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最終部:タワー・オブ・バベル
その318 メンバーの選定
しおりを挟むレイドさんに断られた私はその足でニールセンさんやカイムさんにお願いをして回ったがあっさりと断られた。レイドさんがダメだと言うなら自分たちも手を貸すことが出来ない、と。
「どうしてよ……どうして分かってくれないの……」
私がとぼとぼと歩いていると、アイリ達三人に出くわした。
「あ、ルーナさん」
「……機嫌が悪そうだな。ほら、狼達、こっちへ来い」
「朝っぱらから辛気臭い顔をされたら気が滅入るね」
とりあえずシルバに噛まれたノゾムはおいておき、私は話しはじめる。そうだ、この三人なら何て言うだろうか。私は今朝起きてからのいきさつを説明すると、アイリは複雑そうな顔をしていた。
「うーん……私は皆さんと同じ意見ですね」
「……俺もだな。よしよし、やっと撫でさせてくれるのか……」
二人はやはり同じようだ。だけど、ユウリは少し違った。
「僕はどっちも分かる気がするよ。なんせアイリとノゾムが死んだあと、父さんと会社に乗り込んだのは同じような状況だったからさ。できれば訓練を積んだり、確実な状況で復讐をしたかった」
「だ、だよね! やっぱり確実に――」
と、言いかけたところでユウリは言葉を続けた。
「でもそうはできなかった。モタモタしていると向こうが僕達を狙ってきて、八方塞がりになるのを避けたかったからだ。今の状況もそうじゃないのか? 時間が経てば父さんは確実に神になって世界は壊れるんだろ、だったら今更ジタバタしても意味が無いんじゃないの? お腹が空いたからそろそろ行くよ僕は」
「あ、待ちなさいユウリ! ごめんなさいルーナさん」
「ううん……大丈夫よ」
「……またな。ご主人様にちゃんと着いているんだぞ?」
「わん!」
当然だとばかりに吠えるシルバ。私はと言うとユウリの言葉が突き刺さっていた。
「ジタバタしても意味が無い、か……」
確かにそう。ヒールも剣術も付け焼刃で覚えてみたところで通用するとは思えない。それでも私はもうみんなを犠牲にしたくない……
そう思いながらフラフラと朝食の場に行くと、クラウスさんやシルキー、ソキウスやチェーリカ、サイゾウさんもその場にいて勢ぞろいだった。パパが居なくなった後ということもあり、同じく勇者であるレイドさんが指揮をとっているようだった。それは良かったんだけど、この後、衝撃な出来事が私を待っていた。
「ディクラインさんが居なくなったことは聞いていると思う。今後は元魔王のヴァイゼさんと……俺が先陣を斬る形になると思う。あの人ほど強くないけど、宜しく頼む」
「まあ、それはいいんじゃねぇのかな。で、次はどうするよ? というか俺に行かせてくれねぇか?」
クラウスさんがドンと、テーブルを叩きながら言う。それに続いてエリックも口を開いた。
「僕も同じ意見かなー? レイドさんは実力もあるし特に異論は無いけど、問題は行くメンバー。そろそろ僕も行きたいところだねー」
「もちろん私は行くぞ。ディクラインの敵討ちだ。そこの三人には悪いが、神裂は私が討つ」
カルエラートさんも完全武装になり行く気満々だ。それにレイドさんも信頼されていて私も鼻が高いが、そのレイドさんがメンバーについて発表があった時、私は凍りついた。
「みんなの気持ちももっともだ。だけど、大勢で行って全滅は避けたい。それこそ、ディクラインさんでもやられてしまうような場所だからね」
ゴクリと喉を鳴らしたのはウェンディだった。そしてレイドさんが次回、塔へ登るメンバーを決定する。
「まずは俺だ。ヴァイゼさんもすでに待機している」
「今、僕の部下とサムライさん達が向かっているよ」
エリックの言葉に頷き、話を続ける。
「セイラにフレーレちゃん、そしてシルキーさん、お願いできるだろうか」
「分かったわ」
回復魔法が使えるママが居なくなったからこれは順当ね。
「カイム、ニールセンも頼む。女神姉妹もだ」
『大丈夫だよ』
『当然ね』
「勿論です」
「次は恐らく国王が敵……必ず討ちます」
ニールセンさんが立ち上がり宣言する。
「後はエリックとノゾム達、それとカームにバステト、以上だ」
<無論だ>
<行くのにゃ>
――え……?
「ちょ、ちょっと待ってレイドさん!? 私は!?」
すると渋い顔をしたレイドさんが私に言う。
「……今回ルーナは狼達と留守番を頼む。二人のこともあるし、少し休んで欲しいんだ。80階までは俺達に任せて――あ!」
レイドさんが最後まで言うのを待たず、私はその場を走り去った。
「がう!?」
「何よ……! 人の気も知らないで休め休めって……! パパとママがあんなになって一番仇を取りたい私を置いていくなんて……!」
泣きながら走り、私は自室に閉じこもった。
◆ ◇ ◆
「……悪いことをしましたね。でも、今のルーナは危なっかしいので、連れていけません。少し前のわたしみたいで……ごめんなさいレイドさん、恋人なのに嫌な役を……」
「いや、俺も気になっていたことだったから。みんなも申し訳ない」
レイドが頭を下げると、それぞれ口を開いた。
「俺は構わないぜ? チェーリカと留守番して見ておいてやるよ」
「ですです。まったく困った人です!」
「カッ! 俺が行けないってのはストレスが溜まるぜ! ……シルキー、気を付けろよ?」
「ええ、ありがとうクラウス。あなたはリーダーだから、拠点のみんなを頼むわ」
ソキウス達は事前にこうなることを説明していたのだ。だからあの場でルーナが外れることを口にしなかった。
「ま、頑張りすぎだと思うし、いいんじゃないかなー。ただ、きちんと見ておかないと、ルーナちゃんは何をするか分からないよー?」
「そこは考えてある。出発は明日だ、各自準備を怠らないよう頼む」
レイドがそう言うと、各々席を立ち、準備を進め始めた。レイドはそれを見届けた後、ルーナの部屋へと向かう。
「わたしも行きますか……?」
「いや、俺だけでいい。きちんと話をしてくるよ、メンバーとして……恋人としてね」
「……はい」
◆ ◇ ◆
コンコン……
扉がノックされ、私は伏せていた枕から顔を上げる。涙と鼻水でぐっしょりになっていて気持ち悪い……すると、シルバが私の袖を引っ張りながら鳴いた。
「わんわん」
「……誰?」
「俺だ」
ビクッと私の身体が強張る。レイドさんだ……
「開けなくていい、さっきはすまなかった。だけど、俺の本心でもある。今は無理をして欲しくない。塔に戻ったらしばらく帰って来れないから声をかけにきたよ」
「……ちゃんと、帰ってくる?」
私が声を絞り出すと、レイドさんは扉の前で一瞬戸惑った声をあげ、ハッキリと言った。
「当然だ。俺はディクラインさんにルーナを任されたんだ、必ず帰るさ」
「う、うう……ううう……絶対よ……」
ガチャ
「ああ……絶対だ」
レイドさんは扉を開けてベッドにへたり込んでいた私を抱きしめる。
「パパが……ママも居なくなっちゃった……お父さんもいつまで持つか分からないし不安で……」
「分かっているよ。辛かったな。でも、神裂まで辿り着かないとあの二人の犠牲も無駄になる。そしてルーナが同じ目に合えば今度は俺達が辛い。今のルーナは疲れ果てている、だから拠点でできることを頼むよ」
「うん……うん……」
これでもか、とばかりに泣く私の背をレイドさんは優しくポンポンと叩いてくれ、レジナ達も私の傍で体を擦りつけて心配してくれていた。気が付くと私は寝てしまっていて、レイドさんの姿は無かった。
「チェーリカ! みんなは!」
「あ、やっと起きてきましたね! もう出て行きましたよ」
見送りに間に合わなかった……私が意気消沈していると、ソキウスが声をかけてきた。
「お、昨日は酷い顔だったのに今日はスッキリしてるじゃん。ぐっすり眠れてそれだったらもう少し寝たら?」
「ううん、何か出来ることは無い? 体を動かしたいの(みんな、どうか無事で)」
私は塔を見上げながら心の中で呟くのだった。
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