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しおりを挟む第一章 辺境の街とFランクの冒険者
辺境の街ルーメン。
魔王が倒され、各地で活気が取り戻されていく中、現在世界で最も活気に満ちていると言われるその街は、今日も賑やかすぎるほどの喧騒に包まれていた。
街角は人と物で溢れ、ここで稼がなけりゃどこで稼ぐとばかりに商人達の怒号が飛び交う。
その勢いは街のあちこちにまで波及し、大きなうねりとなってルーメン全体を覆っていた。
誰も彼もが忙しなく動き回っている。
それはここ『冒険者ギルド・ルーメン支部』にいる者達も例外ではなかった。
人と物の流れが激しいとなれば、必然的に冒険者の需要も増えるというもので、むしろ外以上に忙しく騒がしいのが、ここの常である。
だがその瞬間、ギルド内の喧騒を上回る声がその場に響き渡った。
「そこを何とかなりませんか……!?」
一体何事かと、ギルドにいた者達の視線が、五つある受付カウンターの一つに集中する。
そこにいたのは十五歳前後と見られる少女。
桃色の髪に同色の瞳、顔立ちは整っていて、質素ではあるが清潔感のある服装をまとっている。
明らかに冒険者ギルドにいるには相応しくない姿だが……その理由はすぐに判明した。
「お願いします! 薬が作れないと、母が……!」
どうやら彼女は依頼者であったらしい。
何人かが新しい依頼かと興味を示して口を閉ざしたせいか、受付で対応している女性の声がはっきりと響く。
「……こちらとしても出来れば受け付けたいのですが、さすがに無理です。確かに依頼料というものは、冒険者の方々が納得するのであればいくらであっても問題はありません。しかし……『アモールの花』を金貨一枚で、などという依頼を出してしまったら、私達の信用にも関わりますから」
聞こえてきた言葉に、大半の者達が興味をなくし、自分達の会話に戻った。
受付の女性の言っていることは正しく、常識的な対応だったからだ。
金貨一枚とは、決して安い金額ではない。一般家庭であれば三ヵ月は裕福に暮らせる大金であるし、内容次第では一流を意味するCランクの冒険者あたりでも受ける報酬額だ。あくまで、金額相応な依頼内容ならばの話であるが。
アモールの花は、とある秘薬の原料となることで有名な、非常に希少な代物だ。その秘薬の効果は凄まじく、大半の病を癒す万能薬とされ、取引額は金貨百枚以上とも言われている。
そんな花を金貨一枚で採ってくるなど、到底無理な話だ。少なくともギルドとしては、こんな依頼を受け付けることは出来まい。
「っ……どうしても、無理なんでしょうか……?」
「……少なくとも、ギルドとして仲介することは出来ません。冒険者の方が直接請け負うのでしたら、問題はありませんけれど……」
「っ……!?」
少女は期待に縋る顔で振り向いた。
……しかし、成り行きを見守っていた数少ない者達も、その必死な視線から逃れるように顔を逸らす。どう考えても、割に合わない依頼だ。
「あっ……」
状況を理解したのか、少女は唇を噛み締め、受付の女性へと頭を下げた。
「……分かりました。ご迷惑をおかけして、すみませんでした……」
「……いえ。こちらこそお力になれず申し訳ありません」
やるせない光景を見た何人かが、憐憫と共に溜息を吐き出した。
あの少女の依頼を誰も受けなかったことに対してではない。彼女がこれから辿る運命を想像したからだ。
少女の目に、諦めはなかった。彼女はおそらくこの後、自分一人でアモールの花を採りに行くのだろう。
……あれは、そういう目だ。
アモールの花を採るのが可能か否かで言えば、不可能ではない。
実際、ルーメンの近くには、アモールの花が咲いている場所がある。
だがそれは、容易に採れるということを意味しない。もしもそうならば、誰かがとっくに採りに行っているはずだ。
あの少女も、そんな状況を理解しているからこそ、冒険者に依頼を出そうとしたのだろう。
とはいえ、今の彼女に忠告したところで意味はあるまい。
それでも諦められないだけの理由があるのは、先ほどの叫び声と、何よりもその目を見れば分かる。
冒険者とは慈善活動ではないのだ。責任を取れない以上は手を差し伸べるべきではない。だから、誰もが黙って彼女を見送るしかなかった。
と、その時であった。ギルドの入り口の方から、どことなく気楽そうな少年の声が響いたのだ。
「あのー。誰も受けないんでしたら、僕が受けてもいいですか?」
「――え?」
少女を含め、状況を見守っていた全員の視線が、声の方向へと向けられた。
いつの間にか、ギルドの入り口に一人の少年が立っていた。
黒い髪に、黒い瞳。年齢は少女と同じか、少し上くらいに見える。
その珍しい髪の色合いに、あるいは単に先ほどの言葉に驚いたのか、少女は呆然としたまま少年に見入る。
返事をしない少女の代わりとばかりに、受付の女性が少年へと声をかけた。
「……ロイさん、いらしてたんですね」
「ええ、ちょうど来たところです。ただ、話は大体聞いてました。要するに、採取依頼ですよね? それなら僕でも受けることは出来ると思うんですけど……」
ロイと呼ばれた少年に受付の女性が何か応えようとしたが、それよりも先に件の少女が口を開いた。
「ほ、本当ですか!? 本当にわたしの依頼を受けてくれるんですか!?」
「僕でよければ、ですけどね。実はFランクなので、絶対に依頼を達成出来るとは言えないんですが……」
Fランクとは、要するに冒険者になったばかりの新人だ。
実績は皆無で、実力も保証されない。普通ならば積極的に依頼を出したいとは思わない相手である。
少女もそのくらいのことは知っているはずだが、関係ないとばかりに首を横に振る。
「いえ……誰にも受けていただけないと思っていたところでしたから、そう言ってくださるだけで嬉しいです!」
「うーん、そこまで喜ばれちゃうと、今度はプレッシャー感じちゃうんだけどなぁ……」
本当に嬉しそうな少女の表情を見て、ロイも満更ではなさそうだった。
そんな二人のやり取りは、傍から見ている分には微笑ましいくらいだが……ここは己の腕一つで日々の糧を得る荒くれ者達が集う冒険者ギルドである。
そこにあるのは冷静な目でしかない。誰かがポツリと呟いた。
「……死体が一つ増えたか」
だがそんな声など聞こえていないらしく、少年はこの先に待ち受ける暗い未来のことなどまるで想像していないかのような呑気な顔で、受付の女性へと視線を向けた。
「で、僕受けちゃって大丈夫なんですよね?」
「……そもそもギルドは仲介を断りましたから、ロイさんがよろしいのでしたら、こちらとしては何の問題もないのですけれど――」
「――まあいいんじゃねーか? そいつにはちょうどいいだろうよ」
どこか歯切れの悪い女性の言葉を遮って、新たにこの場に現れた男が口を挟んだ。
意外な人物の登場に、ギルドの中に僅かなざわめきが広がり、周囲の注目が増す。
彼に気付いた受付の女性が、僅かに眉をひそめる。
「……グレンさん」
彼女の口調に苦いものが混じっているのは、ある意味当然である。
燃え盛る炎のような赤い髪と瞳を持つその男は、おそらくこの街で最も有名な冒険者――グレン。
超一流の証でもある冒険者ランクAを所持し、時にこの街最強の冒険者などと言われる人物である。
そんな男が、少年のやろうとしていることを保証してしまったのだ。これではギルドとしてはもう口を出せない。
基本的に、ギルドと冒険者との関係はギルドの方が立場は上なのだが、それでも、グレンほどの者の言葉を蔑ろにするわけにはいかない。
受付の女性は少し恨みがましい目でグレンを一瞥し、それっきり口を閉ざした。
しかし、そんな事情を知ってか知らずか――おそらく知らないのだろうロイが、無邪気に口を開く。
「ありがとうございます! 正直、受けて大丈夫かあまり自信はなかったんですが、グレンさんにそう言ってもらえるなら、大丈夫そうですね」
グレンはそんなロイを見つめ、口の端を吊り上げて笑う。
その目に怪しげな光を浮かべながら。
「はっ、そうだな。自分じゃどんな依頼が相応しいかも分からないひよっこに、オレがお墨付きを与えてやるよ」
その声から滲む感情にはまるで気付いていない様子で、少年は素直に笑みを浮かべる。
「はい、本当にありがたいです!」
つまらなそうに鼻を鳴らすグレンを横目に、ロイは少女に向きなおった。
「えっと、そういうわけで、僕が受けようと思うんですけど……本当に僕で大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです! ……と言いますか、こちらこそ、本当に受けていただいていいのですか? その、採取依頼は採取依頼でも、ただの採取依頼ではないのですが……」
「ああ、その辺は聞いていたので大丈夫です。ただ、理由までは聞いていなかったので、出来れば教えてほしいですが」
「あ、はい、分かりました。えっとですね――」
そんな二人のやり取りを聞くともなしに耳に入れながら、グレンはゆっくりと視線を移動させ、入り口のすぐ横にあるコルクボードに目を向けた。
そこにはたくさんの依頼票が貼ってある。
それらはまだ誰も請け負っていないもので、種類も様々だ。
討伐、調査、配達、護衛……そして、採取。
グレンはその採取依頼の一つに目を留め、鼻を鳴らした。
「ふん……」
「なるほど……アモールの花は身内が摘むと効力が高まるから、同行する必要がある、と」
そんなグレンの様子には気付かないまま、少女の話を聞いたロイが確認するように呟いた。拒否されてしまうことを恐れてか、少女が僅かに顔を強張らせながら頷く。
「は、はい。母の病を治すにはそこまでしなければ難しいとのことで……。あの、足手まといにしかならないのは分かっていますし、難しそうなら……」
「いえ、確かに僕は冒険者になったばかりですが、これでも魔物との戦いはそこそこ経験がありますから。多分大丈夫だと思います。絶対とは言えませんけど……」
「いえ……受けていただけるだけで、本当にありがたいので……。あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね。わたしはセリアって言います」
「ああ、そういえばそうでしたね。僕はさっきも呼ばれていた通り、ロイって言います。えっと……じゃあ、よろしくってことでいいですか、セリアさん?」
「あ、セリアでいいですよ? それと、わたしの方がお願いする立場なんですから、普通に喋ってもらって大丈夫です」
「んー、むしろ、依頼主の方が立場は上な気がするんだけど……まあ、その方が僕としても気楽だからいっか。じゃあ、そういうことでよろしくね、セリア」
「はい。こちらこそよろしくお願いします、ロイさん」
そうして、依頼人と冒険者という関係にしては悪くない雰囲気のまま、二人が歩き出すのを横目に、グレンは先ほど見ていた依頼書をもう一度眺め、再度鼻を鳴らした。
そこにはこう書かれている。
アモールの花の採取依頼――依頼料は金貨千枚。受注条件は、最低Aランクであること。ただし、Aランク冒険者六人のパーティーで挑むことが望ましい。
しかし、そんな記述にはまるで気付かず、ロイとセリアはギルドを後にしたのであった。
◆◆◆
ルーメンの街を出て西に歩くこと、約三十分。
目の前に広がるのは、広大すぎる大森林だ。
今まで人類が探索出来た範囲は、ほんの一部でしかないと言われるその森は、貴重な植物の宝庫となっている。
薬草や秘薬、他にも様々な物の原材料となる素材の採取が可能であり、文字通り宝の山である。
にもかかわらず、ここが〝魔の大森林〟などという物騒な名で呼ばれるのは、金になるという以上に危険だからだ。一般人が間違えて足を踏み入れたら最後、二度と戻ってこられないと言われるほど、その森は危険に満ち溢れている。
そんな話を、セリアも母から散々聞かされていたのだが……
もしかしたら、アレは半分以上脅しだったのかもしれない――彼女はそう思って首を傾げた。
何しろ、森に入って十分以上経過しているというのに、危険な場面には一度も遭遇していないのだから。
正直なところ、彼女はFランクの冒険者とここに来るのがいかに無謀かは理解していたつもりだった。
死ぬかもしれないし、あるいはロイに酷いことをされるかもしれないと、覚悟もしていた。
それが分かってはいても、セリアには他の方法を選ぶ余裕はなかったのである。
だからこそ、最初は色々な意味でガチガチに緊張していたのだが……こうして何も起こる気配がないとなれば、そんな状態も長続きはしない。
それに、冒険者なんてやるのはならず者ばかりだと聞いていたのに、依頼を受けてくれたロイは、街にいそうな普通の少年にしか見えなかったというのもあった。
自然と緊張はほぐれ、少しずつ会話が増えていく。
そうして打ち解けて話せば、この少年の人となりを多少なりとも把握するには十分で、セリアがロイのことを信頼出来ると思うようになるのに、それほどの時間は必要とはしなかった。
もっとも……彼に縋らざるを得ないほど、セリアが精神的に追い詰められていただけなのかもしれないが。
ともあれ、そうして話をしているうちに、どうしてこんな依頼をすることになったのかという話題になり――
「そっか……それで、お母さんが病気に」
「……はい。もっと早い段階で療養していれば、他の方法でも何とかなったらしいのですが……。母はわたしにも気付かせないように無理していたせいで、余計に悪化してしまったらしく……」
「その結果、秘薬が必要になっちゃった、か」
「本当は、もっと早くにわたしが気付くべきだったんだと思います。母がそこまで頑張らなければならなかったのは、間違いなくわたしのせいですから。……そんな風に言ったら、母は怒ると思いますけど。わたしのせいなんて、思ったことはない、って」
セリアは父親の顔を知らず、母親に育てられてきた。
女手一つで大変だったはずなのに、セリアの記憶にある母の顔は、いつだって笑みを浮かべていた。怒られた記憶なんてほとんどない。
どんな時でも自分よりもセリアのことを優先してくれた優しい母――彼女を助けるためなら、いかなる苦難も乗り越えられる。だからこそ、危険と言われているこの森に来たのだ。
そんな思いが伝わったのか、ロイはセリアに優しい目を向けた。
「……いいお母さんなんだね」
「はい! 自慢の母です! 尊敬も感謝も、いっぱいしています! うちって、皆さんからの評判も良いんですよ!? ……そこまで繁盛してるってわけでは、ないんですが」
「確か、宿屋をやってるんだっけ?」
「はい。大通りからは外れたところにありますし、決して大きいとは言えない宿ですが……わたしの大好きな家です」
従業員も雇っていない、こぢんまりとした宿だ。セリアの母がほぼ一人で切り盛りしているせいもあって、大きな宿と比べれば、多分サービスも良くはないだろう。
セリアも出来るだけ手伝うようにしているものの、そこまで役に立てている自信はない。
でも、母があの宿を大切にしていることだけは知っている。
だから、母が元気になったらまた一緒にあの宿で働くためにも、まずはアモールの花を探す必要があるのだが……
「――っと、ちょっと待った」
周囲を見回してそれらしい花を探していたセリアを、不意にロイが呼び止めた。
「はい……?」
いよいよ魔物でも出たのだろうかと思い、セリアは足を止め、僅かに身を強張らせる。
……どうやら彼女の予想は当たっていたらしい。
その直後、五メートルを超す巨体が眼前に現れた。熊によく似た外見ではあるが、これほど巨大な熊はいない。全身を覆う血のように赤い体毛は、この森にやってきた者達の血を吸っているからだと言われても素直に信じそうなくらいだ。
その姿を見た瞬間、セリアは死を覚悟した。
母の言っていたことは脅しではなく、事実だったのだと気付き――
直後、魔物の頭部が消失した。
「……へ?」
「よ、っと」
セリアが思わず間抜けな声を漏らしたのと、気楽な声と共にロイの身体が魔物のすぐそばに着地したのは、ほぼ同時であった。
少し遅れて、思い出したかのように、魔物の首から血が噴き出す。
何が起こったのかをすぐには理解出来ず、セリアは呆然とその姿を見つめた。
そんな彼女を横目に、落ち着いた様子で死体の見分を始めるロイ。
「んー、出来れば魔物の死体はしっかり血抜きした後で持ち帰れってグレンさんには言われたけど……さすがにこの状況じゃあ、そんなことやってる暇はないかな? まあ、ちゃんと大半の形は残したし、これで十分でしょ」
状況を考えれば、魔物を倒したのはこの少年ということになる。
だが……と、セリアは首を捻る。
〝魔物〟という名は伊達ではなく、最弱の魔物相手を追い払うだけでも一般人の大人では四、五人は必要だと聞く。
ロイがFランクならば、冒険者になったばかりなのだろうし……いや、そういえば、魔物との戦いはそこそこ経験があると言っていたか。
あれこれ思案を巡らせるセリアに、ロイが不思議そうな顔を向けた。
「どうかした?」
「あっ、いえ……何でもありません。少しだけ、驚いてしまって」
「あ、もしかして、血に慣れてなかった? ごめんね……気を遣えなくて」
そう言って頭を下げる少年の姿は、先ほどまでと何の変わりもない、気楽なものだ。
つまり……この程度は冒険者や兵士などにとっては朝飯前で、駆け出し冒険者の彼にとっても当たり前に出来ることなのかもしれない。
「えっと、血に慣れていないのもありますが……魔物ってこんな簡単に倒せるものなんですね? 魔物というものは恐ろしくて、討伐するのは大変だと聞いていたのですが……」
基本的に、魔物は身体が大きいほどに強いと言われている。五メートルもあれば相当なはずだ。
「いや、単にこの魔物が弱かっただけだと思うよ? 多少魔物と戦った経験があるといっても、僕は所詮、Fランクだからね」
「そうなんですか? あの特徴的な体毛の色などから、マッドベアーかとも思ったのですが……さすがにないですよね」
マッドベアーとは、超一流のAランクの冒険者でも六人程度で挑まなければ倒せないとされる、強大な魔物である。しかし、Fランクのロイが一人で倒してしまったのだから、きっと似ているだけの別の魔物だったに違いない。
釈然としないものを感じながらも、自分が聞きかじった知識よりも、戦闘経験のあるロイの言葉の方が正しいのだろうと、セリアは無理やり納得した。
「さて、とりあえず先に進もうか。魔物が出てきたってことは、ここからはもう少し警戒しておいた方がいいかもね。正直、気配を察知するのはそこまで得意じゃないんだけど」
警戒するなどと言いながらも、まったく気負いなど見せないロイの姿を、セリアは頼もしく思った。同時に、興味と疑問も覚える。
「その、魔物と戦った経験があるということですし、実際、慣れているように見えるのですが……ロイさんは冒険者になる前は一体何をしていらしたのですか?」
少々不躾な質問ではあったし、答えは返ってこないかもしれないとは思ったものの、つい尋ねていた。しかし、意外にも少年は素直に口を開く。
「んー……実は、僕って少し前まで魔王討伐隊にいたんだよね」
「え……そうなんですか?」
百年ほど前に発生し、約一年前にようやく終わりを迎えた、魔王と呼ばれる存在との戦争。
その立役者となったのが、魔王討伐隊だ。
各国の精鋭達が集められた、まさに人類最強の混成部隊である。
生まれてこの方ルーメン以外の街に行ったことのないセリアでも、さすがにその名前は知っていた。
……だから、正直そこにこの少年がいたというのは意外でしかなかった。
そうは見えない、というのもあるが――
「それならば、何故Fランクなんですか?」
冒険者になる理由は様々。一口に駆け出し冒険者と言っても、経歴や実力も人それぞれだ。そんな理由もあって、最初のランクは以前までの経験をある程度考慮に入れて決まると聞く。
魔王討伐隊にいたのならば、もっと上のランクから始まってもおかしくない。
「いやー、それが、僕自身どうして魔王討伐隊に入れられたのかが分からないくらいだからね。実際、僕はあそこで雑用みたいなことしかしてなかったし」
ロイは少し恥ずかしそうに頭を掻く。
「雑用、ですか?」
「うん。魔物と戦う時は、いつも一人だけだったからね。遊撃、って言ったら聞こえはいいけど、多分僕だけでも対処出来るような〝比較的どうでもいいの〟が、あてがわれてたんだと思う。他の人達はまったく違う場所で戦ってたらしいしね」
「それは……雑用というよりも嫌がらせでは?」
「さすがにそんなことをするほど余裕があったとは思えないから、あれはあれで意味があったんだと思うよ? ただ、そうこうしているうちに勇者って人が魔王を倒したらしくてさ」
つい去年のことだし、辺境の街であるルーメンも大騒ぎだったので、セリアもよく覚えている。本当に魔王は倒されて、戦争が終わったのだと実感した。
あれ以来、ルーメンにも一気に人が増えて、随分賑やかになってきている。
応援ありがとうございます!
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