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第八十一話 力こそパワーというもの

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「アニーも行くのー!」
「ばうわう!?」
「おや!?」

 駆け出した瞬間アニーの声が背後で聞こえてきたので驚いて振り返ると、シルヴァの尻尾を掴んだ彼女が笑っていた。
 慌てたシルヴァが尻尾を振り上げるとゼオラが抱っこして事なきを得る。

【危ないぞ。転んで擦りむいたらどうする】
「ごめんなさいー」
「こうなったら仕方ない、アニーは連れて行こう」
「あはははは! くすぐったいよう」

 ゼオラに抱っこされたままアニーを連れて現場へ向かう僕達。
 というかシルヴァを眷属モードにしているんだけど、オオグレさんはそれを上回る速さということに驚きを隠せない。
 日本なら剣豪というレベルの人物なのかも……?

「っと、着いたか。兄ちゃん達は……!」

 それほど離れていないので程なくして村の外へ出ると、そこはゴブリン達と冒険者達がまだ争っていた。

「うおおりゃ!」
「<アースネイル>!」

 兄ちゃんズも発見し、汚れているけど大した怪我はしていないようでホッとする。ゼオラとオオグレさんの感じたものがなにか気になるけどこれで終わりっぽい?
 そう思っているとオオグレさんが落ちていた剣を拾ってロイド兄ちゃんの前へ躍り出た!

【なんの……!】
「なんだ!? え、オオグレさん!?」

 どこからともなくロイド兄ちゃんへ飛んできた手斧を、オオグレさんがその辺に落ちていたゴブリンの物であろう剣で弾き返す。
 当たってたら背中がやばいことになっていたかもしれない……!
 
【いた! あそこだ!】
「あれは……!」

 ゼオラが指さした先の木陰にゴブリンが一体ニヤニヤと笑いながら立っていた。ただ、他の個体の皮膚が土のような茶色に対してそいつは緑色だった。
 さらに体も一回り大きく、兄ちゃんズと同じくらいの身長はある。

「あれはホブゴブリン……! なるほど、妙に知恵が働くなと思ったらそういうことか。壁を壊したのも恐らくヤツか」
「強いの?」
「なんかニタニタしてっけどあれくらいなら冒険者が数人でかかれば余裕だな」
「なんか気持ち悪いのー。<ミズデッポウ>!」
「あ、こらアニー!」

 確かに涎を垂らしていたりと、他のゴブリンと比べてもちょっと異臭を放ってそうな不潔感は強い。アニーが眉をひそめてミズデッポウで顔面を攻撃すると見事に命中。ちょっと本気で撃ったのか顔が仰け反った。

「グォォォォ!」
「あ、怒った!? こっちに来るぞ」
【大丈夫だ。そのためにオオグレとあたしが来たんだからな】
【左様。拙者の一撃をとくと見よ!】
「で、でかい斧だ!」

 木陰から身を乗り出してきたホブゴブリンの手には僕の体くらいある斧があった。オオグレさんの細腕(骨)で受けきれるとは考えにくい。しかし、そこは達人なので勝算はあるのだと固唾を飲んで見守る僕達。
 いざとなればゼオラに僕の身体を貸して魔法を放ってもらえばいい。そう思っていた。

 そして――

「ウチの息子たちに近づくんじゃないわ!!」
「あ!?」
「グギャォァァオォアッァ!?」

 僕達まであと半分という距離でホブゴブリンが派手に吹き飛んで近くの木に激突! 
 もちろんそれをやったのは母さん。
 とんでもない速度での空からの強襲を回避することは流石に不可能だ……!!

「あ、あ……あー」
「ああ……! あ、ああー……」
【あー】
【はー】

 ギル兄ちゃん、ロイド兄ちゃん、ゼオラ、オオグレさんがもうなんとも言えない声を出す。
 吹っ飛んだホブゴブリンにそのまま接近してボディに一発。鈍い音がしたと思った瞬間左腕が飛んだ。

「いけー! ウルカ君の母ちゃんやっちゃえー!」
「こら、アニー! 見ちゃいけません!?」
「あー、あー……」

 アニーの目を塞いだその時、ホブゴブリンの首がおかしな方向に曲がった。それはつまりこの戦いが終わったということでもある。

「……」
「……」
「グ、ゴォァァァァ!?」
「「「ギャァァァァ!」」」
「あ、てめえら待ちやがれ!」

 ボスだったであろうホブゴブリンが無残な姿になったことに気づいたゴブリン達が一斉に退却を始める。
 さすがにトップが居なくなれば分が悪いと思うのは当然だからね。

「ばうわう!!」
「シルヴァ、後は冒険者さん達に任せよう。母さん、母さん! それ以上は止めてあげてよ」
「ウルカちゃんがそういうなら……。あ、これ持っていく?」
「あ、はあ……」

 ぺらっぺらになったホブゴブリンを持ち上げながら不満気に口をつく母さんが近くに居た冒険者に渡しながらこちらへ歩いてきた。

【せ、拙者が来る必要無かったでござるな】
「いやいや、ロイド兄ちゃんに飛んできた手斧を弾いてくれたじゃない。ありがとうオオグレさん」
【むう、そう言われれば……】

 僕がお礼を言うと満更でもない様子で後ろ頭を掻きながら口ごもる。

「まあ、母さんが近くに居るだけで天災クラスだし、本気で怒らせると『なぶり殺してやる』とか言いながら最初に首を飛ばすからね」
「怖すぎるよ」
「いやだわパパ。昔の話を言わないで」
「はっはっは、あの時のママは格好良かったからね」

 いつの間にか僕達のところまで来ていた父さんの話と母さんののろけを聞いて僕と兄ちゃんズは複雑な顔で見合わせることになった。
 逆に考えるとホブゴブリン相手には全然本気じゃない。ということは……

「母さんに勝ったことのあるリンダさんって本当に人間……?」
「ああ、リンダはれっきとした人間よ。本気で戦ったら流石にママが勝つから安心してね♪」
「なにを安心すればいいんだよ……」

 ロイド兄ちゃんの言葉はもっともだとギル兄ちゃんと一緒に頷く。と、ウチの家庭事情はともかく今は村の状況を確認しないといけないということで一旦村へ。
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