老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第205話 竜、商店で買い物をする

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「お主の店じゃったか」
「ええ、まさか尋ねて来られるとは思いませんでした」
「たまたま豪華な店じゃと思って入っただけなんじゃがのう。そういえば先日のドルコント国はお疲れさんじゃったな」

 店にいたザミールが椅子を持ってきてディランを座らせ、カウンターで話をし出す。あのドルコント国の事件以降会っていないためひと月ぶりなのだ。

「いえ、リヒト君になにもなくて良かったですよ。ああいう手合いは許せない……とはいえ、ウォルモーダ様も大変みたいでしたし解決して良かったですよ。特にディランさん達の手を汚すことがなかったのが」
「あれはワシらが手を下すことではないからな。ウォルモーダ殿が一歩踏み出した結果じゃ」
「そう、ですね」

 ディランは腕組みをして目をつぶると、あの時のことを振り返って口にする。
 一番大事な『自分で動くこと』ができたので、今後、なにか壁に当たってもウォルモーダとオルドライデはなんとかしてみせるだろうと言う。

「あーう?」
「わほぉん?」
「リヒト、あまり触ってはいかんぞ?」

 リヒトは店内をペット達と歩き回り、なにかを掴んでは首を傾げていた。ディランが注意をするがザミールは笑っていた。

「ははは、その辺りは危ないものは無いですし、好きにさせてあげてください」
「お主、リヒトには甘いのう。結婚はしておらんのか、子供が好きなら自分でも持てばええのに」

 丁度、レイカがおめでたであることを知ったとザミールへ話し、所帯を持ったらどうだと尋ねた。

「……私はこういう仕事ですし、なかなか難しいですね。それにその資格は無いと思っています」
「どういうことじゃ?」
「それは……いえ、すみません変な話をしてしまいました。忘れてください」
「ふむ」

 一瞬、悲し気な顔をしてディランとリヒトに目を向けた後、愛想笑いをして手を振る。

「でも、最近あのキマイラのお世話をしている騎士の子と仲がいいじゃありませんか」
「……! 君、なにを言うんだ!」
「オーナーがあの子と話しているの楽しそうだからですよー」
「ほう、そうなのか」

 そこで店の裏に居た従業員がニヤリと笑みを浮かべながら、ひょっこり顔を出してそんなことを口にした。
 騎士と言えばフレイヤかとディランも顎に手を当てて笑みを浮かべる。

「エメリさんが色々持ってくるからフレイヤさんともよく話すだけだよ。だいたい私とは七つも離れているんだ、彼女がそう思わないよ」
「そうですかねえ。それくらいなら全然許容だと思いますけどねえ」
「口を動かさずに手を動かしてくれるかい……?」
「おっと、これ以上は危険だ……!」

 従業員がニヤニヤしながらそういうと、ザミールは笑顔で仕事に戻るよう告げた。
 圧を感じた従業員たちはそそくさと奥へ引っ込んでいく。

「まったく……私のことは気にしなくていいのに……それでなにか買いに出て来たのでは?」
「うむ、晩飯はトーニャ達と一緒にすることにしたから食材をじゃな。仕込むとしても夕方じゃし散歩がてら色々と見て回っておる」
「あーい♪」
「うぉふ♪」

 リヒトも屋敷か城にしか行ったことがないのでそういう意味でも散歩は意味があると言う。
 そこでリヒトがヤクトと一緒に目と口と思わしきぽっかりと空いている謎の置物を持ってきた。

「おや、ハニワか」
「さすがリヒト君、お目が高い。あの笛を買った時に仕入れたんですよ」
「うむ。悪いゴーストを退けるといった効果があると信じられておる置物じゃ。はるか昔、東の国の人間が作ったのが始まりじゃな」
「そ、壮大ですね、さすがです」

 ザミールが苦笑するなか、ハニワを掲げるリヒト。ディランはリヒトの頭に手を置いてから微笑む。

「気に入ったのか?」
「あい!」
「気に入ったんだ……さすがに目とかぽっかり空いているし、怖がるかと思ったからプレゼントしなかったんだけど……」
「リヒトでも持てるサイズじゃし、おもちゃとして認識したのかもしれんのう。折角じゃ、買って帰るぞい」
「いえいえ、リヒト君にプレゼントで」
「そういうわけにはいかん。ここは商店でワシらは客じゃ。買って帰らねば他の者に示しがつかんわい」
「あう」

 ディランがそう言って頷くと、リヒトも真似をして頷いていた。ザミールは困ったように頭を掻いていた。

「ははは、知り合いみたいだけど真面目な方じゃないか」
「確かにこの子は可愛いからプレゼントしてあげたくなる気はするけど」
「商売ならってのはそのお父さんの言う通りだよ」
「うーむ」

 他に商品を物色していたお客さんが見かねたのか、笑いながらザミールへ話しかけていた。彼は唸るが、確かにここは商店かと思いなおす。

「では値札どおり銀貨二枚、いただきましょう」
「承知したぞい。リヒト、大事にするんじゃぞ」
「あー♪」

 ディランがお金を払っているのを見てリヒトは目を輝かせてハニワをぶんぶんと振りまわす。

「ああ、それは割れやすいから気を付けておくれよ」
「あーう? ……あい!」

 ザミールがお金を受け取りながら焦っていた。リヒトはすぐに自分のカバンに入れると、ひょっこりハニワが顔を覗かせていた。

「ぴよー」
「ぴー」

 レイタとソオンはその顔が少し怖いのか、口を開けてポカーンと見上げていた。

「邪魔したのう。では食材を買いに行くとしようか」
「あ、それなら私が案内しますよ! すまない、ちょっと出てくる」
「はーい! ごゆっくりオーナー!」

 そしてディラン達はザミールを伴い外へと出た。まだまだ元気なリヒトはダルを撫でながら先を行く。

「わほぉん」
「あーう♪」

 リヒトはハニワに笛を差し込んで遊ぶ。なかなかシュールな絵面になるがとても楽しそうである。
 
「後で洗ってやらねばならんな」
「また、なにかおもちゃを探しに行商しないとなあ」
「次はどこへ行くのじゃ?」
「西のエンシュアルドとかいいかもしれませんね」
「南にはいかんのか? いや、モルゲンロート殿が南はあまり良くないと言っておったか」
「南……サリエルド帝国ですね。国境から帝都まで遠いですし、ドルコント国ほどでは無いですが帝王が絶対の権力を持っているので近づきたくない土地ですね」
「なるほどのう」
「そ、それより他のドラゴンの移住を――」

 ザミールはハッとして話を変えていた。
 そのまま商店を回ることになったが、リヒトはずっとハニワの置物にかかりきりだった

 そして屋敷に残ったトワイト達は――
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