魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第三章

第117話 乱闘

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「……よし、これなら」

 アンロックが名前の通り、扉の鍵を開けるとザナックとヘッジが先に入る。

「警備は無し、と」
「油断し過ぎじゃないか? グライアードの騎士は練度が低い」

 ザナックが呆れたように口を開くと、ヘッジは肩を竦めてゆっくり歩き出す。

「こっち側に来たオレにはある程度わかるがな」
「何だ?」
「一つは魔兵機《ゾルダート》の存在。リク殿のせいで霞んでいるが本気で動かせば町の人間を一方的に蹂躙できる」

 階段に足をかけて上を見るヘッジ。そこへザナックが追従すると続きを口にする。

「他には?」
「オレ達と同じさ。『隣国まで来て人殺しかよ』ってな」

 なるほど、と、ザナックは納得する。
 ジョンビエルのような戦闘狂なら願ったりという状況だろう。
 だが、戦争を開始することを知っていても、無抵抗の人間を殺すことを命令されたら?
 疑問を持っている者は案外多いとヘッジは暗に言っているのだ。

「さあて、後はカンを抑えるだけだ」
「……開錠する」
「よし……!」

 それはともかく、屋敷の二階にある部屋に到着したザナック達はアンロックが鍵を開けるのを待つ。
 するとそこで見回りをしていたらしいグライアードの騎士が通路の先に現れた。

「……? そこは隊長の部屋だぞ? 一体何を……いや、冒険者だと? 貴様ら何者だ!」
「おっと、オレはジョンビエル隊の人間だぜ?」
「だとして、こそこそと隊長の部屋に入る必要があるか。そっちの男は我が隊の人間ではないぞ! なにを企んでいる」

 そう言ったグライアードの騎士が剣を抜いて警告を報せる笛を鳴らした。そのまま一人で駆けてくる。それを見てヘッジは煙草に火をつけてから剣を抜いた。

「へっ、ここまで来たら後はなんとでもならあ。中はザナックに任せるぜ。オレはこいつを止める」
「我々も……」
「いいって。タイマンでやれるだろ。笛の音で野郎も起きたはずだ」
「すまん、すぐ戻るぞ!」

 ザナックはヘッジをその場に残して部屋へ突入する。リビングのような部屋にはおらず、寝室らしき扉を蹴破る。

「笛の音……敵襲だと!? うお!?」

 ヘッジの言う通り慌てて起きたらしい男が装備を手にしているところに遭遇した。
 この男かとザナックが剣先を向けて言う。

「グライアードのカンだな? エトワール王国の騎士が一人、ザナックがお前を拘束する」
「エトワール王国だと……!? 馬鹿な、どうやって入り込んだ! 他の兵はどうしている!?」

 カンが大声で叫びながら誰にともなく言う。しかしそれに答えるも者はいない。護衛をつけていなかったので完全に追い詰められた形となる。

「町を壊していないから魔兵機《ゾルダート》に乗ることも出来ないな? 大人しく投降してもらおう」
「馬鹿なことを……! そんなことをすればフレッサー将軍に処刑されるわ! 三人ごときで俺を倒せると思うなよ!」

 カンは唾を飛ばしながら叫ぶと、右手に剣、左手に逆手でダガーを持ち踏み込んで来た。

「二剣使い……!」
「だからどうしたぁ!」
「……来い!」

 カンは先頭に立つザナックへ剣を振り下ろしながら怒声を上げる。寝ていたので防具が無いため防戦をするかと思ったが、カンから仕掛けてきたのでエトワール側は少し驚いていた。
 だが、隊長クラスの人間が消極的なはずもないかと腰を落として迎え撃つ体制を取る。

「それ!」
「むん……!」

 ザナックが剣を受けると、体重の乗った一撃は重く片手で振り下ろしたとは思えない威力だった。

「もらった!」
「ふん、このダガーが見せかけだけと思うなよ……!」

 鍔迫り合い状態となったカンに、エトワールの騎士が斬りかかった。リビングに比べて狭い室内なので逃げ場は薄いと思ったからだ。
 しかしカンはその体勢のまま左手のダガーで剣を受け止めた。

「やるな! しかしそれではもうガードはできまい!」
「なんの、このカン・ガンを甘く見てもらっては困るぞエトワールの雑兵ども!」
「なんと!?」

 三人目の騎士の突きをしゃがんで回避するカン。バランスが崩れた二人から剣を離して足払いをかけた。
 派手に後ろに転がった二人をよそに、両足で跳ねるように立ち上がったカンは、上半身をねじりながら突いてきた騎士へと攻撃する。

「重い……!」
「チッ、やるな……しかし!」
「ぐは!?」

 カンの一撃でよろけた騎士を蹴り飛ばして壁に追いやると、そのまま起き上がろうとするザナックへ飛び掛かる。
 あわや胸を……と思ったところでザナックはリビング側に転がっていく。

「逃がすかよ」
「くっ……!」

 立ち上がる暇を与えずにカンは剣を突き出していく。ザナックも地球のカンフー映画のようにシュっと回避する。

「とあ!」
「チィ!?」

 ザナックは上半身で剣をかわしながら足を引っかけてカンを転ばす。前のめりに倒れたカンがザナックに覆いかぶさるように倒れ、指一本程度の距離までお互い顔を近づける。

「……」
「……」

 そこでお互いニヤリと笑みを浮かべ、次の瞬間ザナックの拳がカンの脇腹に突き刺さる。

「ぐあ!? おのれ……!」
「あがっ!?」
「ザナック!?」

 苦悶の表情を浮かべて苦しむも、悪あがきで頭突きを、転んだ拍子にヘルムが外れたザナックに食らわせる。
 もちろんカンも無事ではすまないためお互い右と左に転がって呻く。

「よ、よし! 抑えるぞ!」
「ぐぬ……! 愚か者めぇ!!」
「うおあ!?」

 苦しむカンを抑えるため、転ばされた騎士が足を狙って剣を振るがダガーを顔面に投げつけた。それを上手く回避するが騎士の頬を掠り血が滴り落ちる。
 その間に起き上がったカンは怯んだ騎士へ剣を振り下ろし、肩口に叩きつけた。
 鎧があるため切り裂くといったことはできないが痺れさせるには十分だった。

「ふん!」
「なに!?」

 騎士を蹴り飛ばして寝室へ押し込むと、壁に刺さったダガーを回収して扉を閉めて近くにあった本棚を引きずり倒してすぐに開かないように講じた。

「さて、仕切り直しか」
「話を聞く限りダメ隊長っぽい印象だったが、やるじゃないか」
「グライアードの国で隊長になるためには実力が必要だ。貴様等は違うのかね?」
「いや、そうだな。騎士たる者、力も示さねばならんな。……勝負!」

 立ち上がったザナックは唾を吐いた後、剣を構えてそう叫んだ。
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