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因縁渦巻く町

グラニュー党を推そう

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 ――翌日

 「おお、あの時の生意気なガキ……ぐあ!? ぼ、冒険者ではないか。お前達が手伝うというのか?」
 「あくまでファルミさんのお手伝いですけどね」
 「私の身体を心配してのことよ」
 「ああ、そういう。先生が信頼しているなら言うことはありません――」

 僕達は領主様の屋敷へと足を運んでいた。
 ちょうどジェイドさんも仕事がお休みということで四人で昨晩のことを伝えると、トゥランスさんは問題ないと言う。

 「ギルドへの依頼という形で私が手配しておこう。残り日数も僅かなのでこれくらいでどうだろうか」
 「金貨十枚か、あと二十日くらいだし私は構わないわ」
 「僕も大丈夫です」
 
 冒険者の依頼としては初になるけど珍しい案件を請け負ったなと提示された条件を見ながらプリメラと確認していく。
 それはジェイドさんにも出されたけど当の本人は冷や汗をかきながら落ち着かない様子。

 「……」
 「ジェイドは……やっぱり手伝ってくれないのかしら」
 「無理強いはできませんよ先生」
 「息子は親の言うことを聞くべきだろう?」
 「それは違うぞヒドゥン。それにお前は親の言いなりってやつだから言うことを聞いているわけじゃねえし」
 「ぐぬ……!」

 僕達の視線が集まっていることに気付いたジェイドさんが周囲を見渡してから天井に顔を向けて目を瞑り、少し考えた後に口を開いた。

 「……わかりました。母さんの気が済むまでやります。よろしくお願いいたします」
 「そうか、助かるぞ!」
 「ただ、基本的には仕事がありますので休みの日だけということで」
 「ああ、配慮するよ、ありがとう。さてそれでは早速出かけるとしようか」
 「うんうん、お母さん信じていたわ」

 ジェイドさんも承諾し、ファルミさんは嬉しそうだ。
 だけど彼はずっと領主様をなんとも言えない目で見続けていて、やっぱり本当は協力したくないのかもしれないなと感じた。

 「お仕事ですか? 署名活動かしら」
 「いや、私達と一緒に商店街へ赴いてもらう。そこで店一軒ごとにこれを渡していく」
 「これは――」

 ◆ ◇ ◆

 「……これは領主様、こんなところに何の用で?」
 「仕事だ。お前達を苦しめた私を許せとは言わないが先代の守って来た領主の座を明け渡すわけには痛いっ!? なにをするトゥランス!!」
 「先に謝罪しろと言ったろうが。いえ、ヒドゥン様も心を入れ替えて領民のために尽くすと決めたのです」

 商店街に到着すると歓迎されていない雰囲気にトゥランスさんが頭を下げ、一緒に領主様も頭を下げた。
 そこでなんだなんだとお店の人間と買い物をしていた人間が集まって来て僕達はすっかり囲まれてしまう。

 「す、すまなかった……。今後は税を元に戻し、この三年あまりで負担があった分の補填を行うつもりだ」
 「信用できないねえ、好き放題やっていたところにいきなりそう言われてもさ」
 「ああ、その場しのぎってこともある。トゥランスとの悪ガキコンビは俺達も知っているが、こりゃガキの遊びじゃねえんだ」
 「ガキのころもかなり迷惑をかけられたが今は生活がかかってんだぞ。どうするってんだ今更」
 「……これを見て欲しい」
 「ん?」

 領主様は僕達にも見せてくれた紙を商店街の人間達へ配り目を通してもらうと、すぐに騒然となる。
 僕にはよく分からなかったんだけど――

 「げっ、この税の金額だと殆ど残らないじゃない。むしろマイナスかも?」
 「プリメラさんの言う通り税収はほぼマイナス。だが、このギリギリの線なら使用人の給金を払えて、かつ、この三年あまりの増税分を返せる」
 「代わりにヒドゥン君の食事は質素になって、コレクションしているお酒も売ると」
 「ぐぬう……。はあ……私とてオーガではない、昨日訪れた孤児院のガキ共が瘦せているのを見てはな。それに他の書類に目を通したが、ここではない町で盗みも横行しているらしい。そこまでして金を集めようとも思わん。金は死なんが人は死ぬ。逆にここで気づいて良かったのだ」
 
 ――と、ファルミさんに頭を撫でられて顔を赤くしていた領主様が国庫にほんの少しだけ残る程度の施策を考えたということらしい。

 「ほう、自警団の給料をねえ」
 「息子が喜ぶぞ」
 
 「本当に出来るのか……?」
 「出来る。こいつはアホだが、勉強はトップだ。俺もやるしな」
 「あはは、相変わらずトゥランスはヒドゥンに対して容赦ねえな! ……信じていいんだな、領主様よ?」
 「う、うむ」

 『大漁』と書かれた服を着ている男に領主様が詰め寄られていると、ファルミさんが腰に手を当てて笑いながら言う。

 「大丈夫、やるといったらヒドゥン君はやりますから。昔、魔物の襲撃があった時に尽力したのは学生の二人だったんですし」
 「あれ、ファルミさんか? あんたもグラニュー党に?」
 「ええ、教え子が反省しているなら手助けをしてあげようかと! ごほごほ……」
 「ああ、大声を出さないでください」

 プリメラが背中をさすってあげていると『大漁』服を着た人間は腕組みをしながら口を開く。

 「なるほどねえ、ファルミさんが一口噛んでいるならオレぁ乗ってもいい。ただし次はねえぜ、ヒドゥン様」
 「……肝に銘じよう」
 「お、ジェイドじゃねえか。おめえもか?」
 「いや、その……」

 その瞬間、他に領主様の味方をする人間が声を上げていた。
 不満はあるがもっと酷いことをする領主に比べればマシ、ということらしいけど……。

 「新しくなる人の方がいい可能性もあるよね」
 「それは否めない。だが、オリゴー伯はまだ若いし経験も浅い。施策を見たが公約しても実現できるかは……少し怪しい。だからこそそのままヒドゥンについている者もいるのだ」
 「なら勝てる?」
 「……勝算はある。現領主の不満を当人がすぐに改善すればいいからな。候補者はあくまでも『実現するかも』という話しかできない。ただ――」
 
 と、トゥランスさんは最後に『オリゴー伯は金を持っているから直接的な手段で来るかも』と語っていた。
 要するに寄付を多く出すとかだろう。だけど無駄なお金になるかもと思えば手を引くんじゃないかな?

 そんなことを思いつつ僕達は商店街を後にし次へと向かった――
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