老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第283話 双子、王都で可愛がられる②

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「なるほど、それでザミールさんも居ないんだ。最近、お店に行ってもがっかりしていたもんねエメリ」
「な、なぜ私の名を出した!」
「ほら、大きな声を出したらライル君が起きるよ」
「あ、ああ……」
「すぴー」
「あらあら」

 リヒトをエメリが抱っこし、ライルをフレイヤが抱っこしてお城まで移動していた。
 道中、ユリやザミールについて話すと、ザミールについては説明されていなかったようだ。

「ワシらから言うのはまずかったかのう」
「かもしれませんね。知られたくないと考えていたら申し訳ないです。会ったら謝っておかないと」
「あーい」
「ん? 歩くのリヒト君」
「あい」
「わほぉん」

 そこで自分で歩くと示唆し、フレイヤが地面に降ろした。するとエメリの服の裾を掴んで一緒に歩き出す。視線は眠っているライルに向けられていた。

「あ、ライル君が気になるんだ」
「あい」
「ううむ、可愛いですな……」

 真剣な目で見上げるリヒトに、エメリが目を細めてほほ笑んでいた。落とさないようにして欲しいというまなざしである。

「あー……♪」
「寝ながら笑っていますよ竜神様」
「ライルは寝ながらこちらの声を聞いておる感じがあるのう」
「あい♪」
「じゃあ私はご両親を抱えていこうかな? いいですか?」
『……!』

 フレイヤがリヒトの隣を歩くソル達に声をかける。
 しかし、二人はリヒトが歩くならと手を振って丁重にお断りした。

「本当に中に魂がいるんですねー」
「ちなみに結構強いぞい」
「え、戦えるのですか!?」
『……!』
「あーい♪」

 エメリの裾をつまんだリヒトがエレノアとも手を繋ぐ。高さ的にちょうどいいため歩きやすいようだ。

「あら、あの子赤ちゃんを二人も連れているわ」
「子だくさんねえ」
「ち、違っ……! 私の子ではない……!」
「あーう……?」
「あい」

 通りを歩いていると、エメリが子供を連れたお母さんに見られていた。慌てて声を出すが、大きな声だったためライルが目を覚ましそうになっていた。
 そこでリヒトが裾を引っ張り、しーっと静かにするよう口に指を当てて諫める。

「あ、はい、すみませんリヒト様……」
「ごめんなさいねエメリちゃん。ライルをこっちに貰うわね」
「あ、はい!」
「あーい」
『……!』
「すぴー……」

 トワイトは苦笑しながらライルを引き取る。
 するとリヒトはそのままエメリから手を離してトワイトの方へ寄っていく。

「うう……もう行ってしまわれた……」
「あはは、可愛い弟についていくの偉いね」

 赤ちゃんたちが離れてしまい、エメリは残念そうにつぶやいていた。
 
「こけー」
「あい? あーい!」
「ぴよー」
「わん」

 そこでジェニファーが声を上げた。どうやらひよこ達を呼んだらしく、リヒトのポケットから次々と出ていく。

「どうしたのかな?」
「お散歩じゃろう。せっかくだから歩くようにしておるのじゃ」
「ああ、いいですねえ」

 ジェニファーの後をひよこ達が並んで歩いていく。ぴょこぴょことついていく姿は道行く人も顔が綻んでいた。

「あーい!」
「こけー♪」
「ぴよー」

 するとリヒトがとてとてとジェニファーの近くまで行き、カバンから風車を取り出した。
 それを手に持ちジェニファーと一緒にひよこ達を引き連れていく。でんでん太鼓ほど音がしないのでこっちを選んだようだ。
 カラカラと風車が回り、リヒトはご機嫌な様子で前を歩いていた。

「元気でいいですね!」
「病気になるより全然ええわい。ダル、近くに居てやってくれ」
「わほぉん」
「賢い……」

 ディランがダルに指示を出すと、わかったといった感じでサッとひよこの後ろについた。エメリがそんなダルを見て目を丸くして驚く。

「あーい♪」
「こけー♪」
「お、ドラゴン一家じゃないか。相変わらず元気な子だな」
「おかげさまでのう」
「なんか抱っこしている子が増えている……?」
「ええ♪」
「なんか怖い人形が歩いているんだけど何だありゃ」
「ゴーレムみたいなもんじゃ」

 町の人からも覚えがいいためリヒトの行進にみな足を止めてみていた。そんな調子で歩いていき、お城まで到着した。

「あいー」
「よく頑張ったのうリヒト。ほれ、トコト達ポケットへ戻るのじゃ」
「ぴよっ!」
「ジェニファーとソルさん、エレノアさんはお父さんのカバンにね」
「こけ」
『……!』

 リヒトもさすがに疲れただろうと抱っこをする。その際、城で歩かせるわけにもいかないのでひよこ達とジェニファー、ソルとエレノアがディランのカバンへ入った。

「おや、フレイヤにエメリさん。それにディランさん達じゃないですか。どうされたのですか?」
「ごきげんようヴァール王子!」
「ヴァール殿か。話は聞いているかもしれんが、家族が増えたので紹介しに来たのじゃ」
「あー♪」

 フレイヤの案内でお城のホールへ行くと、そこでヴァールとコレルの二人と鉢合わせた。理由を言うと、リヒトが手を上げてライルを見る。

「ああ、リヒト君の出生が分かったを聞いていますよ。その子が弟君なんですね」
「あーう……むにゃー……」
「あい!」

 ヴァールがほほ笑みながらそう口にすると、ライルがむにゃむにゃしながら口を開き、リヒトがそうだという感じで大きな声を出した。

「ほう、大きな声だ。小さいのによく出る」
「あい」
「コレルも見習ったらどうだい? この前も辛気臭いなって言われていただろう」
「ぬ、う、うるさいな……陛下は今、謁見中だ。どうするヴァール?」
「母上が会いたがっていたから呼んでこよう。庭に案内してくれ」
「承知した。こちらへ」
「コレルさん王子にだけ言葉遣い悪いよねー。でも、かなり柔らかくなったかな?」
「う、うるさいといっている……行くぞ!」
「あーい」

 フレイヤの言葉に顔を赤くして踵を返し、庭へと歩いていく。ディラン達は顔を見合わせてクスリと笑った後、彼を追いかけるのだった。
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