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第零話 プロローグのようなもの
しおりを挟む白い天井。
ここ数日で僕が目にした光景の九割はこれだ。
どうしてか?
答えは単純、ここは病院だから。
「うう……兄ちゃん……」
「まさかこんなことに……」
首を横に向けると母親と弟が泣いているのが見えた。
ああ、いやだ、僕なんかのためにこんな苦労をかけていることが本当に辛い。
――僕、『生神 劾十七歳は小さいころに患った心臓病のおかげで両親に迷惑をかけっぱなしの人生だった。
四つ下の弟が産まれてからは特に病状が悪化し、中学は早退が多く友人もまともにできなかった。小学生時代とは学区が違ったのでほとんど知り合いの居ない中学生活は面白くなかった。
「ごめんなあ、丈夫な体に産んでやれなくて」
「こっちこそごめんよ。僕が死んだら保険金も降りるし、それで三人幸せに暮らしてくれれば」
「馬鹿! 諦めるんじゃないよ! なんとか……なるから……」
「はは……」
涙ぐむ両親に力なく微笑む。
だけど自分の身体は自分が一番よく分かっていて、僕の命はそれほど持たないであろう。
「……今晩がヤマかと思われます。……ふぐあ!?」
「ふざけんな!? よしんばそうだとして今ここで言うかお前!? 妻と次男のこの姿を見て! ああん!」
「ちょ、お父さん落ち着いてくださ……ふぐあ!?」
「もうお通夜とか言うのはこの口か!」
「父さん止めなって!? 言ってないし!?」
僕の専属医師に襲い掛かった父さんを弟の一翔が羽交い絞めにして止めに入ってくれた。
良かったことと言えば家族が本当に暖かく、こんな体なのに恨み言を聞かされたことも無い。
大手企業の部長をしている父さんに、専業主婦ながら有名インフルエンサーの母さんに中学ではすでに学力はトップクラスの弟……。
この十七年間、本当に幸せだった。
そして医師の言う通り恐らく僕は今夜あたり……息絶える。名残惜しいけど僕の為に専業主婦になってくれた母さんを解放してあげないと、ね……。
『見つけた』
「え? 今、誰か『見つけた』って言った?」
「言ってないわ。大丈夫? 苦しいんじゃない?」
「ごめん兄ちゃん、父さんがうるさくして」
「す、すまん……」
「はは、大丈夫だよ」
気のせいか?
確かに女の子の声が聞こえたような――
「うぐ……!?」
「劾!? 先生、せんせぇ!!」
「は、はい! ……いけません! 君、心臓マッサージを!」
「はいっ!」
「劾!? しっかり!」
「兄ちゃん!!」
「ああああ……」
苦しい……!?
これは今までとは違う……いよいよってことらしい。
「――!」
「――!!」
もう、家族の声も聞こえにくい。
ギリギリで目を開けると悲痛な顔をした三人の姿が映る。
ああ、最後までこんな顔をさせた上にお別れの挨拶もできないのか……。
せめて……最後くらい、は……。
「と、さん……かあさ……かずと……今までありがと、う」
「いやあ!? 先生、なんとか……後生ですから……!!」
「全力でやっていますよ! 私だって彼の主治医で付き合いが短いわけじゃないんです!!」
「あ、あ……血圧が……」
「呼吸器! 急げ!」
「目を開けろ劾ぃぃぃぃ!!」
耳元で父さんの叫び声が聞こえて、自分が目を瞑っているのだと気づき、その瞬間、痛みとかそういうものから解放されるように僕の意識は閉ざされていく。
ピーという機械音と、
「……午後二十時四十五分、ご臨終です……」
先生の声が聞こえた気がした――
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