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第七十七話 フォルドの嫉妬はかわいいものであるというもの

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【フォルド、脇がまだ甘いでござる。正眼で打ち込む時にはしっかり締めぬと威力が下がる】
「はい……! うおお!」
「なんの!」
「ウルカ君、頑張れー!」
「コテンパンにする」
「くそっ、俺には声援がねえ!? いてえ!?」
【一本、でござる。集中力が足りんのう】

 ――模擬戦が終了し、僕は肩に木剣を担いでフォルドに手を伸ばすと、笑いながら取ってくれ立ち上がる。

 さて、オオグレさんがやってきてからすでに十五日が経過した。
 屋敷から出ることはないので特に問題なく過ごしており、食事いらずで眠る必要があまりないため深夜徘徊での護衛も可能と言う万能ぶりを見せている。
 ただ、この地は平和なので特に深夜番をしてもらうほどではないと普通に布団で寝ていることも多い。
 マンガみたいなコミカルな感じじゃなくて本気で人骨なので布団から頭が出ているのは割と怖い。……けど、なぜか鼻提灯が出るのでその部分でマイルドな仕様だ。
 ちなみにオオグレさんの件について、学校へは母さんと兄ちゃんズで報告をし、父さんが新しい標本を手に入れるという形に落ち着いた。
 むしろそんないわくつきっぽい骨を引き取ってくれて良かったまであったらしい。

 そんな新しい住人に最初は馴染めなかったフォルドとステラだが、遠巻きで僕とアニーが話しているのを見ていて面白いと思ったらしく、なんとなく慣れた。
 で、僕とフォルドはオオグレさんに剣を習っているというわけである。

 ステラとアニーの二人は魔法が使えればいいということで剣はそこまで本気でやっていないけどね。

「ぐぬう……ウルカばかり応援するのはずるいだろ」
「私とアニーはウルカの彼女なのだから仕方ない」
「おにいちゃんはおにいちゃんだし」
「まあまあ。ちゃんと応援してあげなよ」
【甘いでござるなあ】

 自分には声援が無いと不貞腐れるけどこればかりは彼女達がそう思わなければ難しい問題だ。まあその内フォルドにも彼女はできるだろう。まだ五歳だし焦らなくてもいいと思う。
 そんな話の中、ふとステラが思い出したように口を開く。

「フォルド、あの踊り子はどうなったの?」
「はえ!? い、いやあ、さ、最近は屋台にこねえからなあ。お前達と遊んでることも多いし」
「なら今度会った時に一緒に遊ぶように誘ってみたら?」
「ええー……」

 僕がそう提案するとフォルドが僕を見て明らかに嫌そうな顔をして呟く。なんだろうと思っていると渋々口を開いた。

「……お前に会わせたら取られそうだと思ってんだよ。だから今まで誘わなかったんだ。あの時だって笑顔で手を振ってたろ」
「知り合いならフォルドにだったんじゃないか? 好きなら手を振り返してあげれば良かったのに」

 そう言うと男らしくないだろと返して頬を膨らませる。なんというか……子供らしくてかわいい嫉妬だと思う。
 これが大きくなったらこじれるんだけど、子供だからハッキリ嫌なことは嫌だって言えるのは大きいな。

「その子が比べてウルカ君を好きになったらそれは仕方ないんじゃない?」
「だから魔法とか剣の腕を上げていいところを……! ……あわわ」
【くっく、女のためか。ま、あたしはそれでもいいと思うけどな。オオグレ、あんたは?】
【守るものがあれば強くなるのは男の性というもの。固執しなければ拙者も悪いとは思わんでござるぞ】
「あれ?」

 ゼオラとオオグレさんの言葉にフォルドが呆気にとられた顔をする。どうも僕達を含めてからかわれると思っていたようだ。

「ウルカ君を取る子はもういいよー」
「だよね。僕から取ることはないけど、心配なら止めとこうか」
「う、うーん」
【はっはっは、男の辛い悩みだな!】
「わんわん」

 ゼオラに背中をバンバン叩かれて焦るフォルドを見て僕達は苦笑する。実際、アニーとステラだって他に見つける可能性があるから、踊り子ちゃんと付き合うことになるかもしれないし、別の子を見つけるかもしれないのだ。
 
 そういえば小学生のころ出会ったあの時の子も――

「皆さん、そろそろお家に帰る時間ですよ」
「あ、バスレさん。もうそんな時間か」

 なにかを思い出しかけたところでバスレさんが僕達に声をかけてきた。見上げると確かにそろそろ陽が落ちてくる時間だ。

「それじゃ送って行こうか。ハリヤー、頼むよ」

 僕がハリヤーの首を撫でてそう言うと『お任せください』とばかりに小さく鳴いた。荷車を繋げて乗り込むと出発。
 そんなに遠くないけど馬車があると襲われにくいしね。

「こけー……!」
「にゃーん」
「シルヴァは外?」
「うん。ハリヤーの護衛だよ」

 動物達は荷台の後ろで敵が来ないか見張りを買って出てくれていた。あんまり必要ないけど可愛いのでやらせておく。

「今日も楽しかったねー」
「だな。師匠達のおかげで剣も魔法もおもしれえし」
【うむ。修行を怠らなければ剣の道はいずれ開かれよう。フォルドは真面目でござるし見込みはある】
「僕は? ……って、なんでオオグレさん乗ってるのさ!?」
【む? ……おお!? つい皆が乗るので一緒に乗ってしまったでござる!?】
「ダメなの?」

 ステラが首を傾げて聞いてくる。
 オオグレさんはまだシャドウゲイトの魔法を習得していないので隠れることができないのだ。このまま町で見つかったら騒ぎになること必至。

【まあ荷台に隠れていれば大丈夫だろ。動かなかったらオブジェみたいだし】
「こんなオブジェは嫌だよ」
【さらりと酷くないでござるか!?】
「戻りますか?」
「いや、もう町に入るしこのままいこう。怖いから顔を近づけないでよオオグレさん」
【ウルカ殿!?】

 最近はオオグレさんをからかうのが楽しい。いい人だったんだろうな生前。
 バスレさんにそのまま町へ入ってもらい、大通りに差し掛かったところで妙に騒がしいことに気付く。

「おや? 警護団の人や冒険者がどこかへ向かっていますね」
「本当だー。どこ行くんだろうね」
「なんか焦っているような……」

 ゆっくりと進みながら状況を確認していると、前から兄ちゃんズとマリーナさんが走ってくるのが見えた。

「おお! バスレさんにウルカか! ちょうど馬車を借りようと思ってたところだったんだ」
「ギル兄ちゃん、どうしたの?」
「それがかくかくしかじかでな」
「な、なんだって……!?」

 ギル兄ちゃんがことの経緯を口にするとフォルドが飛び上がって驚いていた。これは……一大事だぞ……。
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