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狭間の庭
消えた子ども
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東向きの窓から明るい日差しが差し込んでいる。
食器のカチャカチャいう音が響き、ニュースキャスターが
"今日は一日中晴天です"と告げていた。
なんの変哲もない朝の始まり。
「今日の放課後、マッドたちと約束があるんだ」
無邪気な声だ。
キッチンで洗い物をしていたマライアが顔を覗かせる。
「なんの約束かしら?ママには秘密?」
少年はパンにバターを塗りたくりながら言った。
「秘密じゃないよ。今日中に、ケイト先生にあげるプレゼントを仕上げるんだ。マッドは石に綺麗な色を塗って渡すんだって。
マイケルはリボンを結んだ栞を何種類も作るって言ってた。僕は絵を描くつもり」
「なぜ今日中なの?クリスマスまでまだ七日もあるわよ」
「まあね。ママの言うとおりちょっと早いけど、マッドがせかすんだもの。
ま、僕はプレゼントあげてもあげなくても、どっちでもいいんだけどさ」
少年は鼻を膨らませている。
「まんざらでもないくせに」
水音に交じってマライアの明るい笑い声がした。
少年は頬を赤くして立ち上がり、壁にかかった日めくりカレンダーをむしる。
紙をくしゃくしゃに丸めると、離れた場所にある屑かごに向かって放り投げた。
「ホールインワン!」
「なんだって?」
少年の声に重なるように、テーブルの向かいで朝刊を広げていたボブが大きな声を出した。
目は見開かれ、カップを持った手が空中で止まっている。
「朝から大きな声を出して…
なにかあったの?あなた」
マライアがダイニングに入ってきた。
「昨日の午後、ロックスタウンで男の子が行方不明になったらしい」
(ロックスタウン?)
少年は椅子から飛び上がった。
(市民プラザの別館があるところだ。あそこの三階にある図書館、前にマッドたちと行ったことがあるもの)
「近くじゃない。…その子いくつ?」
マライアが厳しい調子で聞く。
ボブは一瞬、気遣うように息子に目をやった。
「九歳になったばかりだそうだ」
「この子と同じだわ」
マライアがとっさに少年をきつく抱きしめたので、少年は苦しがってジタバタしている。
ボブは新聞を畳むと説明し始めた。
「家族の話によると、カルロス・マイヤー君が近くの郵便ポストに手紙を投函しに出かけたのが午後二時を少し回った頃だそうだ。
ポストから家までは百八十メートル、子どもの足とはいえ往復したってものの数分だろう?
母親は彼がすぐに帰宅すると思っていたんだ」
「…自宅から目と鼻の先で失踪したなんて。ご両親ショックでしょうね」
マライアが悲しそうに言った。
「なにかの事件に巻き込まれたのかしら?…誘拐とか」
「身の代金の要求はないようだよ。目撃者もいない。
文字通り、煙のようにかき消えたんだ」
父親が怒った顔をしているのは珍しかったので、なんとなく口を挟んではいけないような気がして、少年は無言でパンをほおばった。
「こことロックスタウンは五キロと離れてないのよ。なんだか怖いわ……」
マライアの目に怯えた色が浮かんでいる。
「とにかくしばらく子ども一人で外出させないようにしよう。
カルロス君を連れ去った犯人が捕まるまでは」
スーツの上着に腕を通しながら、心配するなと言わんばかりに少年に笑顔を向けて片目をつぶってみせるボブ。
「今日はパパが学校まで送って行く。朝から男二人でドライブなんて最高だろ?それから……
放課後どこかに遊びに行くときは、必ず何人かの友達と複数で行動するんだ。いいね?」
それだけ言うと、車のキーを手にガレージに向かう。
「待ってよ、パパ」
少年は慌てて父親を追って玄関に走り出した。
食器のカチャカチャいう音が響き、ニュースキャスターが
"今日は一日中晴天です"と告げていた。
なんの変哲もない朝の始まり。
「今日の放課後、マッドたちと約束があるんだ」
無邪気な声だ。
キッチンで洗い物をしていたマライアが顔を覗かせる。
「なんの約束かしら?ママには秘密?」
少年はパンにバターを塗りたくりながら言った。
「秘密じゃないよ。今日中に、ケイト先生にあげるプレゼントを仕上げるんだ。マッドは石に綺麗な色を塗って渡すんだって。
マイケルはリボンを結んだ栞を何種類も作るって言ってた。僕は絵を描くつもり」
「なぜ今日中なの?クリスマスまでまだ七日もあるわよ」
「まあね。ママの言うとおりちょっと早いけど、マッドがせかすんだもの。
ま、僕はプレゼントあげてもあげなくても、どっちでもいいんだけどさ」
少年は鼻を膨らませている。
「まんざらでもないくせに」
水音に交じってマライアの明るい笑い声がした。
少年は頬を赤くして立ち上がり、壁にかかった日めくりカレンダーをむしる。
紙をくしゃくしゃに丸めると、離れた場所にある屑かごに向かって放り投げた。
「ホールインワン!」
「なんだって?」
少年の声に重なるように、テーブルの向かいで朝刊を広げていたボブが大きな声を出した。
目は見開かれ、カップを持った手が空中で止まっている。
「朝から大きな声を出して…
なにかあったの?あなた」
マライアがダイニングに入ってきた。
「昨日の午後、ロックスタウンで男の子が行方不明になったらしい」
(ロックスタウン?)
少年は椅子から飛び上がった。
(市民プラザの別館があるところだ。あそこの三階にある図書館、前にマッドたちと行ったことがあるもの)
「近くじゃない。…その子いくつ?」
マライアが厳しい調子で聞く。
ボブは一瞬、気遣うように息子に目をやった。
「九歳になったばかりだそうだ」
「この子と同じだわ」
マライアがとっさに少年をきつく抱きしめたので、少年は苦しがってジタバタしている。
ボブは新聞を畳むと説明し始めた。
「家族の話によると、カルロス・マイヤー君が近くの郵便ポストに手紙を投函しに出かけたのが午後二時を少し回った頃だそうだ。
ポストから家までは百八十メートル、子どもの足とはいえ往復したってものの数分だろう?
母親は彼がすぐに帰宅すると思っていたんだ」
「…自宅から目と鼻の先で失踪したなんて。ご両親ショックでしょうね」
マライアが悲しそうに言った。
「なにかの事件に巻き込まれたのかしら?…誘拐とか」
「身の代金の要求はないようだよ。目撃者もいない。
文字通り、煙のようにかき消えたんだ」
父親が怒った顔をしているのは珍しかったので、なんとなく口を挟んではいけないような気がして、少年は無言でパンをほおばった。
「こことロックスタウンは五キロと離れてないのよ。なんだか怖いわ……」
マライアの目に怯えた色が浮かんでいる。
「とにかくしばらく子ども一人で外出させないようにしよう。
カルロス君を連れ去った犯人が捕まるまでは」
スーツの上着に腕を通しながら、心配するなと言わんばかりに少年に笑顔を向けて片目をつぶってみせるボブ。
「今日はパパが学校まで送って行く。朝から男二人でドライブなんて最高だろ?それから……
放課後どこかに遊びに行くときは、必ず何人かの友達と複数で行動するんだ。いいね?」
それだけ言うと、車のキーを手にガレージに向かう。
「待ってよ、パパ」
少年は慌てて父親を追って玄関に走り出した。
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