緋の残像 伝説の殺人鬼が恋人の心の奥で蘇る

ちみあくた

文字の大きさ
4 / 105

SHOW TIME 4

しおりを挟む

 ベッドサイドの目ざまし時計を見ると、時間は午前4時だ。

 寝たりない反面、神経が逆立っている。今から眠ろうとした所で今度は寝過ごし、明日の講義に遅刻するかも知れない。

 真面目にやんなきゃ。

 マグレでやっとこさ、潜り込んだ国立だもんな。
 
 守人はぼやき、冷や汗をかいた分、ひどく喉が渇いているのに気付いた。

 ベッドから立ち上がると、腰や肩の筋肉に強張る痛みを感じる。夢ん中だけじゃ無く、本当に山歩きでもしたような感覚が体の彼方此方にある。
 
 そういや昨日の午後、何したっけ?

 講義もバイトも無い日だから暇してたのは確かだけど……時々ぼ~っとして、何してたか判んなくなるんだよな。
 
 小首を傾げてみるものの、この奇妙な忘却癖に対して拘らず、違和感を引きずらないのが守人のいつものパターンだ。

 廊下へ出、階段を下りる。静まり返った一戸建ての家の中には他に誰もいない。

 守人が東京で暮らしていた11才の時、「ある事件」がきっかけで両親は離婚。母は親権を放棄し、やむを得ず一人息子を引き取って二人暮らしを始めた父親も彼が15才になった春、事故死してしまっている。

 天涯孤独の身の上になった守人が、その後、諦めかけた高校進学を果たし、卒業にこぎつけたのは東北で不動産業を営むと言う資産家の叔父のお陰だ。

 それまで碌に会った事も無い叔父から急に手紙が届き、文字通り足長おじさんの役を引き受けてくれた事に当初当惑はあったが、今は感謝しかない。

 今年の春、宮城県仙台市にある国立陸奥大学・文学部の入試に受かったのを機に、その叔父が所有する青葉区の古い一軒家へ守人は引っ越してきた。

 叔父自身は現在、仕事の関係で中国に住んでおり、半ばハウスキーパーの役割だ。

 本当はワンルームマンションで十分なのだが、月々の家賃を払わずに済むのは魅力的だった。ただっ広い家の住みづらさは有るものの、孤独には慣れている。





 暗い台所へ入った守人は、古い冷蔵庫を開け、コーラのペットボトルを取り上げた。

 扉を閉めた時、冷蔵庫の上へ飾ったアイテムの内、15センチ程の「エイリアン」フィギュアが目に入る。

 第一作に出たモンスターの最終形態を再現したもので、独特の長い頭部を覆うフードが透け、中の髑髏そっくりな構造が見えた。

 劇中フードは黒光りしており、透明に見えなかったから発売された当時はオリジナルに似ていないと酷評され、マニアにそっぽを向かれた代物だ。

 その不評ぶりが却って守人の興味を引き、ネットで投げ売りされているのを買ってみた。確かに映画のイメージとは違うようだ。でも映画の設定にはこの方がむしろ忠実らしい。

 なら、仕方ないよな。所詮、コピーがオリジナルに背ける訳、無いんだから。

 そう思った瞬間、フィギュアのフードの奥、髑髏のぽっかり開いた目が、先程の悪夢の中で断末魔に痙攣する女の、大きく見開いた瞳と重なる。

 動揺した守人は頭を振り、イメージを意識の外へ追い出した。その代りエイリアンの頭をつつき、シニカルに囁く。

「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」

 映画公開当時、テレビコマーシャルで良く流れたコピーである。同じ世代の大学生に言っても目を白黒されるばかりだが、彼は気に入っている。

 ま、いっか。朝まで何か、見ようかな?

 そうそう、ポテチも持ってかないと。

 気分を切り替えて廊下へ戻り、コーラとつまみ片手に階段を駆け上がる頃には、守人は先程の悪夢などすっかり忘れていた。

 あまりに唐突な忘却。

 勿論、これも彼にとって、いつもの繰り返されたパターンに過ぎないのだが……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...