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第百九十六話 もう一度実家へというもの

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「とうちゃーく!」
「ああ、本当に凄いね転移魔法……」

 あっという間に実家の庭へと転移した。
 獣医さんじゃないけど、これは本当に便利である。ただ、悪いことにも使えるんだよなあともしみじみ思う。

「では私は病院へ戻るよ。薬の使い方は大丈夫だね?」
「うん。ありがとうございます」
「なかなかいい経験ができたよ。息子が一人前になったら私も引っ越そうかと思う位にはいいところだった」
「いつでもお待ちしております!」
「まーす!」

 僕とアニーがそういうと獣医さんは笑顔で丘を下って行った。ハリヤーはひとまずこれで安心だな。

【まだ朝早いけど、どうするんだ?】
「アニーをお家に帰してからかなあ」
「んー、まだ一緒でもいい?」
「う」

 アニーが上目遣いでそんなことを聞いて来た。ちょっと困った顔で可愛い。
 まあ、一旦屋敷に帰ってから考えようか。

「とりあえず家に入ろう。父さんと母さんに帰って来たことを話さないとね」
「うんー!」
【やれやれ、こりゃ大人になるまで大変だな】

 アニーは満面の笑みで僕の手を取ると屋敷まで歩き始めた。その光景を見て頭の上からゼオラが苦笑する。
 そのまま玄関へ行くと、ちょうど父さんが出てくるところだった。

「おや? ウルカにアニーちゃんじゃないか。帰って来たんだな」
「おはよう父さん」
「おはようございますー!」
「はい、おはよう」

 朝の挨拶をすると父さんがにっこりと微笑みながら僕達の頭に手を置いてくれた。

「今からお店?」
「そうだよ。ママは――」
「今! ウルカちゃんの声がっ!」
「――今、起きたみたいだ」

 苦笑しながら父さんが言う。相変わらず平和そうでなによりだ。そこで髪の毛がとんでもないことになっている母さんがにこりと笑いながら口を開く。

「おかえりなさいウルカちゃん、アニーちゃん♪ ご飯は食べた? ママ、今から食べるけど」
「うん……見ればわかるよ……」
「あはは、髪の毛すごいよー!」
「では、私は店へ行くよ。今日はいるんだよな」
「魔力を回復させるために泊まって帰るよ! 後でお店に行くかも?」
「ああ、それはいいかもしれないね。では行ってくるよ」
「いってらしゃーい!」
「パパ、気を付けてね」

 いつの間にかやってきたウォルターさんの駆る馬車に乗り込み、父さんは出発した。

「さあさ、お茶にしましょうね」
「奥様!? いないと思ったらいつの間に玄関へ!? そんな格好いけません、お茶は私が用意しますから着替えて来てください」
「ええー……折角ウルカちゃん達が帰って来たのに……」
「今日はいらっしゃるんですから大丈夫です」
「おはようエマリーさん」
「おはようございます。ウルカ様、アニーちゃん」

 この前の時は居なかったけど、新しく雇ったメイドさんであるエマリーさんが笑顔で挨拶を返してくれた。
 兄ちゃんズの同級生らしく、仕事を探していたから紹介をした形だ。
 穏やかな人だけど、兄ちゃんズにスパルタでいいと宣言されているので、結構言うしダメなことはハッキリしている。正論が多いので母さんも口を噤むしかないのだ。

「では食堂へ。もう少し早かったら旦那様とご一緒できたのに残念ですね」
「向こうでアニーが挨拶をしていたからね。大人気だったよ」
「えへー」
「ふふ、アニーちゃんは可愛いですものね!」

 それではお待ちくださいとエマリーさんがキッチンへ行き、僕達だけになる。
 とりあえず今日一日はこっちで過ごさないといけないけどなにをしようかな?

「アニーはなにかしたいことがある?」
「んー。兄ちゃんとステラちゃんとウルカ君で遊びたいのー」
「学校が終わるまでそれは難しいなあ。父さんのところへ行く?」
「ウルカ君と一緒ならなんでもいいよー!」

 らしい。
 彼女は僕と居るだけでいいみたいなので、今日は僕が決めていいようだ。

「この前はちょっとだけしか見てないし、町を回ろうかな? 兄ちゃんズも居ないし、お昼まで池で訓練して町と学校かな」
「うんうん。隠れ家使うー?」
「そうだなあ」

 久しぶりだしそこでお昼寝もいいかもしれないなと考えていると、エマリーさんが紅茶を持ってきてくれた。

「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」
「はーい」
「ほわあ」

 二人でほっこりする。
 領地は寒くなってきたから温かい飲み物はいいなあ。少し買って帰ろうかな。
 折角だしお土産もジェットコースターに積んでおこう。

「後は母さんがどうするかだよね」
「そうだねー。お母さんも遊べるといいかも!」
「アニーは母さん好きだよねえ」

 娘も欲しかったらしいから母さんにとってアニーの存在は嬉しいようだ。
 ステラは……うん、リンダさんの娘だから微妙なところ……
 決して嫌ったりしているわけではないけど、複雑な感情があるっぽい。

「お待たせー」

 とか考えていると母さんが食堂へやってきた。その後ろには食事を手にしているエマリーさんも居た。

「では奥様、お食事になります」
「ありがとうね。さて、と……」
「ん?」
「どうしたのー?」

 母さんが席についてにっこりと微笑むと、アニーに目を向ける。そして、確かにと思えることを口にした。

「アニーちゃん、向こうはどうだった? ウルカちゃんの話と合わせて聞いたらもっとイメージが沸くと思うのよ♪」
「あ! うん、えっとね――」

 そこから午前中はアニーが見た僕の領地を身振り手振りをしながら話を始めた。
 結局お昼ご飯まではそれで時間を使ったとさ。
 ま、母さんは僕が心配みたいだし、たまにはいいかと僕達は話していた。
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