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第百六十四話 悩むウルカと熱意のあるラースというもの

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「さて、どうしよう?」
「クルル?」
「わふ?」
「けこー?」
「にゃー?」

 野球をしたその日の夜。
 僕は縁側であぐらをかいて首を傾げていた。
 目の前には動物達が集まり、同じく首を曲げて一声鳴く。ハリヤーは少し後ろで見守るように立っているけど。

 それはともかく今悩んでいるのはやることが増えたからだ。
 キールソン侯爵様に渡すお土産は決まらず、野球の道具を作って欲しいと要望がめちゃくちゃ来たからである。

「割とハマったなあ騎士さん達」
「ウルカ様、冷たいお茶が入りましたよ」
「あ、バスレさんありがとう」

 少しずつ涼しくなってきたけどお風呂上りはまだほんのり汗をかく。そこへ冷たいお茶を持ってきてくれたバスレさんにお礼を言う。
 
「なにか困ったことでも?」
「野球を本格的にすることになったんだけど、道具やユニフォームを揃えないといけないんだよね。その材料が足りないなあって」
「そうなのですね。旦那様なら用意できそうなのですが」
「戻るのは難しくないけど、アニーやステラに会ったら気まずいんだよね……」

 僕のクリエイトは無から生み出す魔法ではないのでないかしら素材は必要だ。
 最低でもチーム分は必要だとラースさんに言われた。
 資金はというと、国王様から引っ張ると言う。だから素材については交渉しにくいため、こちらで集める必要がある。

「騎士さん達に集めて貰えばいいのでは?」
「まあ、それはみんな言ってたよ。だけど作るのは僕だから素材は目で見たいんだ。どの素材が合うかも分からないし」

 というか野球は知っていてもグローブの素材などはまるで素人なので、なるべく『それっぽい』ものを作らないといけない。
 後はボールももうちょっと硬いやつがいいかな? 正直なところゴム素材というのは凄いなと今さらながら実感した。

「また大変なことを。ちゃんと寝てくださいね?」
「うん。もうちょっと考えるよ」
「にゃーん」
「あら、タイガ。一緒に行きますか?」
「にゃっ!」

 バスレさんはお風呂へ行くということでこの場を離れていく。そこでタイガが護衛を務めるとばかりに縁側を飛び出して足元についた。
 ブラッシングをしてくれるのでタイガはバスレさんがお気に入りなのだ。

【ウルカ、ここに来る前に立ち寄った町はどうだ?】
「あ、そうだ。町長さんと交渉してみようかな」

 そこでゼオラが声をかけてきて、フォルテ絡みで職人を送ってくれると言っていたロッキンの町を思い出す。
 辺境に近いとはいえ、交流はあるだろうし尋ねてみるのもありだ。

「ま、急いではいないしとりあえずホースを作ってから行こうかな。ユニフォームはデザインをしてくれる職人さんが王都にいるらしいからラースさん任せで……ふあ。今日は疲れたなあ……そろそろ寝ようか」
「わふわふ」
「こけっこー」

 バスレさんを待つ前に寝ちゃうのは気が引けたけどこれ以上はもちそうにない。僕が立ち上がるとシルヴァ達も自分達の寝床へ戻って行く。
 ブラッディリーチの皮、どれくらい取れたかなあ――

◆ ◇ ◆

――荒野

【ここを使うのか?】
「ああ。ウルカ君が言うには本当は九人で、もっと広いらしいじゃないか。正確な大きさはどれくらいがいいだろうと悩んでいたけど」

 ウルカの村から少しだけ離れただだっ広い荒野でボルカノとラースが月明かりを背景にそんな会話をしていた。
 野球が終わって夕食を摂った後、ボルカノを誘ってここまで来た。

【まあ、だいたい我のところに飛んでくる回数を考えるとバッターから縦の距離はあれより少し後ろでいいだろう】
「そうだね。後は横か。話を聞く限り、形としてはこういう感じらしい」
【ふむ】

 ラースはウルカに野球のことを色々と聞いていた。ウルカが疲れていたのはこういった経緯もあったりする。

【それにしても町の範囲を決めるより先にやるとはどういうことだ?】
「ああ。このヤキュウというスポーツは新しい。これを名物にして集客を考えるんだ。幸いと言っていいか分からないが騎士達は百名から居るので、やりたくない奴が居たとしても五チーム程度はできるだろ? それが戦うところを見る娯楽ってわけだ」
【むう……。ボールを打って走るだけなのに楽しいか? 模擬戦の方が盛り上がるだろうに】

 立って見下ろしながら試合を見ていたボルカノがぼやく。しかしラースは可能性の話をする。

「今はまだよく分かっていないから微妙なんだけど、俺の見立てでは盛り上がる。模擬戦は一対一なので技量に差が付きすぎているとあまり面白くないんだ」

 例えばドラゴンと昆虫が戦うのを見て楽しむことができるか? と口にする。
 そういうのが好きなのもいるけど少数だろうと。
 野球はチーム戦なので一人では勝てない。個よりも集団の力が試される。

「しかもあの球、小さくて打つのが難しいんだぜ? 一点を取るのがこんなに難しくて頭を使うのは戦争みたいな戦略にも通じるものがある。柔軟な考え方をしやすくなったりね」
【なるほどな。そういえば打球をわざと転がしたりする人間も居たな】
「そういうこと。測量は他の騎士もできるけど、野球をする場所……球場。これは俺がやりたい」
【あいわかった。ウルカのためになるなら手伝おう】
「そうこなくっちゃな。そういえばリンダさんとの戦いはまだ望んでいるのかい?」
【む。そうだな、できれば戦いたい。が――】
「が?」
【今は結構楽しいからな。それに我が息絶えたらウルカに申し訳がない】

 自分が復活したせいでこんなところに居るのだからなと笑う。

「気にしていたのか」
【無論だ。ウルカの能力とはいえ、目覚めたのは我なのだからな。故に最後まで手伝うと決めた。まあ、すでに息絶えているわけだが】

 そういってボルカノは荒野で大笑いをするのだった。
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