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219.一切の無駄を殺ぎより効率を求めた技
しおりを挟む「あ、私もそれ聞いた」
帰り道、シィルレーンと一緒に歩く。
今日も王城には帰らず私の屋敷に泊まるようだ。
まあ修行があるので、しばらく帰るつもりはないのかもしれない。
ちなみにアカシは、例のブツの開発で忙しいそうで、今日も一緒ではない。彼女は本当にめげないなぁ。私はまだあの時の疲れが抜けないよ……
「迎冬祭っていうんでしょ? いつもは正式な機士同士で戦うとかなんとか」
「ああ。だが今年は、機兵科の訓練生が戦うようだ。機兵科の知り合いが教室まできて、私は出ないのかって聞きに来たよ」
へえ。
「シィルは機兵科一の機兵乗りなんだっけ?」
「かつてはね。もう機兵科じゃない」
まあ、そうだが。
「出たかった?」
「……そうだな。機兵学校の生徒が機兵に乗る姿は、一般に公開されるものではないからな。普段見ない者に見てもらう機会があると思うと、多少張り合いはあるかな」
そうか。ならば好都合。
「いい機会だし、シィルも出てみたら?」
「……君は何を言っているんだ?」
「いや、だから、機兵同士で戦うんでしょ? シィルも出ればいいじゃない」
「私はもう機兵科じゃないぞ。機兵だってもうない」
「だから生身で出たらって言ってるんだけど。普通科の生徒らしく」
「…………え?」
メインストリート沿いの帰り道を歩む足が、さすがに驚きで止まってしまったようだ。
しかしそんなシィルレーンを待たずに、私は歩き続ける。
「いい目標じゃない。元から機兵より強くなる予定なんだし、最終的には虫を狩るつもりなんでしょ?」
「いや、だが! 無理だろう! 今の私が機兵に勝てるか!?」
そう言いながら、シィルレーンが走って追ってくる。
「あなた次第って言ったじゃない。やると決めるのはあなたで、やるのもあなた。私は鍛えるだけよ」
――結局「氣」も武術の一つ、武術の一部だ。求める者が手に入れるものなのである。
現にミトは、基礎の基礎だけではあるが、「氣」を習得しつつある。
彼女の場合は、自身が病弱であることを改善するためだが――それでも、欲したがゆえに身に付けたのだ。
いくら優れた才能があろうと、望まなければ身につくものではない。
目的や目標というものは、あると目安になるからな。
自分がどれくらいできるかとか、試す意味合いが大きいから。小さな目標をいくつも立てて、一つずつこなしていくというのは、そう悪いやり方ではない。
……おっと危ない。忘れるところだった。
「こんにちは! 元気!? ねえ元気!? ねえねえ!? お腹は大丈夫!?」
「黙れ! 早く行け!」
このホテルの前を通る時は、知っている顔の警備員に挨拶をすることを決めている。
例の、マーベリアに来た日に世話になったホテルである。
あと夜襲直後に世話になった場所でもあり、また警備員はリノキスが殴り倒したおっさんである。
数少ない顔見知りだし、声を掛けないのも水臭いからな。にやにやしながら煽って……挨拶してやろう。
「――やめなさい」
やれやれと溜息を吐くシィルレーンに引きずられるようにして、私たちはホテル前を通過するのだった。
「――なあ、ニア」
屋敷の前まで黙って歩いていたシィルレーンが、ようやく口を開く。
「迎冬祭は三週間後だ。それまでに間に合うか?」
「出るの?」
「わからない。そもそも生身で出る許可が貰えるかもわからんしな。ただ――」
シィルレーンは、揺らぎのない据わった目で私を見詰める。
「君の言う通りだよ。私は機兵より強くなりたいし、最終的な目標は虫退治だ。だから、まず機兵に勝ちたいと思うのは、間違ってはいないと思う。
それも、現役の機士ではなく訓練生だ。ならば――鍛え方次第でどうにかならないか?」
…………
いい目をするではないか。
「出るかどうかはわからない」と言った割には、すでに戦う気構えができている。実戦経験があると言っていただけに、もう一端の戦士のようだ。
「――いいわ、来なさい。そこまで覚悟ができているなら技を教えるから」
まだシィルレーンは「氣」の基礎さえできていないが、やる気があるなら教えてやろう。
三週間で「氣」の基礎を身に付けられたとしても、基礎だけではまだ勝てまい。
ならば――その基礎で「氣拳」の一つを発することができれば、まだ勝機はあろう。
それにしても――
他人事ながら、勝ち目の薄い戦いというものは、燃えるものがある。
まったく。
敵がいるというのは羨ましいものだ。
シィルレーンの武器は、槍である。
すでにかなりの熟練度を有しているので、今更徒手空拳に切り替えるのはもったいないだろう。
リノキスもそれなりの剣の腕を持っていたが、彼女は私の護衛のことも考えて、「いつでも手許に剣があるとは限らないから、素手で強くなりたい」ということで転向したのだ。
――私は武具の扱いは得意ではないが、まあ、それでも今のシィルレーンよりは使える方だろう。
「武器も面白いわよね」
シィルレーンから訓練用の槍を借りる。
あまり先端が尖っていない、ただの鉄棒と言いたくなるような鉄の槍である。結構重い。
「ねえ、武器の奥義って知っている?」
「奥義?」
「ええ」
軽く振り回し、回転させ、重さと重心を確かめる。
「派手な名前が付いた地味な技なら知っているが、そういうものか?」
「まあ、遠い意味ではね」
構える。
目の前には、訓練用の丸太がある。無骨に輪切りにして立てただけの素朴なものだ。
シィルレーンが何度も何度も打ち込んでいるので、ボロボロである。
「結局、武器っていうのは単純な技が一番の必殺技だったりするのよ。技とは一切の無駄を殺ぎ、より効率を求めた形に収束するから――つまり」
ゴスッ
なんの捻りもない、単純な、だがどこまでも無駄を殺ぎより効率を求めた一突きは、易々と丸太を貫いた。
シィルレーンがよく素振りをしている、基本の技の一つだ。
ただし、シィルレーンの一突きとは、型は同じでも速度も重さも桁違いではあるが。
「……とまあ、こういうこともできると」
驚いているシィルレーンの前で、槍を抜く。
「そして、一切の無駄を殺ぎより効率を求めた技は――非常に軽く、そして連続で放つこともできる」
ガガガガガガ
単純な連続突きで、丸太を端から削っていく。木片が飛ぶ。弾ける。原型がなくなっていく。
「面白いでしょ? あなたがよく素振りしているただの突きの極みに近い技が、今のよ」
削って半分ほどの細さになった丸太を唖然として見ているシィルレーンに、槍を返す。
「今まで『氣』の訓練は素振りでやっていたわね? これからは『氣』を使いつつ、この単純な突きを極めるつもりでやってみなさい。すでに目指す先はわかったはずよ。
こういう無駄のない初歩の技こそ、あらゆる状況に対応する基盤にもなるのよ。きっと将来、あなたに欠かせない技の一つになるわ」
――さて。
「お嬢すごーい!」
振り返るなり、目をキラキラ輝かせる子供が一人大声を発した。
はっはっはっ、そうだろうそうだろう。カルアはかわいいな。
始める前から、カルアが見ていたことはわかっていた。たまにはお嬢のいいところを見せとかないな! これ見よがしだと鬱陶しさが出ちゃうから、さりげなくな! そう、どこまでもさりげなくだ!
「おやつの時間だって呼びにきたですよ! ねえ、お嬢のおやつ貰っていい!?」
はっはっはっ。それは絶対ダメだ。私のおやつだ。
シィルレーンにもおやつの時間だと告げるが――彼女はすでに、一心不乱に突きの練習に入っていた。
しらばくは何も聞こえないだろう。
「――ニアちゃん! 試作機ができたよ!」
「――私にまず見せろ! この前のような目に遭うのは二度と御免だ!」
いや、アカシの声は聞こえたようだ。
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