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35.ロイの考え
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「ただいまー」
「おかえり、ロイ。空が飛べるのは便利ねえ」
「まあ、家から通えるのは楽だよ」
陽が山に沈みかけているころ。ロイは自宅へと帰宅した。ちょうど入口で買い物から戻って来た母親と鉢合わせてそんな話をする。
「そういえばリアムちゃんは?」
「え? いや、一緒じゃないけど? 母さん、俺達が仲悪いの知っているだろ」
「そう。まだ帰っていないみたいだから一緒だと思ったんだけど」
「そうなんだ。まあ、あいつも強いから大丈夫だよ。盗賊団百人とか相手でも負けないしな」
ロイはそう言って玄関に入るとリビングへ入っていき、そのままキッチンまで行ってコップを取って水を汲む。
「部活紹介があるって言ってたからそっちに行ってるんじゃないかな? 俺は部活しないから教室で分かれたな」
「……ロイ、コップ逆さまよ」
「んお!?」
キッチンの水を汲んでいたロイのコップは逆で、水が床に滴っていた。
慌てて雑巾で床を拭いていると、母親が目を細めて言う。
「心配なんでしょ?」
「……そんなことないよ」
ロイは仏頂面で水を汲みなおすと一気に飲み干してから部屋へと戻っていく。
カバンを机に投げてからベッドに寝転がった。
「うーん、まだ気にしているのか俺は……ま、その内みんな慣れるだろうけど。学院も始まったばっかりだし、もしかしたら彼女もできるかもしれない」
そう呟いてごろりと転がる。
学院に来なくてもいいだろうという指摘をされたが、それ自体は間違っていない。
リアムと同じく欲しいのは『肩書き』で、首席などを取っていれば他国へ行くのが楽になるからだ。
「やっぱ冒険者がいいのかねえ……勇者ってだけであちこち行けたレオンは羨ましいぜ」
(戦い……アルケインと……)
「うるさいよ。というか学院を卒業して離れたら二度と叶わないから覚悟しとけ」
(……)
ロイは不意に聞こえてきた勇者レオンの声にぴしゃりと言い放ち黙らせた。リアムと好き合っていたのにこのせいでそうはならなかった。
仲違いした原因に色々と言われるつもりはなく、その代償として自分の時はその望みを叶えさせないという『嫌がらせ』をすることに決めたのだ。
「それでもあいつが近くに居ると気が高ぶるんだよな。テリア先生にもっと話を聞くべきかな?」
リアムが近いと高揚感があり、あまり近づくとおかしくなりそうになる。
それでなるべく離れるようにしているのだ。
「力があっても、なあ」
とはいえこれがなければ盗賊団に村がやられていたため、それは助かっていると手を見る。
「あー、やめやめ。とりあえず学院生活を楽しむことにシフトするか。フィーシアも可愛いし、他のクラスメイトともっと話すか。あ、ゴルドも構ってやろう。あいつ、割と真面目なんだよな」
ロイはリアムのことを考えないようにしてクラスのことを考え始める。ミトラにフィーシア、ゴルドはちょっと違うが彼とも仲良くなれそうな気がすると笑みを浮かべる。
「……っと、後はホブゴブリンとかの話も忘れないようにしないとな。割と状況は悪いみたいだし」
テリアとギルドマスター・ビョウボの話と、入学式の時に出会った騎士達のことを思い出す。
あれが定期的に繰り返されているなら、通常の冒険者が狙われた場合数によっては壊滅する。
ロイかリアムなら確実に倒せるため参加は必ずしようと決めていた。
「巣があるのか? こっちの森では見たことが無いし、どうも不可解な感じがするんだよな……」
現地に行けるなら行くべきか。そう思いながらロイは今日という日を終えた。
結局、リアムが戻って来たかどうかは知る由が無かった。
そして翌日――
「はよーっす」
「じゃあ、ゴルド君は剣術研究部に入ったんだ」
「ああ。初日で見学だけだったが、あれは強くなれそうだった……って、なぜお前が話しかけてくるんだ!?」
「だってクラスメイトだし席近いし……」
――ロイが教室に入るとゴルドとミトラが話していた。内容は昨日の部活めぐりのことだ。ゴルドがミトラを嗜めると少し悲しそうな顔をする。
「ま、まあ、オレは寛大だからな。許してやろう」
「ありがとう!」
その顔に圧されてゴルドはそっぽを向きながら話すことを許可し、ミトラは笑顔で返す。
「で、お前はなにか入ったのか?」
「僕はまだ決まってないかな。あ、ロイ君おはよう!」
「おはようミトラ。ゴルドも」
「ふん、村人とはいえ挨拶くらいはしてやる。おはよう」
「へへ、律儀だよなゴルド」
「うるさいな!? ……そういえばお前はどうなんだ? 部活」
ロイが笑うとゴルドが顔を赤くして怒鳴った。耳を抑えて舌を出すロイに、苛立たし気に尋ねる。
「部活は入らないんだ。昨日はギルドで依頼をこなせるように交渉しに行ってきた」
「え!?」
「なんだと……!? ま、まさか魔物討伐とか、か?」
「そうそう。そんなに驚くか? 俺は小さいころから依頼はやってたぞ」
学生の身分でギルドに出入りする者は多くない。
ロイがギルドで金を稼いで学院に来たことは聞いていたが、簡単なものだろうと考えていた二人。
「(し、しかし、確かにこいつの強さならできなくはない……実戦の方が鍛えられるのか……?)」
首を傾げるロイに、ゴルドはそんなことを考えるのだった。
「おかえり、ロイ。空が飛べるのは便利ねえ」
「まあ、家から通えるのは楽だよ」
陽が山に沈みかけているころ。ロイは自宅へと帰宅した。ちょうど入口で買い物から戻って来た母親と鉢合わせてそんな話をする。
「そういえばリアムちゃんは?」
「え? いや、一緒じゃないけど? 母さん、俺達が仲悪いの知っているだろ」
「そう。まだ帰っていないみたいだから一緒だと思ったんだけど」
「そうなんだ。まあ、あいつも強いから大丈夫だよ。盗賊団百人とか相手でも負けないしな」
ロイはそう言って玄関に入るとリビングへ入っていき、そのままキッチンまで行ってコップを取って水を汲む。
「部活紹介があるって言ってたからそっちに行ってるんじゃないかな? 俺は部活しないから教室で分かれたな」
「……ロイ、コップ逆さまよ」
「んお!?」
キッチンの水を汲んでいたロイのコップは逆で、水が床に滴っていた。
慌てて雑巾で床を拭いていると、母親が目を細めて言う。
「心配なんでしょ?」
「……そんなことないよ」
ロイは仏頂面で水を汲みなおすと一気に飲み干してから部屋へと戻っていく。
カバンを机に投げてからベッドに寝転がった。
「うーん、まだ気にしているのか俺は……ま、その内みんな慣れるだろうけど。学院も始まったばっかりだし、もしかしたら彼女もできるかもしれない」
そう呟いてごろりと転がる。
学院に来なくてもいいだろうという指摘をされたが、それ自体は間違っていない。
リアムと同じく欲しいのは『肩書き』で、首席などを取っていれば他国へ行くのが楽になるからだ。
「やっぱ冒険者がいいのかねえ……勇者ってだけであちこち行けたレオンは羨ましいぜ」
(戦い……アルケインと……)
「うるさいよ。というか学院を卒業して離れたら二度と叶わないから覚悟しとけ」
(……)
ロイは不意に聞こえてきた勇者レオンの声にぴしゃりと言い放ち黙らせた。リアムと好き合っていたのにこのせいでそうはならなかった。
仲違いした原因に色々と言われるつもりはなく、その代償として自分の時はその望みを叶えさせないという『嫌がらせ』をすることに決めたのだ。
「それでもあいつが近くに居ると気が高ぶるんだよな。テリア先生にもっと話を聞くべきかな?」
リアムが近いと高揚感があり、あまり近づくとおかしくなりそうになる。
それでなるべく離れるようにしているのだ。
「力があっても、なあ」
とはいえこれがなければ盗賊団に村がやられていたため、それは助かっていると手を見る。
「あー、やめやめ。とりあえず学院生活を楽しむことにシフトするか。フィーシアも可愛いし、他のクラスメイトともっと話すか。あ、ゴルドも構ってやろう。あいつ、割と真面目なんだよな」
ロイはリアムのことを考えないようにしてクラスのことを考え始める。ミトラにフィーシア、ゴルドはちょっと違うが彼とも仲良くなれそうな気がすると笑みを浮かべる。
「……っと、後はホブゴブリンとかの話も忘れないようにしないとな。割と状況は悪いみたいだし」
テリアとギルドマスター・ビョウボの話と、入学式の時に出会った騎士達のことを思い出す。
あれが定期的に繰り返されているなら、通常の冒険者が狙われた場合数によっては壊滅する。
ロイかリアムなら確実に倒せるため参加は必ずしようと決めていた。
「巣があるのか? こっちの森では見たことが無いし、どうも不可解な感じがするんだよな……」
現地に行けるなら行くべきか。そう思いながらロイは今日という日を終えた。
結局、リアムが戻って来たかどうかは知る由が無かった。
そして翌日――
「はよーっす」
「じゃあ、ゴルド君は剣術研究部に入ったんだ」
「ああ。初日で見学だけだったが、あれは強くなれそうだった……って、なぜお前が話しかけてくるんだ!?」
「だってクラスメイトだし席近いし……」
――ロイが教室に入るとゴルドとミトラが話していた。内容は昨日の部活めぐりのことだ。ゴルドがミトラを嗜めると少し悲しそうな顔をする。
「ま、まあ、オレは寛大だからな。許してやろう」
「ありがとう!」
その顔に圧されてゴルドはそっぽを向きながら話すことを許可し、ミトラは笑顔で返す。
「で、お前はなにか入ったのか?」
「僕はまだ決まってないかな。あ、ロイ君おはよう!」
「おはようミトラ。ゴルドも」
「ふん、村人とはいえ挨拶くらいはしてやる。おはよう」
「へへ、律儀だよなゴルド」
「うるさいな!? ……そういえばお前はどうなんだ? 部活」
ロイが笑うとゴルドが顔を赤くして怒鳴った。耳を抑えて舌を出すロイに、苛立たし気に尋ねる。
「部活は入らないんだ。昨日はギルドで依頼をこなせるように交渉しに行ってきた」
「え!?」
「なんだと……!? ま、まさか魔物討伐とか、か?」
「そうそう。そんなに驚くか? 俺は小さいころから依頼はやってたぞ」
学生の身分でギルドに出入りする者は多くない。
ロイがギルドで金を稼いで学院に来たことは聞いていたが、簡単なものだろうと考えていた二人。
「(し、しかし、確かにこいつの強さならできなくはない……実戦の方が鍛えられるのか……?)」
首を傾げるロイに、ゴルドはそんなことを考えるのだった。
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