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旅の始まり

静かな森を生き延びろ

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 「……プリメラ、気を付けて」
 「え?」

 焚火の炎が一瞬、揺れた。
 風がないため今の動きは不自然だと思いプリメラに声をかけて警戒を促す。気配はしないけど近くでなにかが動いたのは間違いない。

 僕はすぐに立ち上がって暗闇に視線を合わせる。焚火は向かって右に揺れた……となると――

 「<炎射ファイアアロー>」
 「わ……!」
 
 敵は左……と見せかけての。

 「上だ、プリメラ」
 「きゃああぁ!?」
 「チッ、いい勘をしている!」

 木の枝から足だけでぶら下がり覆面の男がプリメラを掴まえようと手を伸ばしてきたけど寸前で自分に引き寄せてから杖で殴ってやった。
 しかし覆面の男は上半身の動きだけでそれを回避すると地上に降りてから距離を取る。

 「……なるほど魔法と近接戦闘両方で好成績を残したディンか、やるな」
 「あなたは……ガーンズさん?」
 「ああ、その通りだ。ディンは申し分ねえ。プリメラちゃんはもう少し周囲の気配に気を配ろう。彼が居なければ俺に連れ去られて試験は終了だったぜ」
 「ごくり……そ、そうだったんですね」
 「ディンにお礼を言っておけよ? パーティと考えれば助け合いは必然だから助けられたことは問題ない。さて、とりあえず俺は戻るが試験はまだ続いている。頑張れよ」
 「はい、ありがとうございます」

 ガーンズさんは再び覆面をつけてまた闇の中へと消えた。目を大きく見開いたまま固まるプリメラのお尻を叩いてやる。

 「ひゃっ!?」
 「ほら、危機は去ったし休んでおこう……よ!?」
 「お尻さわった! えっちえっちえっち!!!」
 「僕が竦んでいたりするとじいちゃんがよく叩いてくれてたんだよ」
 「女の子にすることじゃないわよ!」

 そうらしい。
 うーん、女の子って難しい人間なんだなと顔を赤くして叩いてくるプリメラから逃れて言う。

 「元気だなあ、さっきの時もこれくらい動ければ多分大丈夫だよ」」
 「あ、逃げた! ……ま、まあ助けてくれたお礼は言っておかないとね。ありがと」
 「うん。でも油断はしないようにしよう。ガーンズさんは『とりあえず俺は戻る』と言っていたから他の人間が来るかもしれない」
 「確かに……よくそんなことに気づくわねえ」
 「じいちゃんが魔物の狩りを教えてくれた時に『戦術』っていうのかな? そういうのを説明してくれていたんだ。さっきのもタスクスパイダーがやるフェイントってやつに似てたからね」
 
 僕が説明するとプリメラは『あんたのお爺さんって何者なの?』と不思議そうな顔でまた大木の根元に座ったので、機嫌を直してもらおうと収納魔法から茶葉とポットを取り出して沸かしていたお湯で入れてあげた。

 「落ち着くよ」
 「あ、うん。ありがとう……って、さっきのお尻を触ったことは無くならないからね?」
 「どっちでもいいけど」
 「ふんだ」

 カップを両手で持ちながら口元に笑みを浮かべながらお茶を飲むプリメラは少し機嫌が直ったようである。
 さて、やはり襲撃があったことを考えると僕は寝ない方がいいかと考える。
 ただパーティとして一緒にいるため、ここで合格しても今後も同行しなければプリメラは心配だな。
 逆にいえば不合格の方が良かったのかもと考えてしまう。
 まあプリメラの目的と僕の目的は似ているので彼女を軸に旅をしてもいいかもとは思うのでなんにせよここは合格するために頑張ってみよう。


 ◆ ◇ ◆


 ――夜の森を足音を立てずに進む。

 それができるガーンズは別の冒険者候補の下へ向かう。
 ディンとプリメラ……いや、ディンの力を見たガーンズは満足気の表情で一人呟く。

 「ふっふ、久しぶりに腕の立つ若者が出てきたな。今回の参加者ではトップ合格は間違いないだろう。お嬢ちゃんの方は残念だが今一歩かね。お、やってるな」
 「う、おおお!」
 「待てカーチス!」
 「……焦りすぎだ。足元に注意」
 「うおわ!?」
 「<火撃ファイア>!」
 「っと……」

 ディンに声をかけたカーチスのパーティが、広場でダブルピースをしていた試験官と交戦するのを木の上から見つけるガーンズ。
 勇み足で出たカーチスを捕縛しようとした試験官にそばかすが素朴な雰囲気をだす女の子が魔法で助けていた。
 そこへもう一人の男性がハンドアクスで畳みかける。

 「つぉあ!」
 「……ふむ、全員に気づかれたらここは無理、か。ここは引くとしよう」
 「あ、待ちやがれ!」
 「ふ、深追いはダメだよカーチス」
 「……っ! そ、そうだなサラ」

 あの三人もなかなか悪くないとその場を離脱した試験官と合流するため移動するガーンズ。

 「ようウエクサ、どうだ?」
 「まあまあだ。初回でEランクスタートでもいいと思う。そっちは?」
 「例の坊主はCスタートでもいいくらいだな。嬢ちゃんはギリギリFってところだろう」
 「ふうん」
 「俺のフェイントを見切って一撃加えてきやがったからな。軽く調子を見るだけだったから真面目にやりゃ流石に負けないぜ?」

 わかっていると言わんばかりの視線を投げかけてくるウエクサがガーンズへ次に行こうと促す。 しかししばらくして彼は首をかしげることになる。

 「あ? そういやマハーリを見かけないな、どこいった?」
 「ん? 僕達と一緒に出たと思ったけど、他のパーティのところへ行っているんじゃ?」
 「そうか。なら俺達も――」

 ガーンズがもう少し周囲を確認してそれぞれのパーティの状況を確認した後、二人は駐留するべきロープの範囲内、その中央へと戻るとマハーリの姿を確認して肩を竦める。
 
 「ありゃマハーリ?」
 「あ、おかえり二人とも。遅かったわね」
 「早かったな?」
 「ええ。弓をもった女の子と剣持ちのカップルのところだったんだけど、ここから近いところに駐留しているから」
 「そうだったか。とりあえず魔物も俺達の気配があるからか動かないし落ち着いて試験ができるぜ」
 「他の人はまだやってるのかな」
 「ええ、そうみたい。だけど夜はまだ長いから焦らずに、ね? 次の打ち合わせまでゆっくりしましょう」

 マハーリはそういってガーンズ達にウインクをし、試験官達は闇夜の中で食料と水を口にする。
 他の者と合流後、各々が担当した試験者のことについて相談し合い、次のステップへと移行する準備を始めた。

 そして――
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