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第百十話 おっかなびっくりというもの

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 脅威は去った。
 先生は追放され、ルース様には新しい人が派遣されるらしい。
 今度はおっとりの女性にするとかなんとか。
 復讐されるかも、という懸念はあったものの先生本人は魔法が凄いとかそういうのは無く、貴族で一番勉強ができたから雇っていたそうだ。王都に屋敷があるんだって。
 で、ウチの母さんがヴァンパイアロードだと宣言しているため、先生は賢いからなにかあった場合そっちの報復の方が恐ろしいだろうと考え、手は出して来ないだろうと父さんが言う。

「いやあ、昔も別の国の貴族に私の商売の件でやっかまれたことがあったんだけど、ママの部下だったメドウサさんがひと睨みしたらなにも言わなくなったよ」

 それは物理的ではないだろうか? その人が元に戻れたのか心配になる出来事を聞いてしまった。あと、母さんの部下というのは遊びに来ないだろうか。興味がある。

「理不尽なことをしなければ彼等は心強い味方だ。立場が分かっているから田舎で暮らしているのだぞ」
「はい、父上……」
「ウルカちゃんのママは怖くないよ……」
「ステラちゃんのお母さまもヴァンパイアロード並みに強いから気を付けるのですよ? 敵に回す理由がありませんからね」
「ぶい」

 そして再び家族が集まった時、ルース様は国王様とも和解し、僕達一家と敵対する意味みたいな話をする。ルース様は顔を青くしたまま頷き、僕へ『ウルカは大丈夫だよな』という目を向けていた。

「でも親子仲良くなれて良かったです」
「すまないなウルカ。小さい子に諭されるとは私は国王としては良かったかもしれんが親としては酷かったと反省している」
「そうですわね……」
「それはそれで大丈夫ではないでしょうか。間違いや過ちは起こるものです。それを反省して次に活かせばきっと意味はあったのでしょう」
「クラウディア様……」

 自分もたくさん間違えたと笑う母さんが締めてこの親子喧嘩は終了となった。母さんがなにを間違っていたのか怖くて聞けない。

「お兄さん達もすみませんでした」
「いえ、特に気にしていませんよ。田舎者なのは間違っていませんからね」
「だよな。まあ、ウルカがまたなんかしてくれたみたいだし、やっぱお前は凄い弟だぜ!」
「うわあ!? いきなり抱きかかえないでよ!?」

 その様子に場にいた全員が笑い、僕は気恥ずかしくなってしまう。だけど、これで通常のお話ができるぞとそれはそれで笑顔になる。

「では少し寄り道をしたがもう少し案内を――」
「あなた――」
「なに、それは本当か……?」
「?」

 国王様がまた城を案内してくれるということを言おうとしたが、そこでエリナ様が耳打ちをする。そこで国王様の目がカッと開き、僕達へ言う。

「なにやら馬車に『こたつ』なるものを持ってきているそうだな? で、それを見せてもらう予定だったと」
「あー」
「「なに!?」」
「そ、そういえばそうでしたね」
【母ちゃんにはなんか罰を与えようぜ】

 兄ちゃんズが母さんを見ると焦りながら目を逸らす。こたつのことを話すとまた欲しがるであろうから一家全員で内緒にしようと決めていたのだ。
 ゼオラの言う通り、母さんは裏切り者なので後でなにかしてもらおう。

 しかし話してしまったものは仕方がないので、僕と兄ちゃんズ、それとルース様が取りにいくことに。

「先ほどは失礼しました」
「いえ、大丈夫ですよ。
「『こたつ』とはなんだい?」
「暖房道具ですよ」
「敬語じゃなくていいよ。お兄さん達も」
「おお、ありがとうございます。ウルカが作ったものなんだけど、この季節にはありがたいものですよ」

 ギル兄ちゃんが頭を下げてそう言うと、暖かいものであるということは伝わった。だけど布団とテーブルが一体化しているといったロイド兄ちゃんの話しで混乱してしまう。

「見せた方が早いよね。これです!」
「テーブルに布団が!? これで眠れるのか? いや、部屋全体を暖めてくれる暖炉でいいんじゃ……」
「ま、そこは使ってみてからのお楽しみだな」

 くっくと楽しそうに笑うロイド兄ちゃんに首を傾げるルース様。まあ、ウチはこれが気に入っているけど王族には必要ないだろうなあと冷静になって考える。
 
「これは?」
「座椅子といってこたつとセットで使うやつだよ」
「THE・椅子……」

 多分違うことを考えているなと思ったけどとりあえずスルーしておこう。天板をギル兄ちゃん、テーブルをロイド兄ちゃん、布団を僕が持ってルース様についていき、到着した場所は応接間。
 そこに僕が頼んだ綿などが置かれていて、両親とクライトさん、それとワクワクしている国王達が待っていた。

「これが『こたつ』、か」
「足の低いテーブルですわね……?」
「お布団……テーブルについている……」
「にゃーん♪」

 こたつで丸くなるタイガは持ってきたものを見てご満悦の様子。
 その間に敷布団を作るかとクリエイトの魔法で布と綿がちょっとオシャレな敷物へと変化。

「すげえ!?」

 ルース様はキャラが変わるくらいの衝撃を受けたようだ。他のメンツは『うんうん最初はそうだった』と生暖かく見守っていた。
 すぐにこたつが完成(といっても布団をかぶせて天板を置くだけだけど)し、熱を出す魔石のスイッチを入れる。

 そして――

「ぬくい……。こたつ、凄い……」
「なるほど足を温めるのか……! これなら足を冷やさずに書類仕事ができるぞ!」
「はしたないですが、このまま眠ってしまいそうですわ……」
「これがあったらもっと勉強がはかど……る……」

 ――国王様一家全員がこたつに足を入れると、数分で虜になっていた。

 座椅子と国王様。
 僕が作ったジェニファー型のクッションを枕に寝転がるデオドラ様とエリナ様。
 そしてルース様はテーブルに突っ伏して寝そうになっていた。
 なんだかんだでお城も寒いからねえ……と僕達は苦笑しながら見るのだった。
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