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第百三話 性悪な兄が登場するというもの

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「というわけでウルカちゃんが来ました」
「わ~い……。お母様好き……」

 お気に入りのぬいぐるみを抱えたまま、母であるエレナに抱き着くデオドラ。
 こうやってリビングへとやってくることができるようになったのはウルカと動物のおかげだったりする。
 デオドラはあのお祭り以降、おどおどはしているもののメイドに挨拶をしたり、食事も両親と食べるようになり少しずつ元気になっていた。

 そんな中――

「……ふうん、あの田舎町の息子が来たんだ」
「うむ。お前の使うゲーミングチェアもその子が考えたもので、今食べているこのゼリーというやつもそうだな」
「美味しい……」
「ふん、スライムみたいな食べ物だな。デオドラ、お前のお腹の中で成長するんだぞ」
「……だ、騙されないもん……」
「チッ……。痛い!?」

 ゼリーを口にしてほんわかオーラを出すデオドラにちゃちゃを入れる、王子のルース。だが、デオドラはそっぽを向いて抵抗を見せた。
 それが面白くないルースが舌打ちをすると、直後目の前がチカチカする。

「バレてから隠さなくなったが、容赦なくゲンコツを食らわせてやるからな? まったく、あの一家の兄弟と比べてお前はなんだ。妹を怖がらせてばかりで勉強もロクにしておらんと聞くぞ」
「いてー……。とおっしゃいますが、勉強ばかりで楽しくありませんからね。外もロクに出られないですし? そりゃ訓練も勉強も大事なのは分かっていますので、理解はしています。成績は……悪くないはずですが」
「ほう」

 デオドラの件が発覚してから良い子という仮面を少しずつ剥がしていくルース。さらに珍しく反論を口にした彼に父、国王フレデリックは顎に手を当てて小さく呟く。
 見せてきた勉強の成果は確かに悪くなかった。

 こんな性格になったのは、ルースが生まれた時は忙しくあまり構ってやらなかったのも要因なのでエリナと共に反省すべき点だ。
 代わりにデオドラを溺愛したのが良くなかったのだろうと最近は推測している。

「(デオドラを変えたあの一家ならあるいは……。頼ってしまい申し訳ないが、今の私達ではこの子は聞くまい。ならばルースの望み通り外の世界、同年代と接する機会を与えてあげる方がいいか)」

 そう考えたフレデリック。
 ウルカ達とは顔を合わせないようにするつもりだったが――

「ではルースよ。私と一緒にガイアス一家をもてなす命を与える。双子はお前より二つ年上でウルカは8つ下だ。それなりに近い者と接するといい」
「いいのですか?」
「ああ。上手くもてなしが出来たと私が判断したら、お前の望みを出来る範囲で叶えてもいい」
「……!」

 フレデリックの言葉に驚きの表情を浮かべるルース。無理もない、勉強と訓練ばかりで構ってくれなかった父がそんなことを言うのだから。
 胸が高鳴るがそれを悟らせないように咳ばらいをしてルースは返す。

「それこそ珍しいですね父上? まあ珍しいものを作ろうとも田舎の貴族でしょうし、私なら余裕ですよ」
「ふっふ、なら任せるとしようか。ま、私も一緒だがな。驚くぞ、兄のギルバードは魔法、ロイドは剣、そして弟のウルカはクリエイトの魔法を持つ」
「大したことは無いでしょう。私も訓練はしております」
「なら手合わせでもしてみるか」
「……」

 本当に珍しいなとルースは口をへの字にしてそんなことを思う。危ないことなどはご法度だったはずだ、と。

「(父上がそんなことを言うとは……ギルバードにロイドにウルカ、か。面白い)」
「兄さまが悪い顔をしている……怖い」
「ふん、生意気な。こうだ」
「ああ、シルヴァが……!? 兄さま嫌い……!」
「ぐぬ……」

 シルヴァのぬいぐるみを投げつけたルースに頬を膨らませて怒りを露わにしていた。

「そろそろお茶会ですわね。デオドラ、行ける?」
「うん……!」

 まずはエリナがおもてなしだと微笑み、デオドラを連れてリビングを後にする。


 ◆ ◇ ◆

「僕は居てのいいのかな……?」
「ウルカちゃんはまだ小さいし、いいのよ。パパ達は陛下が訓練場とかを案内するらしいわ」
「お姫様、楽しみ」
「私もここにいていいのでしょうか……?」

 と、バスレさんがそわそわしている通りここは女性陣でお茶会をする場なのだ。
 
 そう思っていたんだけど僕は母さんに拉致されてステラと共に庭のテラスへとやってきていた。
 どっちでもいいんだけどせっかくなら男同士の散策というのも悪くないと思ったわけだ。訓練場とか絶対ロイド兄ちゃんが暴れそうだしね。

 ま、こっちの方が合っているかな? デオドラ様が来るなら動物達を見せられるし。

「あ、来たわよ。エリナ様、先に失礼していますわ」
「お待たせしましたわね。そちらはリンダの娘ですわね?」
「こ、こんにちは……」

 しばらく雑談をしていると着替えたエリナ様とデオドラ様が、メイドさんを連れてこちらへ歩いてくるのが見えた。

「はい。ステラです。デオドラ様? ですか」
「う、うん……ステラ、ちゃんはじめ、まして……ウルカ君、久しぶり……」
「お久しぶりです」
「わん!」
「こけー!」
「にゃー!」
「あ、あ、みんなも来てくれた……好き」

 足元で大人しくしているシルヴァ達を見つけた瞬間、デオドラ様が破願してよろよろと抱きしめようと近づいていく。

「い、いけません王女様!」
「よいのです、好きにさせてあげなさい」
「は、はい……。あのネコかニワトリの方が……え!? ニワトリ!?」

 まだ子供だけど狼だしメイドさんの心配は仕方ない。けど、一度遊んだこともあるし、さっきキレイにして蝶ネクタイもつけている。
 他の動物達もおめかしをしているので見た目だけなら貴族のペットで十分通用する。

「シルヴァだ~……ふわふわ……」
「うぉふ!」

 もちろんシルヴァも危険はなく尻尾をぶんぶんと振りながら大人しく撫でられていた。

「みんなも……おしゃれ……ふふ」
「こけー♪」
「ふにゃーん♪」

 満足そうなデオドラ様にその場にいた全員がほっこりする。
 そこでエリナ様がメイドに椅子を引いてもらい座ると、口を開いた。

「ではお話をしましょうか。お茶の用意を」
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