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第二章
第74話 盗賊団
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「くく……よく寝ているねえ。これだけ人数が居れば金目のもののひとつやふたつ……」
「食い物があればいいですなあ」
「慎重に間合いを詰めますよ。抜き足、差し足、千鳥足と言いますし」
「いいこと言うじゃないかラーク! それじゃそれで――」
「――それでどうするつもりかしら?」
「千鳥足じゃと前後不覚だろうに」
「「「……!?」」」
ほぼ全員が寝静まった深夜。
妙な三人が付近に接近しているという警告がサクヤから発せられ、静かに動向を伺っていた。
するとこの時間になってからこいつらは行動を起こし、馬車の荷台に近づこうとしていたところを包囲したというわけだ。
女性一人に男が二人。他にレーダーには映っていなかったので不審者はこいつらだけだろう。
「あんた達、何者? グライアードの追手かしら?」
「グライアード? なんのことか分からないけれど、尋ねられたなら答えなくちゃあいけないね! ビルゴ!」
シャルが剣を向けて尋ねると、囲まれているのに急にテンションを高くした女性が筋肉の凄い男へ指を向ける。
「へい! 我等はフリンク盗賊団! こちらに居る25歳独身のお頭であるベリエ様を筆頭とした盗賊団だ!……うがぁ!?」
「余計なことを言うんじゃないよ!? それにお頭と呼ぶなと何度言ったらわかるんだい!? それと盗賊団が二回被っているよ!」
名乗りを上げた瞬間、ベリエと紹介された女性が筋肉男……ビルゴだっけ? 彼に鋭いミドルキックをかましていた。
威力が高いのか体がでかいビルゴが飛び上がる。
「フッ、そこで蹴飛ばされているビルゴ。そしてこの私、ラークがベリエ様の部下一号と二号だ。あ、一号は私だぞ」
「あ、ラーク! ずるいぞ!?」
ラークと名乗った男はビルゴに動じず髪をかき上げていた。
ラークはどちらかと言えば細身で、優男のような印象を受ける。顔もまあまあイケメンの部類に入るだろう。
というか――
「情報量が多いなあ……」
「眠いなら寝てろよバスレーナ。危ないかもしれないだろ」
「なんか雰囲気的に大丈夫そうかなって」
先ほどの口上で緊張感の欠片も無くなったのは確かだが。そう思っているとシャルが目を細めて口を開く。
「盗賊団、ね。これだけの人数が移動していたらいつか狙われるかも、とは思ってたから驚きはしないわ。こっそり近づいて子供を人質にでもしてから要求をするつもりだったのかしら? 残念だったわね」
不敵に笑うシャル。
すると三人組は冷や汗を噴出させながら言う。
「子供を人質に……!?」
「な、なんて恐ろしいことを考えるんだ……」
「フッ、美しいお嬢さんがそういうことを言ってはいけないな……」
割とまともなことを……!?
ホントこいつらなんなんだろうな? ただのアホだろうか。
「なんであたしが悪いみたいになってんのよ!?」
「いや、子供を人質にしたら可哀想でしょうが!」
「その通りじゃが……お主ら盗賊ではないのか……?」
「ふむ、演技じゃなさそうだけど、なんだこいつら?」
ヘッジに同意したいところだ。
するとリーダーであるベリエが咳ばらいをした後に宣言をする。
「今日のところは見逃してあげるよ! ビルゴ、ラーク、行くよ!」
「あいよ!」
「また会おう、諸君!」
この場から逃走することを。
「……ハッ!? 待ちなさい!!」
俺達は一瞬、呆然としてしまった。なんせ意味不明だからな……! するといち早くハッとなったシャルが、タブレットをバスレーナに預けて追いかけ始めた。
「見逃してあげるってのはあんた達のセリフじゃないでしょうがっ!」
「ひぃ、追ってきた!? まだなにもしてないのに!? ……ええい、ビルゴはアタシを抱えて走りな! ラークはあの小娘を足止めするんだよ!」
「オッケーですぜ!」
「承知いたしました。美しいお嬢さんのお相手ならいくらでもやりますよ」
あの筋肉は伊達じゃないようで、軽々と
「キザね。あたしを止められると思っているの?」
「多少は」
ラークは振り返ると剣を抜いてからシャルの前に立つ。ガエイン爺さんの弟子だ、盗賊程度シャルなら余裕だろう。
「はっ!」
「おおう!? フ、フフ……いい剣筋ですね……!」
「どきなさいって!」
案の定、一撃を受けたラークはよろける。このまま押し切れば終わりだ。そう思っているとガエイン爺さんが口を開く。
「ほう……あの若いのやりおるな」
「そうなのか?」
「うむ。相手を攻撃せず、防御だけに徹しておる。実のところ剣技というのは攻める方が分かりやすく、また楽でもある。シャルは手加減しておるが、あれだけの防御技術はなかなかじゃぞ」
「せい! やあ!」
「おう!? おう!? 剣なんて野蛮なことは可憐な君には似合わな……おう!?」
冷静に見てみると確かに防御ばかりだがシャルの攻撃は届いていない。そこでシャルは舌打ちして本気で打ち込む。
「フラフラとして……!」
「フフ、あんまり怒ると可愛い顔が台無しだよお嬢さん。……‟フルカロル”」
「な……!?」
「なに!?」
「あれは……!」
ラークがシャルの斬撃を弾いた後、なにかを呟いていた。
するとその直後に剣から突風が吹き出し、シャルを襲う。
「なんの! ……あ!?」
「フフフ、さらば!」
そして当のラークはというとその勢いに任せて大きく後退していた。先に逃げた二人もいつの間にか姿が見えなかった。
「くそ……! 逃がした! 追いかけないと!」
「もういいんじゃないか? こっちの正体は分かってないし、なにか盗られたわけでもない。次に来たら即捕縛だ」
「あれに時間を取られるのはちょっともったいないですよ」
俺とバスレーナにそう言われて口を尖らせるシャル。とりあえずガエイン爺さんにどうするか聞いてみるか。
「どうする爺さん? とりあえずヴァイスで追うか? すぐ掴まえられるぞ」
「むう」
「どうしたよ? ガエイン殿はなにか気になったっぽいけど」
ヘッジが煙草に火をつけながら首を傾げると、爺さんはその疑問を口にした。
「あの男が持っていた剣……あれは魔剣じゃ」
「魔剣? やっぱりそういうのもあるんだな」
「うむ。かなり珍しい武器でワシも数本しか見たことがないぞ。あれは風の力を宿した剣じゃな」
「上手く使えば騎士団ひとつに相当する、そういう代物って言ってたわよね。……なんであんな変な連中が持っているのかしら……」
「わからん。が、油断していい相手では無さそうだ。残り二人も戦ってはおらんからな」
ひとまずレーダーの中には居るがかなり遠くなったので後は俺が警戒する方向で夜を越すことにした。
盗賊団とは言っていたけどどれくらいの規模なんだろうな?
◆ ◇ ◆
「ふえっくしょ!?」
「うわあ、お頭汚いですぜ!?」
「お頭って言うんじゃないよ! ……うう、まさかあんな簡単に囲まれるなんてねえ……」
「フッ、どうも我々は待ち伏せされていたようですね」
「チッ、まったく癪だねえ……まあいい。チャンスはまた来るはずさ。あのお嬢さんはいい服を着ていたし、貴族の移動かもね」
「ええ。ではひとまず私は逃げるのに貢献したのでこの肉を……」
「あ、でかいのはアタシのだよ!?」
「腹いっぱい飯をくいてえなあ……」
「食い物があればいいですなあ」
「慎重に間合いを詰めますよ。抜き足、差し足、千鳥足と言いますし」
「いいこと言うじゃないかラーク! それじゃそれで――」
「――それでどうするつもりかしら?」
「千鳥足じゃと前後不覚だろうに」
「「「……!?」」」
ほぼ全員が寝静まった深夜。
妙な三人が付近に接近しているという警告がサクヤから発せられ、静かに動向を伺っていた。
するとこの時間になってからこいつらは行動を起こし、馬車の荷台に近づこうとしていたところを包囲したというわけだ。
女性一人に男が二人。他にレーダーには映っていなかったので不審者はこいつらだけだろう。
「あんた達、何者? グライアードの追手かしら?」
「グライアード? なんのことか分からないけれど、尋ねられたなら答えなくちゃあいけないね! ビルゴ!」
シャルが剣を向けて尋ねると、囲まれているのに急にテンションを高くした女性が筋肉の凄い男へ指を向ける。
「へい! 我等はフリンク盗賊団! こちらに居る25歳独身のお頭であるベリエ様を筆頭とした盗賊団だ!……うがぁ!?」
「余計なことを言うんじゃないよ!? それにお頭と呼ぶなと何度言ったらわかるんだい!? それと盗賊団が二回被っているよ!」
名乗りを上げた瞬間、ベリエと紹介された女性が筋肉男……ビルゴだっけ? 彼に鋭いミドルキックをかましていた。
威力が高いのか体がでかいビルゴが飛び上がる。
「フッ、そこで蹴飛ばされているビルゴ。そしてこの私、ラークがベリエ様の部下一号と二号だ。あ、一号は私だぞ」
「あ、ラーク! ずるいぞ!?」
ラークと名乗った男はビルゴに動じず髪をかき上げていた。
ラークはどちらかと言えば細身で、優男のような印象を受ける。顔もまあまあイケメンの部類に入るだろう。
というか――
「情報量が多いなあ……」
「眠いなら寝てろよバスレーナ。危ないかもしれないだろ」
「なんか雰囲気的に大丈夫そうかなって」
先ほどの口上で緊張感の欠片も無くなったのは確かだが。そう思っているとシャルが目を細めて口を開く。
「盗賊団、ね。これだけの人数が移動していたらいつか狙われるかも、とは思ってたから驚きはしないわ。こっそり近づいて子供を人質にでもしてから要求をするつもりだったのかしら? 残念だったわね」
不敵に笑うシャル。
すると三人組は冷や汗を噴出させながら言う。
「子供を人質に……!?」
「な、なんて恐ろしいことを考えるんだ……」
「フッ、美しいお嬢さんがそういうことを言ってはいけないな……」
割とまともなことを……!?
ホントこいつらなんなんだろうな? ただのアホだろうか。
「なんであたしが悪いみたいになってんのよ!?」
「いや、子供を人質にしたら可哀想でしょうが!」
「その通りじゃが……お主ら盗賊ではないのか……?」
「ふむ、演技じゃなさそうだけど、なんだこいつら?」
ヘッジに同意したいところだ。
するとリーダーであるベリエが咳ばらいをした後に宣言をする。
「今日のところは見逃してあげるよ! ビルゴ、ラーク、行くよ!」
「あいよ!」
「また会おう、諸君!」
この場から逃走することを。
「……ハッ!? 待ちなさい!!」
俺達は一瞬、呆然としてしまった。なんせ意味不明だからな……! するといち早くハッとなったシャルが、タブレットをバスレーナに預けて追いかけ始めた。
「見逃してあげるってのはあんた達のセリフじゃないでしょうがっ!」
「ひぃ、追ってきた!? まだなにもしてないのに!? ……ええい、ビルゴはアタシを抱えて走りな! ラークはあの小娘を足止めするんだよ!」
「オッケーですぜ!」
「承知いたしました。美しいお嬢さんのお相手ならいくらでもやりますよ」
あの筋肉は伊達じゃないようで、軽々と
「キザね。あたしを止められると思っているの?」
「多少は」
ラークは振り返ると剣を抜いてからシャルの前に立つ。ガエイン爺さんの弟子だ、盗賊程度シャルなら余裕だろう。
「はっ!」
「おおう!? フ、フフ……いい剣筋ですね……!」
「どきなさいって!」
案の定、一撃を受けたラークはよろける。このまま押し切れば終わりだ。そう思っているとガエイン爺さんが口を開く。
「ほう……あの若いのやりおるな」
「そうなのか?」
「うむ。相手を攻撃せず、防御だけに徹しておる。実のところ剣技というのは攻める方が分かりやすく、また楽でもある。シャルは手加減しておるが、あれだけの防御技術はなかなかじゃぞ」
「せい! やあ!」
「おう!? おう!? 剣なんて野蛮なことは可憐な君には似合わな……おう!?」
冷静に見てみると確かに防御ばかりだがシャルの攻撃は届いていない。そこでシャルは舌打ちして本気で打ち込む。
「フラフラとして……!」
「フフ、あんまり怒ると可愛い顔が台無しだよお嬢さん。……‟フルカロル”」
「な……!?」
「なに!?」
「あれは……!」
ラークがシャルの斬撃を弾いた後、なにかを呟いていた。
するとその直後に剣から突風が吹き出し、シャルを襲う。
「なんの! ……あ!?」
「フフフ、さらば!」
そして当のラークはというとその勢いに任せて大きく後退していた。先に逃げた二人もいつの間にか姿が見えなかった。
「くそ……! 逃がした! 追いかけないと!」
「もういいんじゃないか? こっちの正体は分かってないし、なにか盗られたわけでもない。次に来たら即捕縛だ」
「あれに時間を取られるのはちょっともったいないですよ」
俺とバスレーナにそう言われて口を尖らせるシャル。とりあえずガエイン爺さんにどうするか聞いてみるか。
「どうする爺さん? とりあえずヴァイスで追うか? すぐ掴まえられるぞ」
「むう」
「どうしたよ? ガエイン殿はなにか気になったっぽいけど」
ヘッジが煙草に火をつけながら首を傾げると、爺さんはその疑問を口にした。
「あの男が持っていた剣……あれは魔剣じゃ」
「魔剣? やっぱりそういうのもあるんだな」
「うむ。かなり珍しい武器でワシも数本しか見たことがないぞ。あれは風の力を宿した剣じゃな」
「上手く使えば騎士団ひとつに相当する、そういう代物って言ってたわよね。……なんであんな変な連中が持っているのかしら……」
「わからん。が、油断していい相手では無さそうだ。残り二人も戦ってはおらんからな」
ひとまずレーダーの中には居るがかなり遠くなったので後は俺が警戒する方向で夜を越すことにした。
盗賊団とは言っていたけどどれくらいの規模なんだろうな?
◆ ◇ ◆
「ふえっくしょ!?」
「うわあ、お頭汚いですぜ!?」
「お頭って言うんじゃないよ! ……うう、まさかあんな簡単に囲まれるなんてねえ……」
「フッ、どうも我々は待ち伏せされていたようですね」
「チッ、まったく癪だねえ……まあいい。チャンスはまた来るはずさ。あのお嬢さんはいい服を着ていたし、貴族の移動かもね」
「ええ。ではひとまず私は逃げるのに貢献したのでこの肉を……」
「あ、でかいのはアタシのだよ!?」
「腹いっぱい飯をくいてえなあ……」
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