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第二百三十一話 使者というもの

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 不意に現れた一台の馬車は領地内に入ってくると、そのまま道なりに僕達のところへ向かってきた。
 特に門を設置しているわけではないけど、見つけたからには事情を聞いておきたい。

「こんにちは! ここはウルカティヌス領の町ですけど、なにかご用でしょうか?」
「貴族の馬車のようですが……」
「おや、この馬車は……」
「見覚えがあるわねぇ」

 バスレさんが首を傾げてそう言うと、隔離された部屋のようになっている馬車お扉が開いて一人の男性が降りて来た。ラースさんとベルナさんは心当たりがありそうだけど……?

「大きくなられましたな。お久しぶりでございますウルカティヌス様。わたくしめはキールソン侯爵様に仕えている者で、ワトスゥンと申します」
「ワトソンさん?」
「いえ、ワトスゥンです」

 胸に手を当ててお辞儀をしてくるのは父さんより少し歳上だと感じさせる男性だ。
 若干紛らわしいこの人の名前はともかく、それより前に出た名前で驚いた。

「キールソン侯爵様の遣い!? どうしてまたここへ? その内、行こうとは思っていましたけど」
「はい。領地が近いし、挨拶に来るだろうとワクワクしておりましたが、一向に現れないので様子を見に行って来い、と」
「あー、申し訳ありません……」
「お久しぶりです、ワトスォンさん」
「こんにちはぁ」
「ああ、ラース様にベルナ様もこちらでしたか」

 知り合い同士の挨拶を終えると、ここに来てから騎士さんの住宅や下水道の構築といったインフラ関係の整備、セカーチさんの訪問などが目白押しだったのでその暇がなかったことを説明する。

「それとお土産を作らないといけないなと考えていて」
「そうでしたか。キールソン様はひとまず挨拶だけでもとおっしゃられておりますが、いかがでしょう?」
「あ、もちろん行きます! お土産もあるので」
「それはよいですね。ここへ来た甲斐があったというものです」

 ワトスゥンさんはにっこりと微笑んでいた。気難しそうかなと思っていたけどいい人そうである。そういえばお祭りの時に居たような気がするね。

「ええっと、お土産を作るのにちょっと時間がかかるけど待ちますか?」
「どのくらいでしょう?」
「一日あれば大丈夫かな?」
「それでは待たせていただきたいです。せっかくですし領地を見て回りたいのですが」
「もちろんいいですよ! 宿屋さんはこっちです」
「わふわふ」

 僕が指さして歩き出すと、ワトスゥンさんが馬車に合図をしてついてくる。ラースさんとベルナさん、シルヴァ達も一緒なので大所帯だ。

「もう宿があるのですか?」
「先日、冒険者さん達がたくさん泊ったから作ったんですよ。あ、今回は無料でいいですから」
「それはありがとうございます」

 さっそく宿へ案内し、馬車と馬は厩舎へ行ってもらう。ちなみにワトスゥンさん以外には御者さんと護衛の人が居て、宿を見て驚いていた。

「立派な建物だな……」
「町にあるのとそん色がないぞこれは」
「ははは、ウルカティヌス様ならこれくらいはできますよ。わたくしめもゲーミングチェアにはお世話になっております」
「ホント? 嬉しいね!」
「いらっしゃいませお客様ぁ♪」

 入口でそんな話をしているとベルナさんが一歩前へ出て宿の前に立った。今日の当番はベルナさんだったようである。

「ベルナ様が……宿の従業員を……?」
「人が増えるまでですねぇ♪ さ、お布団も干してあるから快適ですよう」

 扉を開けて宿へ招き入れるベルナさん。それにラースさんも入っていく。

「ラースさんも?」
「ベルナ一人にさせるわけにはいかないからな。後で、騎士に来てもらうけど」
「さっき入り口付近の池で釣りをしてましたな」
「はは、この町は穏やかなんだ。後で見て回るといいですよ。後は俺達に任せてウルカ達はお土産を作りに行くといい」
「あ、うん! ありがとうラースさん!」

 僕がもてなそうと思ったけどラースさん達が気を使ってくれ、今から作業が出来るようになった。宿を離れるとバスレさんが後からついてきた。 

「バスレさんもお散歩ついでに行く?」
「そうですね。久しぶりに回りましょうか」

 まだお昼には早いからとバスレさんは僕と手を繋いでてくてくと散歩モードだ。
 そこで頭上のゼオラが口を開いた。

【オオグレやスレイブはどうするんだ?】
「そりゃ残ってもらうよ。みんなびっくりするし、ラースさんが居れば大丈夫かな?」
【ああ、転移するのか】
「いや、それだとお土産とワトスゥンさんが運べないから馬車で行くよ」

 ゼオラがラースさんなら侯爵様のところにも行けるだろうと言うけど、ここはあえて馬車で行く。例のサスペンションを使った馬車を作るからである。
 
 というわけで今からグラフさんのところへ向かう。
 試作品は成功していたから、今日中に間に合うと思う。馬車はラースさんに運んでもらうか僕の転移の練習をするため町に階に行くつもりだ。
 
 そして適当に散歩をしていると、庭で洗濯をしているスピカさんを見かけた。

「おはようございますスピカさん」
「あら、おはようウルカ様。工房に用事?」
「うん。グラフさんと仕事をするんだ」
「あいつまだ寝てるから起こしてくるわね! ……グラフ! ウルカ様が来たわよ!」
「ちょ、まだ酒が抜けてない……」
「ほらほら、情けない顔で会わないでよ?」

 大きな声をだしながらスピカさんが家の中へ入っていく。力関係はあまり変わって無さそうだけど仲がいいみたいなので嬉しい限りだよ。
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