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最終部:タワー・オブ・バベル

その312 錬金術の王

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 少しばかりの仮眠を終え、私達は鏡の迷路を突き進む。魔物はいたけど、罠の類は一切なく、無事に70階へ階段に辿り着くことに成功していた。

 「さて、ユウリの言うクソジジイとご対面するか。いつも通り戦えば勝てる」

 「それじゃ、僕を含むさっき決めた6人で突入するよ。ノゾムとアイリは除外されていたら追加で部屋に侵入、これでいいな?」

 レイドさんとユウリが前で事前に決めた内容を復唱する。と、全員が頷く。今回は私とレイドさん、パパ、ママ、ユウリにフレーレのパーティで戦うことにした。

 「これもいつも通りとはいえ、もどかしいわね」

 「そうですね……それだけ向こうもこちらが揃うのを警戒している証拠でしょう」

 そういえば神裂と戦う時も6人なのかしら……? 階段をゆっくり登りながらそんなことを考えていると、ふと違和感を感じた。

 「ちょっと長くない? いつもだとこの辺で扉があると思うんだけど……」

 「そう言われれば……ん? 到着か?」

 上を見ると、パパの言うとおり、ぽっかりと空いた天井から光が差していた。少し造りが違うけど、ここに扉があるのかな?


 階段を登り終えると、そこは鏡も無い真っ白な空間だった。

 「遠くに扉があるけど、あれがボス部屋?」

 『今までのことを考えるとそうだと思うけど――』

 一番最後を歩いていたエクソリアさんが階段を登りきった時、それは起きた。


 ガコン


 『あれ!? ちょ、ちょっと妹ちゃん、階段が消えたわよ!』

 『……狼狽えないでくれるかい姉さん? ……女神ともあろうものがみっともない……ふむ、継ぎ目も無い、か。どうやら出口はあの扉だけみたいだね』

 アルモニアさんがオロオロする中、冷静に状況を分析するエクソリアさん。

 <……嫌な予感がするっぴょん>

 「……ウウウウウ……」

 「リリー? レジナ?」

 「扉を開けてみよう、様子はおかしいがここに居ても仕方がない」

 レジナの背中に乗ったリリーが呟き、そのレジナも低く唸りを上げている中、お父さんがカームさんから降りて私達に言う。


 すると――


 「ようこそ、70階へ。あの扉は出口じゃ。ここが正真正銘、ボス部屋じゃよ」

 どこからともなく、部屋におじいさんの声が響き渡る。この声は!

 「トリスメギストスか! どこだ!」

 「ふぉふぉ……そう騒がずともよい。ここにおるわ」

 「……!」

 スゥっと壁から出てきたような感じで何もない空間から姿を現したのは、まさしくおじいさんだった。目つきは鋭く、よれよれの赤茶けた髪の毛……そしてローブのようなものを羽織っている。猫背も特徴的だと思った。

 「ようやく会えたな、クソジジイ」

 「ふぉっふぉ。欲望に忠実に行動できたのじゃから礼を言ってくれてもいいんじゃないかの? もう少し時間があれば、そこにいる女達を犯すくらい壊すことができたのじゃがな」

 「やっぱりお前の仕業だったのか」

 パン!

 言葉を投げつけながら即座に銃を撃つユウリ! 凄い、手の動きが全然見えなかった……操られていた時より強いかも……。だけど、銃弾がお爺さんを殺すことはできなかった。

 「……実体じゃない?」

 「そりゃお前さん方相手に、ノコノコと出るものか。では、改めて……わしの名はトリスメギストス。偉大な錬金術師様とはわしのことじゃ」

 「ふーん」

 パパが鼻をほじりながら「それが?」という感じで声を出す。私は横に立っていたアイリに耳打ちをする。


 「(錬金術って何?)」

 「(あ、こっちには無いんですね? 錬金術というのは研究者みたいな人達です。鉄を金に変えたりとか……)」

 「(鉄を金に……!? お、お金持ちになれるじゃない!?)」

 アイリとひそひそ話をしていると、トリスメギストスが激昂して叫んできた。

 「聞こえとるぞ! 学の無い異世界連中どもには理解できんじゃろうな。卑金属を貴金属に変えるなぞ、どうでもいいことじゃ。わしらの最終目標は――」

 鼻を鳴らしてドヤ顔をするトリスメギストスに対し、エクソリアさんが目を細めて言う。

 『最終目標……賢者の石を使っての不老不死、だったかな?』

 「女神なら知っていてもおかしくないか。それと神の叡智を手に入れることよ。賢者の石はさっき言っておった鉄を金に変えるといった現象を起こす奇跡の石。その生成には成功した……じゃが、わしは不老不死の極致には至らんかった」

 「じゃあ、て、鉄を金には変えられたの!」
 
 「ルーナ、それは今いいから……」

 レイドさんにこつんとあたまを小突かれ黙る私。さらにエクソリアさんが質問を続けた。

 『ふうん、ま、人間の限界ってところだろうね。ボク達のような本物の神に至るにはそれこそ不老不死にならないと解明なんてできないからさ』

 その言葉にトリスメギストスはニヤリと笑う。

 「そのとおり。志半ばにして死んでしまったが、文字通り神はわしを見放さなかったわい。まさかこうして再び生き返れるとは思わなんだ」

 『それが神裂に協力している理由か』

 「その通り。ヤツも研究者じゃったそうだからのう、さらに神となったときた。だからその力と知恵を借りてわしも不老不死を手に入れてやろうと画策したが……」

 「思ったよりも手ごわかった、ってところか?」

 話しの腰を折ってパパが挑発する。だけど、トリスメギストスは特に気にした風も無く肩を竦める。

 「ま、否定はせんよ。だからわしはヤツの力を奪うことにした」

 まるでその辺の魔物を狩るくらいの調子で言うと、エクソリアさんが口を開いた。

 『……そんなことが出来るとでも?』

 「やりようはあるかのう? それを教えるつもりはないが。さて、喋りすぎたか、そろそろ雌雄を決しようではないか! そのためにほぼ素通りさせてやったのじゃからな」

 「やっぱりそうか。引導を渡してやるからさっさと本体が出てこい……!」

 ユウリが銃を構えて苛立たしげに叫ぶと、トリスメギストスの身体はまたスッと姿を消した。

 「焦るな。まずはこやつらからじゃ」

 カチャ……

 そして向かい側にある扉から人影が出てきた。


 「出て来たか……」

 いつか来る、そう思っていた……私とレイドさんの偽物が薄ら笑いを浮かべて立っていた―― 
 
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