狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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138.つまりただの下準備である

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 でも、当事者たちを「特別な一日」へ誘うための下準備である。
 結局魔法映像マジックビジョンで何をするのか、と問われれば、そんなものである。

 そしてその成功こそが、まさに魔法映像マジックビジョンを最大限アピールすることとなるのだ。

「こんなにも早い時間に行くのかい?」

 早朝……というよりは、まだ夜の内とでも行った方がいいのかもしれない。

 だが、そんな夜の気配が強く残っている早朝でも、陸軍総大将ガウィン・ガードはラフに軍服を着て、嫌な顔をせず付き合っている。

「非常識な時間だな。不愉快だ」

 反対にしっかりと軍服を着込んだ空軍総大将カカナ・レシージンは、不機嫌そうな顔を隠そうともしない。

 ――なるほど。昼行灯で有名な陸軍総大将殿と、最年少の空軍総大将殿か。

 どちらかと言えば、カカナの方がわかりやすくていいな。杓子定規の典型的な軍人だと言われれば、付き合い方も自ずとわかる。
 それに比べれば、ガウィンの方がはるかに読みづらい。気の抜けた顔をしているが、そう見えるだけだろう。内心がまったく読めない。




 陸軍総大将と空軍総大将は、昨夜クリストの紹介で会った印象のままである。

 一見穏やかだが曲者の臭いしかしないガウィンと、一見厳しそうで実際も厳しそうなカカナ。
 どちらも貴族の出らしいが、実家の屋敷からは出ているようで、ここヴァンドルージュ首都にある大きな一軒家に住んでいた。

 まあ、一緒に住んでいるという事実には少々驚いたが。どうも二人は男女の仲らしい。でも結婚はしていないそうだ。色々と複雑な事情があったりなかったりするのかもしれない。

 ……とまあ、昨日ちょっと顔を合わせて、少しだけそんな話をしたのだが。

 その翌日。
 予定通り早朝に、彼らを家まで迎えに行くと、黒い軍服を着たガウィンと白い軍服を着たカカナが準備を終えて待っていた。
 双方五人ずつ部下を用意しているのは、いざという時は力ずくででも止めるという意思表示だろうか。

 ――昨日会って話した限りでは、彼らに非協力的な態度は見られなかった。

 急な夜の訪問に小言は言われたが、それでも邪険に扱われることはなかった。正直私だって揉めたいわけではなかったので、脅すこともしなかった。

 内心どう思っているかはわからないが、表向きは、皇王の命令に従って監視という役割に徹するつもりのようだ。

「では、早速行動を開始しよう」

 ヒエロの号令に従い、面通しのために整列していた撮影班が動き出す。
 彼らの家の前の広い往路には、四隻の小型船が用意してあり、これでまずは港に移動するのだ。

「あなたたちも乗ってくれ。すぐに移動だ」

「わかりました」

「了解」

 ガウィンとカカナも、部下を連れて小型船に乗り込む。

 不安要素がないとは言わないが、ここから先は本当に時間との勝負になる。

 ――さあ、長い一日を始めようか。




 港に着いた私たちだが、この先は二班に分かれて撮影に向かうことになる。

 昨夜の内に通達しておいたので、ガウィンとカカナも特に揉めることもゴネることもなく、陸軍と空軍で同行することにしたようだ。

 連れてきた撮影班は十二人で、ちょうど二班で分けられるような人選となっている。
 現場監督やカメラ、メイクなどを、二人ずつ連れてきているのだ。

 ヒエロは「もしもの時があったら困るから、各ポジションの予備を一人ずつ確保しただけだ」と言っていた。さすがに二班で撮影に向かうことは想定していなかった…………いや、意外と想定していたかもな。

 まあとにかく、ここからは二班で行動となる。

 第一班は、ヒエロ、ミルコ、クロウエン。
 第二班は、私とクリスト。リノキスも、今日ばかりは私の侍女だけではなく撮影の手伝いもすると言っていた。というか私が手伝うよう頼んだ。
 アルトワールの王子と、ヴァンドルージュの皇子と皇女がいるが、軍の総大将が同行するので護衛はいない。とにかく時間がないからだ。

 そして――

「カカナ様。行きましょう」

「ああ」

 昨日の内に、ガウィンとカカナと会ったのは、本当に無駄ではなかった。

 私が二人の印象をヒエロに話すと、「厄介そうな陸軍総大将は引き受けよう」と彼は言った。
 正直その方がいいと私も思ったので、私の同行者は空軍総大将殿となった。

 なんか上げ足取りみたいなことを延々ごちゃごちゃ言われたら殴りかねないので、私もこの方がいいと思う。カカナの方がはっきりきっぱりしてそうだし。

 というわけで、第一班には陸軍総大将ガウィン。
 私たち第二班には、空軍総大将カカナ。
 そして各撮影班という組み合わせとなっている。
 
 港に用意していた飛行船に乗り込むと、すぐに船は港を飛び立った。




 さて。

 まずは、クリストたちが用意してくれた船の船長に、これから飛ぶルートを伝えなければならない。
 ヴァンドルージュは浮島が多い国なので、この航路を決めるのが大変だった。いかに無駄なく時間を節約して次の島へ行けるかが大事なのだ。

「無茶な予定だな」

 操舵室で、クリストが航空図を見ながら船長に指示を出している。それを横で聞いているカカナは、皆がわかり切っていることを言った。

 そう、無茶な予定なのだ。
 だがやらねばならない。時間はもう、今日しかないのだから。

「こんな時間に飛行船を出すことといい、無茶な航路を飛ぼうとすることといい……魔法映像マジックビジョンとやらは礼節どころか常識さえ弁えない代物なのか」

 まあ、魔法映像マジックビジョンをよく知らない者からしたら、何を必死になっているかさえわからないのだろう。

 だから、私は言ってやった。

「礼節と常識を弁えたらいい映像が撮れるというなら、そうするんですけどね。そうもいかないから無茶をするんですよ」

「いい映像?」

「夕陽が見たければ時間を選ぶでしょう? 綺麗な夕陽を見たければ時間と場所を選ぶでしょう? そういうことです」

「……? いまいちよくわからないが……」

 そうか。でははっきり言おう。

「これから、そこに行かなければ撮れない映像を撮りに行くんですよ」




 まずは第三上層島。
 目指すは、ザックファードが私くらいの歳の時に、家庭教師をしていたという貴族の女性の屋敷だ。

 明日の結婚式で放送する、「式に来られなかった新郎新婦に縁のある者の祝福の言葉」を貰いに行くのである。



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