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181.屋上で告白を(だが脈があるとは言ってない)…… 

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「――とまあ、掻い摘んで言うとこんな感じでした」

 一から話せば時間が掛かるので、先輩と同じく詳細は端折って流れだけ説明した。
 なんだかんだ屋上に来て、すでに一時間以上が経過しているのだ。さすがに詳しく説明とかまずいだろ。

「性別が違うっていうのは驚きだね」

 天堂先輩は、まずそこに触れた。まあ俺もそこが一番気になるしな。

「大変でしたよ。本当に。……あんまり男女関係なとこにつっこまないでくださいね。最初からすげーモラル的にどうよって自分でも思ってたんで」
「あ、うん。そうだね。なんか色々考えちゃうけど、これは考えない方がいいね」

 そうしてほしい。
 俺もかなり早い段階で、もう深く考えるのはやめた。そして今後も考えたくない。不可抗力だがさすがにアクロディリアに悪いから。

「乙女ゲームの悪役令嬢になった、か。乙女ゲームって、女子用のノベルゲームだよね?」

 先輩はあんまりゲームとかやらないらしい。やはりリア充か。「ノベル系だけじゃないっすけどね」と簡単に補足して肯定する。

「男を口説くゲームかー」
「リアルでイケメンに口説かれてる人には必要ないゲームっすよ」

 俺も同じ穴のアレだからあんまり言いたくないが、ぶっちゃけ「ゲームでくらいモテたい」って主旨のジャンルだからな。……うるせーバカ野郎! モテなくて悪かったな! つかモテる方が少数派なんだからな! イケメンとか滅びればいいんだよ!

「外から見ると、私ってそんな感じ?」
「リア充以外に見えないっす」
「そっかー。そうでもないんだけどねー」

 ん? なんだと? 非リアだと? 仲間? ……嘘つけバカ野郎! 鏡見て物言えよ! つかそれで非リアとか性格がアクロディリアってことじゃねえか!

「俺殴った先輩とかイケメンじゃないすか」
「見た目は文句ないよ。でもちょっとストーカー気質なんだよね。付き合ってもないのに独占欲とかすごいし、それで君も殴られたし……あ、そうだ。ごめんね、私のせいで殴られて」

 まあ確かに、あれは天堂先輩が悪い。
 先輩が無遠慮に触れた・・・から、俺も反応せざるを得なかったからな。そういう意味で触っていいなんて言ってねえし。
 でも、そのおかげで、「今の俺」でも魔法が使えるって気づいたから、まあ感謝もちょっとだけしてるが。

 総じて、アレだな。

「暴力振るう男って最低っすね。ああいうのが彼女にDVとかするんすよね」

 とにかくイケメンの株をガッツリ下げとこう。殴られた恨みは忘れてねえからな。

「そうだよねぇ……しそうだよね、すごく」

 …………

 株下げようとした俺が言うのもなんだが、すでに株が下がりきってた件について。
 あのイケメン、先輩の友達だろ? 友達なら普通こんなぼやき出ねえぞ……あのイケメンは相当ダメな奴なんだな。

「やっぱ優しい男じゃないとイヤじゃないすか?」
「うん。でも優しいだけじゃダメだとも思うのよ」
「わかります。なんつーか、優しいのと優柔不断っつーか、勇気がないだけってのを混合してる奴が多い気がします。そうじゃねえだろって」
「そうそう! たまには強引に来て欲しいってのもあるのよ!」
「でも脈なしだと怒っちゃうっしょ? 女子ってそういうとこありますよね」
「うーんまあ……まあ、そこはうまいこと本心を読んでほしいっていうか、ほら、OKならサインは絶対どこかで出てるからさ、そこは見逃さないでほしいよね。ちゃんと見ててほしいっていうか」
「サインかー。でも男として言わせてもらうと、好きな女子の前じゃ緊張しちゃいますからね。こう、じっと見てられないっていうか」
「それこそ勇気出してほしいな」
「いやー厳しいっすよー……あれ?」

 ちょっと待て。なんで俺自然とガールズトークみたいな会話してんだ? ……三馬鹿の影響か?

「先輩、話戻していいっすか?」
「あ、うん。――やっぱりはっきり言った方がいいのかな? 『そのストーカーみたいなところが嫌いだから付き合えない』って」

 なぜそこだ。もっと前に戻せよ。……一応「言ったらそれこそストーカー化するかもしれないから慎重にいきましょう」とだけ言わせてもらったが。
 つか本当になんの話してんだよ。




「で、弓原くんは『あっちの世界』に戻りたいのね?」
「そうっす」

 完全に脱線してしまった話を、ようやく戻すことができた。やべえな、三馬鹿の呪い。あいつらとの会話、俺は聞き役に徹して全然トークに参加してた意識はないのに、しっかり刻み込まれてやがった。

「戻りたい、か……私はそんなこと考えたこともなかったな」
「いや、俺だってずっと『あっちの世界』にいたいわけじゃないっすよ。ただ、行った時も戻った時も、本当に急だったから……だからやり残したこととかいっぱいあるんすよ」

 そう、俺が戻りたいのは、未練があるからだ。それさえ消化すれば大手を振って「弓原陽」に戻れるはずだ。……たぶん。
 いろんな人に別れの挨拶さえできなかったからな。すごく心残りだ。

「そういや、先輩はどうやって『こっちの世界』に戻ってきたんすか?」
「はっきりしないのよね。特別なことはしてないし。ただ、あとから考えてみると『アニメ放送が終わる期間を過ごした』からじゃないかなって」

 ああ、「アニメの物語が終わったから」か。

 先輩の行った世界は、魔法少女もののアニメの世界。そこで敵役の女になった。いずれ主人公連中に殺されることを危惧してガチで勝ちに行き、最終的にすべての敵味方を討ち取って「こっちの世界」に戻ってきたって話だったよな。

「あのアニメは、作中時間で一年くらいあるのよ。主人公が進級したところでアニメは終わって、進級した主人公で第二部が始まってたみたい。また新たな敵と戦うみたいな流れになってたの」

 リア充な先輩は、アニメの名前くらいは知っていたが、内容はまるっきり知らなかったらしい。「こっちの世界」に帰ってから色々と調べたそうだ。

 知らなかった、というのが、逆に良かったのかもしれない。
 ヲタはお約束を知っていて、知っているがゆえに守ったり破ったりするからな。守るも破るもなくルール無用でやらかせたのは、先輩がお約束を知らなかったからだろう。

 たとえば、変身中は攻撃しちゃダメとかな。必殺技やる時は待ってあげるとかな。必殺技のネーミングセンスなどを笑わない、とかな。

「その例で言うと、俺の場合はどうなるんすかね?」
「うーん……作中で出番がもうなくなった、じゃないかな?」

 作中で、出番がなくなった、か。

 いや、それはありえないだろ。
 あのゲームはなんだかんだ絶対に三年間を過ごすゲームだ。冒険中に全滅してもゲームオーバーにはならないし。

 フロントフロン家が没落するのも卒業後か、あるいは卒業間近のはず。アクロディリアの出番の終わりはそこのはずだ。

 でも、俺が最後に過ごしたのは、百花鼠の月……えー、九月の中旬だったはずだ。単純にゲーム期間の終わりまで五ヶ月くらい残っている計算になる。

「うーん……ごめん。私はもう関わりたくないと思ってたから、あんまり調べようともしなかったんだ。弓原くんと違ってそんなに楽しい思い出もなかったし。略奪だの暴力だの破壊だの、人を傷つけることばっかりたくさんやってきたから」

 そう、だな……「どの世界に行くか、誰になるか」によっては、そりゃ楽しい楽しくないとか言ってる場合じゃないもんな。

 俺だって悪役令嬢になって最悪だと思ったが……でもどう考えても、先輩の方が状況的には最悪だわな。そりゃ思い出したくないのもわかる。

 ただ殺されたくないって努力して生きることにあがいたのだろう先輩を責める気はないが、本人的には責められようが責められまいが、自分でやったことに後悔もしてるみたいだし。どんな理由があってもすげー後味悪いんだろうな。

「じゃあやっぱ、先輩にもわからないんすね」
「ごめん。力になれそうにないわ」

 そっか……まあそれは仕方ないよな。いくら同じ境遇に陥った者同士であろうと、協力しなければいけない理由にはならないからな。

「あ、でも、役に立つかどうかはわからないけど、相談くらいは乗るよ? 今改めて考えてみると、それこそ二度とないように原因は突き止めておくべきだったとも思ってるから。
 同じ被害を受けた者がこんな間近に存在した。
 ……アニメだのゲームだのの世界に行く、なんて絶対にありえない現象が起こっていると考えてみれば、何か原因がある気はするよね」

 原因……うーん……

「そうっすね……俺と先輩だけじゃ例が足んないっすけど、共通項を上げるなら……原因は『あっちの世界』じゃなくて『こっちの世界』にある気がしますね」

 要するに、「誰かが俺たちを違う世界に送ったんじゃないか」って話だ。
 人為的な現象だったと。
 それも、「こっちの世界の誰か」のせいだ。「あっちの世界」が原因ではない気がする。
「絶対ありえない現象」なのに、同じ学校に同じ被害に合った奴がいるなんて、こんな狭い範囲であるとは思えない。だから偶然ではないだろ。

 うーん……悔やまれるな。
 密偵の能力とかあれば、色々気配で探れたかもしれないが……体感的には一昨日フォンケンと会って「さあこれから楽しい修行が始まるぞ!」って時にこれだしな。

「そうか……そう考えるとしっくり来る点もあるね」
「そうっすか?」
「うん。もし人為的……そういうことができる犯人がいるとしたら、君に会って動機はわかった気がする」

 犯人の動機が、俺?

「ざっと聞いただけだけど、君の光魔法は、『こっちの世界』ではものすごく稀有な存在だよ。『怪我を治す魔法』が使えるなんて、どれだけ社会に貢献できるか。求める人も多いと思うよ」

 言われて見れば、確かにすごいことだわな。「あっちの世界」じゃ回復魔法の使い手なんて掃いて捨てるほどいたけど、「こっちの世界」ではそもそも魔法が存在しないからな。一般的には。先輩みたいな例外はありそうだが。

「私なんか戦闘用の技術しかないから。潰しが効かないっていうか、こんな平和な日本には無駄な能力だよね。でも弓原くんは違う。万人に求められる能力だし。
 犯人の動機として、『犯人が欲しがっている能力者を生み出すために行われている』……と考えると、充分考えられる気がするよ」

 そうか。確かに先輩の言う通りだ。
 原因はわからないが、もし犯人がいるなら、動機は「能力者を増やすため」か。それならしっくり来る気がする。

 ――『天龍の息吹エンジェルブレス』のこととか、絶対話せねえな。「あっちの世界」より話せねえな。絶対危険だわ。




 ふと空を見上げれば、すでに空は真っ赤に染まっている。
 本当に長々と話し込んでしまった。そろそろ帰らないと見回りの先生にどやされそうだ。

 それに、太陽が落ちて来たせいで単純にちょっと寒くなってきた。まだ四月だからな。

「先輩、色々話し聞いてくれてありがとうございました。寒くなってきたんで、もう帰りましょう」
「あ、うん。少しは役に立てたかな?」
「充分っす」

 なんの解決にもならないが、「同じ境遇の人」がいることで、夢とか妄想とかじゃないってことが確定したのが一番の収穫だ。
 もし原因……犯人がいて、それを突き止めることができれば、もう一度「あっちの世界」に行くことができるかもしれない。

 まあ諸々はさておき、とりあえず犯人は一発ぶん殴っておきたいしな。あと「なんで俺を女にした! それがおまえのやり方か!」と言ってやりたい。

 ……それにしても、だ。

 やっぱ学校一の人気女子は、やっぱ違うわ。俺初対面なのに、こんな美人がこれほど話しやすいとは……そりゃ人気も出るわな。超いい人だわ。結婚してほしい。
 できればあのダメなイケメンとは付き合ってほしくねーなー。

「弓原くん、アドレス交換しない?」
「え、マジっすか? それって友達から始めようってことでいいんすか?」
「先があるかどうかはわからないけど、今日は話せなかった君の体験談は面白そうだから。ぜひ聞かせて」

 はい野次馬根性でしたー。脈なしでしたー。

 ――でも、それでも、こんな美人が相手してくれるなら本望である。ここで交換しない奴は非リアじゃねえ!




 人けがなくなった校舎に戻り、下駄箱まで先輩と歩いてきた。あのイケメンはいないな。さすがに帰ったようだ。……いや、ストーカー気質ならわからんな。どっかで待ってるかもしれん。……こわっ!

「ねえ弓原くん、これからどうするかもう決めた?」

 靴を履き替えながら聞いてくる。ちなみに学年が違うので、先輩は棚を挟んだ向かいにいる。

「とりあえず、一番気になるところから調べてみようと思ってます」

 原因が「こっちの世界」にあると考えると、あんまり関係はないかもしれないが。

 しかし、明確に、まだ俺の知らないシナリオが残っているからな。
 何か手がかりが見つかるかもしれないし、それこそ他に何をどうしていいかもわからないからな。

 ――もう一度、「純白のアルカ」をプレイしてみよう。




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