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第二百十九話 スレイブさんとゼオラが怪しいというもの

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 英雄っぽいゴーストのスレイブさんはひとまず僕のところで暮すことになった。
 翌日、僕が騎士さんの家を作っていると声をかけてきた。

【暑さ寒さを感じないから、僕はその辺に居るよ】
「いや、ゴーストがウロウロしているのは町として良くないから夜はちゃんと家に居てもらうよ?」
【拙者も夜は出歩かないでござるよ?】
【我も寝てる】
【アンデッドなのにかい……?】

 ひとまず仲間であるボルカノもその場に居て、二人の話に眉を顰める。アンデッドだからこそ夜に出歩くのは怖いのだから休んでもらうのが一番だ。
 まあオオグレさんとか寝る必要はないらしいんだけど、布団に入っているよね。

「なので好きなところに家を建てるから昼間の間に目星をつけておいてよ」
【あ、ああ、わかったよ。……ゼオラ、一緒に行かないか?】
【んあ? あたしはウルカから離れられないから無理だぞ】
【……? そうなのか? なら一人で行こうか】
「まだ全員に顔合わせをしていないからシルヴァ、一緒に行ってあげて」
「うぉふ!」
【はは、よろしく頼むよ】

 散歩ついでに散策してもらえればいいかな? 騎士っぽいし、案外仲良くなれるかもしれない。シルヴァが居れば怪しいゴーストとは思わないだろう。

「いいのか? なんかゼオラ師匠と話したそうだったけど」
【いいんだよフォルド。あたしはあいつのことを大して覚えちゃいないしな】
「そう? 話しておいた方がいいんじゃない?」
「ステラ?」

 珍しく口元に笑みを浮かべているステラがそんなことを言う。いつもならそんなことを言わないような?

「ウルカ君、おうち作ったら遊ぶのー! ヤキュウがいいの」
「ああ、そうだね。それじゃ最終日だし、遊ぼうか」

 アニーが僕の手を取って笑顔で遊ぶと言い、ステラのことは一旦おいておくことにした。そしてアニーの言葉を聞いたボルカノは即座にお気に入りの野球帽を頭に載せた。
 三人は明日までだし、アニー達を優先だ。それはそれとしてゼオラに話くらいは聞いておくか。

「フォルテー」
「クルル!」
「とりあえず見てても暇だろうし、アニー達と牧場なんかへ散歩してきてよ」
「いいのー?」
「オオグレさんと一緒にね。みんな三人と話したがっていたからさ」
「うんー!」
【気をつけてな。後で会おう】

 フォルテとハリヤーに乗って、てくてくと牧場を目指して歩いていく三人を見送った。
 すぐに僕は頭上に居るゼオラに話しかける。

「ねえ、ゼオラ。スレイブさんのこと、本当に覚えていないの?」
【……】

 返事はなかった。
 けど、なにかを考えている様子が伺える。そのまま黙って家の作成を続けていると、不意にゼオラが口を開く。

【……あたしはなにも覚えてねえんだ。本当に。だけど、あいつは仲間だというだけあって既視感はある】
「スレイブさん?」
【ああ】

 ゼオラが僕の横に並んで頷いた。ひとつ、手がかりになりそうなことがあるじゃないかと尋ねてみる。

「あのゼオラを記した本は? あれには載っていなかったのかい」
【あれには魔法の使い方や途中までの生きた痕跡は書いてあったけど、そこからパーティを組んでなにかをした、というようなことは無かったな】

 嘘は言っていないと思う。あの本を見ればわかることだからだ。そうなるとゼオラだけ記憶が無い理由が分からないな?

「その内に思い出す可能性があるから無理しなくてもいいかな?」
【おう、そうだぜウルカ。いいことを言った! あいつもよく覚えてねえし、もう死んだ身だあんまり気にしなくてもいいさ】
「ボルカノ、ここにお願い。ゼオラは自分の過去には気にならないの?」

 僕がボルカノに指示を出し、ゼオラにもう一度だけ聞いてみた。するとゼオラは僕を抱っこしてフッと笑った。

【ま、気にならないっていうと嘘になるけど、今さらだ! さっきも言ったがゴーストの身だ。知ったところで意味があるとは思えねえ。お前達と過ごしている今のあたしが全てだよ】
「うーん、ゼオラがいいならいいと思うけど、ちょっと気になるんだよね。……あの蛇の件について話した時、スレイブさんの顔色が変わった気がするんだ」
【ゴーストだしなあ】
「そういう意味じゃないよ!?」

 スレイブさんが蛇の話をした時、ゼオラを見て表情を変えたことを伝える。するとゼオラは家の梁に僕を置いて言う。

【あの蛇もあたしとお前で倒したじゃねえか。だから気に病むことはないんだって】
「わかった。じゃあこの話はここまでにして早いところ家を作ろうか! アニー達と遊ばないと」
【そうそう、そうしようぜ! スレイブなんてどうでもいい!】

 それは酷いと思うけどね……
 まあ、なんかゼオラはスレイブさんのことを敬遠しているみたいだからこれ以上は怒るかもしれない。聞きたいことは聞いたし、後はゼオラに任せるとしよう。
 そんなことを考えながら家を二軒建てるのだった。

◆ ◇ ◆

【……どうして私はここに居たのだ……? いや、五百年も経っているならもしかするとここは地形が変わっているだけで『あの場所』なのかもしれない】
「わふん?」
【確認する必要はあるけど、今はゼオラだ。彼女が復活しているということは魔神の一部も復活したことに他ならない。そして邪龍はウルカ君に倒された……彼は何者だ? この世界の人間で倒すのはかなり厳しいはずなんだが――】
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