魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第二章

第68話 激怒

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「ふざけるな」
「え? ……あ!?」

 タブレットをアウラ様に渡してシャルがイラスの胸倉を掴んで引き寄せると、怒りを露わにしてから口を開く。

「ふざけんなって言ってんの……! あんた達のせいで死んだ人間がたくさんいるのよ!? それが生き恥とかくだらない理由で死にたい? 心底苛立つわね!」
「あう……!?」
「シャ、シャル……」
「アウラ様、いい」

 シャルがイラスをビンタしたところでアウラ様が困惑しながら止めようとした。
 だけど俺はやらせておこうと彼女を制止する。
 そこへギャレットさんとヘッジも話し出した。

「まあ、侵略しておいていざ捕まったら殺せってのはいくらなんでも勝手がすぎるよな」
「イラスは戦っていない時はネガティブが酷いからな。シャルル様に説教されても仕方ねえな」

 そんな話をしていると、シャルがイラスの首をガクガクと動かしながら激昂していた。

「死んで楽になるのは絶対に許さない……! グライアードの攻撃で死んだ人に謝って、許されなかったとしてもあんたは生きるの! 子供だって死んでる!」
「そ、それは……」
「あんたがやったかどうかは分からない。それに実家に面目が立たないなんて言ったって、そもそも家族から見向きもされていないんじゃないの?」
「……! い、言ったな!」
「痛っ!? こんの!!」
「あ、ああ……! ああ……あああ!?」

 芋虫イラスが実家のことを言われてカッとなり、頭突きを繰り出した。
 それが顎にヒットしシャルが涙目になる。すかさずシャルがイラスを髪を掴んで額をぶつけた。アウラ様はオロオロするばかりである。

「あぐあ!?」
「その拘束ほどいてやるわ……来なさい……!」
「後悔するなよ……!」
「ええ!?」

 シャルがイラスを解放し、アウラ様が慌てる。
 イラスが口を開くと、不敵に笑いながら手をカモンと挑発をする。

「べこべこにしてやるわ」
「こいつ……!」

 そうして始まったのは武器を使わない徒手空拳での殴り合い。顔が腫れるのはちょっと可哀想だが、シャルの主張は俺もそう思うし説教の一つでもしてやりたいと思っていた。
 だけどそれをするのは俺じゃなく、エトワールの誰かだと考えていた。

「このまま生きていても殺されるだけ。恨みを晴らしたければ殺せばいい!」
「殺すに値しないって言ってんのよ!」

 そんな中、二人の喧嘩は続く。お互い戦士なので、攻撃がなかなか当たらない。
 二人の息が上がってきたところでイラスの拳をシャルが受け止めた。

「王族が知った風なことを……!」
「家族をないがしろにしている家なんて大したこと……ないわね!」
「また家のことを……! うぐ……」

 シャルの拳がボディにヒットしくの字に曲がるイラス。そこへ再度ビンタが頬を打つ。

「ふう……ふう……あんた、エトワールの人間を殺したの?」
「……」

 髪をかき上げながら質問をする。しかしそれには答えずだんまりを決めていた。にらみ合う二人。
 だが、そこでヘッジがくっくと笑いながら口を開く

「そいつは殺してねえよ。魔兵機《ゾルダート》に乗っていたけど、戦いはこの前リクの旦那とが初めてだ。殺したってんなら他の隊長が一番殺っているだろうな」
「お前……!? 裏切者が……!」
「イラス、お前だって気づいてんだろ? グライアードの侵攻がいくらなんでも急すぎるし、意味が分からないことをよ」
「し、しかし騎士は命令を聞いてからこそ……」
「その結果がこれだろ? だいたいシャルル様の言う通り、お前んちもおかしいんだよ」
「……」

 ヘッジが新しい煙草に火をつけながら肩を竦めると、イラスは構えを解いて無言で俯いた。シャルも何かを感じ取ったのか構えを解く。
 しばらく沈黙がその場を支配する。すると不意にイラスが口を開く。

「……そうだ。罪悪感からじゃない。私はあの家が嫌いだった。だからいつか私に目を向けてもらえるように手を尽くした……尽くしたけど、あの人達は姉さんばかり……。騎士になり、魔兵機《ゾルダート》に志願したのは……どこかでまだ見返せると思うのと同時にどこかで死ねると思った、から」

 そう言って涙を流すイラスを見て俺達は顔を見合わせる。正直な話、身勝手だと思う。だけどこいつ自身が追い詰められていたと考えればさっさと殺せと言っていたのもわからんでもない。
 と思わせて駄々をこねて裁きの台につく予定だったのかもな。

「あんたの気持ちはわからないでもないわ。あたしもお姉さまの妹だし、比べられることは多かった。だからガエイン師匠に剣を教わって別の道を見つけた。イラスだっけ? 家の人間を見返すなら一緒に戦ってよ」
「え? ……は!?」
「シャル?」
「殺さない……けど、死ぬ気であたし達のために働いてもらうわ。どうせ実家もあんたのこと、どうでもいいんでしょ? 魔兵機《ゾルダート》に乗ってウチの王都を奪還してグライアードの連中を追い返した後、実家を攻めましょうよ」
「……!」

 シャルがしれっとした顔で口の血を拭いながらそんなことを言い、イラスが目を丸くしてシャルを見た。

「フッ……」
「いやあ……」

 ビッダーが珍しく笑い、バスレーナが頬を掻きながら苦笑する。

 そして――

「フフ……あはは……それは、凄いことね! わ、私が……ふふ、あの家に一泡吹かせるならそれくらいは必要か」
「そうよ。どうせ死ぬつもりならグライアードの連中を倒すのに力を貸して。そうねえ、あんたが裏切って実家がどうなるかわからないからさっさとしたいわね」
「怖いお姫様ですね。……わかりました、イラス・ケネリーできることをお手伝いしましょう」
「うんうん! あ、拘束はさせてもらうからよろしくねー」
「え!?」
「嘘よ♪」

 慌てるイラスに、笑いかけるシャルにその場に居た全員が笑う。
 ……ま、裏切るかどうかって問題は残っているが、それはビッダーとヘッジも同じか。俺とサクヤの警戒があるのでなにかあれば注視できる。
 シャルも強いから身を守れるだろう。

「よし! ならギャレットさん、魔兵機《ゾルダート》を使えるようにしましょう! お姉さま、みんなに説明よろしくね!」
「ハッ!? え、ええ、わかりました。あの、イラスさん、げ、元気を出してくださいね……!」
「え!? あ、はい……」

 なぜかお互い頭を下げるアウラ様とイラス。そこでガエイン爺さんがやってきた。

「お、集まっておるのう。アウラ姫様、オンディーヌ伯爵と町長たちと会談予定とのこと。行きましょう」
「そうですね。ガエインも今から私の指針を聞くことになりますが、驚かないでください」
「むう?」

 ガエイン爺さんと一緒にアウラ様が町へと歩いて行くのを見送る俺達。
 さて、一機でもまともに動かせるようになるといいんだけど、どうだろうな?
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