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十章:夏那
266.あたしの友達
しおりを挟む『カナ、お前は……! このまま落ちたら溶岩に飲み込まれて終わりなんだぞ』
「あんたは空を飛べない。それはフレイムバードやグランさんに乗ったので気づいていた。諸悪をこれで消せれば後はリク達がなんとかしてくれるわ!」
『私は渡り歩く者……この身体から抜け出ることは容易なのだけどね!』
「それでも、その身体は、リクの師匠の身体は消せる――』
落下をしながらあたし達はそんな問答をしながら落下していく。意外と下までは遠く、熱が肌を焼いているのが良く分かる。
恐らくこのまま落ちてあたしは骨も残らずに死ぬ。だけど、レスバを殺したこいつを許すわけにはいかないし、このまま戦っていたらジリ貧でなにもできずアヤネに殺される気がする。
ならばせめてこいつの予想を上回る行動をと思い突撃を決めた。中身が違い、どこにでも現れるような奴は承知している。
だけど、あたしの予想ではこいつは誰かの身体を使わなければこちらの世界に干渉できない。
もし謎の存在であれば姿を見せずにこちらを苦しめてくればいい。だけどそれはしない。
また誰かに憑りつくのだろうけど、時間稼ぎにはなるはず。手練れの身体なんてそう多くはないからだ。
そしてひとまずリクを驚愕させた師匠を消す。それだけでもかなり違う。
『君が死んでそれが彼等に知られれば憎しみは私に向けられるだろうね』
「すでに恨みを買っているあんたが言う? くっ……」
暑くなってきた。地表……というか溶岩が近い……
「ダメ……意識が――」
『……』
これ以上は持たない。
あたしはアヤネの服を掴んだまま落ちていく。この手だけは離さない。そう思いながら意識が遠ざかっていく。
目を閉じる最後の瞬間、何故か困ったような顔であたしの手に自身の手を添えたアヤネを見た、気がした。
◆ ◇ ◆
「夏那?」
「ん……」
「ああ、良かった目が覚めた! びっくりしたよ、授業中に居眠りなんて」
「疲れていたからかな……? あれ……なんか夢を見ていたような……」
あたしは友人に起こされて目を覚ます。
なにか大事なことをやっていたような気がしたけど……? だけどここはいつもの教室で、目の前には友人が居る。
「で、今日は新作を見に行くの?」
「えっと……」
なんとなく頭が重いなと友人の声を聞きながら思う。そこで夢の内容を少し思い出して口にする。
「ううん……なんか、あたしは風太や水樹と異世界に行って冒険してたんだけど……」
「はあ? 面白い夢を見てるわね! まあ、そういう漫画は読むから別に変ってわけでもないけど。それで――」
いつもの調子で友人である椎子が肩を竦めてプッと噴き出す。こういうことを言っても変な目で見てこないのがいいところだ。
「……またやってる」
「ん」
そこで椎子が教室の隅を見て顔を顰める。
あたしもその視線の先を見ると、友人である恭子が居た。そして椎子が顔を顰めていた理由も同時に判明する。
「あんたって今日は暇ぁ?」
「ちょっと付き合ってよ」
「え、と……」
恭子に絡む二人のギャル。どうもあの子をいじめているって話が噂で聞いたことがある。
「またあいつら……!」
「やめときなよ夏那。睨まれると面倒だよ?」
「でも――」
と、あたしはこのやり取りを前にやったような気がすると感じた。どうしてそう思ったかは分からない。
けど、その時は椎子の言うことを聞いて声をかけなかった。
そして翌日から――
「……!」
「あ、夏那やめときなって! あんたまで嫌な目に遭うって」
「ううん。ダメよ椎子、こういう時に助けないでなにが友達って話よ」
「え?」
「ちょっとあんた達、あたしの友達に何か用?」
「あ? 緋村? なによ、こいつは私達と遊ぶんだけど?」
「そうなの、恭子?」
あたしが恭子に尋ねると、彼女は俯いて視線を逸らす。そう、こういう子だったっけ。
昔は明るい子だったんだけど、いつしかなにも言わない子になってしまった。
それはともかく、あたしの言葉に答えない彼女。
「うるさいよ、あんた。そいつは――」
「恭子! 言いたい事があるならハッキリしなさい! 黙っていることで安全に過ごせるかもしれない、あたしに迷惑がかからないかもしれない」
「……!」
「だけどね、黙ってちゃ分からないの。どうして欲しいのか言わないと……あたし達は分からないのよ……」
「か、なちゃん……」
「あのクソうるさいレスバは敵だったけど、嘘はつかなかった。騙しもしなかった。ただ、自分に素直に生きているだけ。でもね、それでいいのよ。たまにはブチ切れないとなにも変わらないことだってあるのよ!」
「ぐへ!?」
「……!?」
あたしはその瞬間、肩に手を置いて来たギャルの手を掴んで捻り上げた。そして、言う。
「あたしの友達に手を出したら承知しないわよ……! あんた達もつまらないことしてないで、仲良くやりなさいっての!」
「な、なによこいつ……」
「返事は!」
「は、はい!?」
「よし!」
「なんだこいつ……い、行こう……」
あたしの手を振りほどいたギャルは、あたしを変な目で見ながら立ち去って行った。周りのクラスメイト達はポカンとした顔で見ていた。
恭子もそうだったけど、しばらくしてから困った顔で笑いだした。
「も、もう、夏那ちゃん……仲良くって、そうなんだけど、返事……ふふ……」
「なによぉ、当たり前のことでしょ? 久しぶりに笑ったわね!」
「うん……あのね、夏那ちゃん」
「ん?」
「私は大丈夫。ありがとう、気にかけてくれて……大変なこと、しているんでしょ?」
「……」
そこで、どうしてか恭子はそんなことを言いだした。すると教室だった場所から一転、真っ白な空間に二人きりになっていた。
さっき思い出したレスバの件で、ここが夢の中だと気づいた。だから、これもきっと夢なのだと思う。
「まあね。だけど、死んじゃったっぽいんだよねえ。だからこんな夢を見ているのかも?」
「ふふ、さっぱりしているね、相変わらず。……うん、あの時のことは私が弱かっただけ。夏那ちゃんが気負う必要はないんだよ?」
「恭子?」
「大丈夫。きっと上手くいくわ。だから……新しいお友達のところへ――」
「あ、ちょっと! 恭子! どこ行くのよ! まだあんたとは話したいことが!」
「みんなと仲良くできるのは……夏那ちゃんのいいところだもん」
「恭子!」
◆ ◇ ◆
【――り!】
「ん……」
【――してください!】
この声、レスバ……?
【しっかりしてください!】
あたしは今、恭子と話していたんだけど……なんで火口に落ちて死んだレスバが……
【ちょっと、起きてくださいって言ってるじゃないですか!】
「ええい、うるさい!! あんた死んだんでしょうが! あたしも死んだんだっけ!?」
【ぶへ!?】
「うおお! 起きたぞ……!!」
「あれ?」
あんまり耳元でうるさいレスバに苛立ち、あたしは上半身を起こす。すると顔を覗かせていたらしいレスバの顔面に額がヒットし、悶絶していた。
その横にはドワーフ達が居て、宙にはドラゴンが浮いていた。
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