見て助けることにした。
 元気な姿だったならば戦ってみたいと思うが、流石に瀕死の状態なら同情のお気持ちの方が強い。

 それに相手がゴブリンだ。
 横殴りしたところで一切心が痛まない。

 俺は木から飛び降り、そのままゴブリン達の方へと距離を詰める。
 ゴブリン達は随分と夢中になっているようで俺の接近にはギリギリまで気が付かない。

「グギャ―――― !?」

 ふと一匹が目前になってようやく、気が付き声を挙げたが既に遅い。

 俺は黒人形の半身を霧状化にし、オオカミを囲むゴブリン達の頭をすっぽりと覆い隠した。
 そのまま、霧状化した暗黒物質はゴブリンの顔の穴という穴全てに勢い入り込んでいく。

「ギャー」「グッギャー」「ギャギャ-」

 ゴブリン達は苦悶の声を挙げるが、俺は容赦なく頭の中をかき回す。
 前回よりも多く頭の中に流し込んだため、ほとんど暴れること無く、数秒にうちにゴブリン達は息絶えた。

 俺はゴブリン達が死んだ事を一瞥し確認すると、ゴブリン達から魔粒子を取り出して、再び体を作った後すぐに足下で倒れるオオカミを見る。

「…ガゥ…、」

 その力無い声で鳴く魔物は、子供のオオカミのようだ。
 小さな体は自らの血で真っ赤に染まっている。
 さらに棍棒でリンチされ続けたからか、体中の骨が砕け、かろうじてオオカミと分かるほどだらりと体の形が変わっていた。
 
 一目で分かった。
 これはもう助からないと。

「……主様?」

 いつの間にか頭の上に隠れるようにして乗っていたリリスが、不思議な顔で覗き込んでいた。

「あぁ、残念だけど助からなさそうだ。まぁこいつは運が悪かったな」
「???助けないデスか?」

「ん?助けれるならそうするけど、どうしようも無いだろ?」
「分かったのデス!!ならアチシが助けてやるのデス!!」

 そう言うとリリスはオオカミの上に飛び乗った。
 そして俺が止める間もなくオオカミに向け、小さな手のひらを向ける。

「いつも言ってるデス!!アチシは癒やし枠デス!!」

 リリスの魔力が高まっていく。

「いくのデス!!癒やしヒール|なのデス!!」

 リリスがそう叫ぶと、キラキラしたエフェクトと共に暖かな光がオオカミの周り包み込んでいくではないか。
 
「なっ!?」

 光に包まれたオオカミを見て俺は絶句した。

 あの瀕死の状態だったオオカミが、巻き戻しでも見てるかのように傷がどんどんと治っていくのだ。

 しばらくただこの光景を、俺は呆然と見ていた。

「ふぅー終ったのデス!!疲れたのデスー!!」

 数分もの間、こうしていたが気が付くとオオカミはあの悲惨な状態はなんだったのか、傷一つ無い綺麗な体になっているでは無いか。
 あの真っ赤の染まった体も、上空で魔物を観察したときには見なかった雪の様に真っ白な毛をしている。

 この状況を作ったリリスを見ると、汗を拭う様な仕草をしふわふわと飛び上がって頭の上に乗ろうとしていた。

「リリス、お前回復なんて出来たのかよ。」
「当たり前デス!!癒やし枠デスから!!」
「いや、そういう意味だったのかよ…」

 マスコット的な癒やしだと思っていたリリスは、ヒーラーとしての癒やし枠でもあったのか。

 衝撃な事実を飲み込みながら、倒れているオオカミを見る。

 すると丁度意識が戻ったのか、ゆっくりと起き上がりキョロキョロと周りを見回している。

「おい、分かるか?お前を助けてやったんだから、いきなり襲いかかってきたりなんかするなよ。」

 俺では無くリリスが助けたのだが、それは置いておいき俺はかがみながらオオカミに話しかける。

 せっかく助けたのだ。
 戦うことになったら後味が悪い結末になってしまうので、出来ればおとなしくしておいてほしい。

「ガウ!!!!」

 だがそんな心配は杞憂に終った。

 オオカミは黒人形の不気味な容姿を一切怖がること無く、人懐っこい声を挙げながら胸の内に飛び込んできたのだった。
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