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最終部:タワー・オブ・バベル

その389 真偽

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 チーン……

 エレベーターが場に似つかわしくない音を立てて扉を開ける。だが、そこには誰も居なかった。神裂はルーナを抱えようとするのを止め、目線を入口へ向けた。

 『あ? 何で開いたんだ……? 今の衝撃でぶっ壊れちまったか? ま、ここから戻る必要がある奴は誰も居ねぇから構わねぇけど』

 そう呟いて閉じていく扉から目を離そうとした瞬間、

 「ふにゃぁぁぁぁ!」

 『何だと!?』

 突如現れた巨大な羽根つきの猫が神裂へと襲い掛かった! もちろんこの巨大猫はリンで、ルーナに危機が及ぶと見て飛びかかった。神裂が驚いたのも無理はなく、フードが剥がれてしまったので急に現れたように見えたのだ。

 「にゃあああああ!」

 『おいおい、こんなのが登ってきたのか? ルーナも変なのに好かれるもんだな、と!』

 神裂は引っかいてきた腕を掴み、リンをくるりと一回転させて床に叩きつけた。

 「ふぎゃ!?」

 『ははは! おいたがすぎるぜ猫! まあ、ペットにするのも悪く――』

 ババッ!

 何かを察した神裂はリンから手を離し、その場から瞬時に移動した。直後、何もない空間から剣が横薙ぎに走り、神裂の着地と同時に足が払われ尻もちをついた。

 『なん、だってんだ!?』

 「くそ……! 勘のいい野郎だ!」

 「アントン! 無駄口を叩く前に攻撃をしなさい!」

 「わかってるよ!」
 
 剣を出したのはアントン。そして着地を妨害したのはゲルス。因縁のふたりが今、復讐のため神裂へ迫る。その隙にフォルサがルーナ達を集めて回復魔法を使っていた。

 「《サークル・リザレクション》こっちは任せなさい。あなた達は神裂を!」

 「わかってるっての! 初めましてか元凶さんよぉ!」

 『ぎゃははは! 俺にとっては超久しぶりだがな、アントン! それとゲルス!』

 そう言い放ちながら背後から放ってきたゲルスの杖を避けながら回し蹴りを繰り出す。

 「む……!? さすがと言うところですか!」

 「師匠! 後ろを向くとは舐められたもんだな!」

 『そんなことはねぇよ? 勇者の力が戻ってきてそれなりに強くなったようだしな!』

 「!?」

 ぐるん、と回し蹴りをした反動をそのままの勢いで回転し、剣を振りかぶるアントンへ殴りかかっていた。

 ガギン!

 「くう!? 重てぇ……! だけど力負けはしてない!」

 ズザザ、と拳を剣でガードして下がるがアントンはすぐに態勢を立て直し反撃に移った。以前よりも鋭い剣はレイドに迫る勢いだ。
 だが、そのレイドやルーナ達を退けた神裂がアントンの攻撃で倒せるかと言われればやはり難しい。剣を軽くいなしながらにやにやと笑う神裂。

 『ぎゃはは! やるじゃねぇか! しかし、実験は悪くなか……おう!?』

 「《ケイオス・フレア》!」

 ドゴン!

 ゲルスの上級魔法が炸裂し、服が焦げたことを見てふたりと距離をとる神裂。ゲルスはアントンの隣に立ち、杖を突きつけてから口を開く。 

 「よそ見とはいい御身分ですね。……神裂、あなたは何故こんな回りくどいことをしているのです? 世界を壊すというなら何故アントンや他の人間を捕まえて恩恵の実験などを行ったのです。私の身体を使ってまで」

 『ぎゃははは! 俺と感覚を共有していたお前は知っているだろう? そこの女神達……いや、今体を使っている神、ズィクタトリアの作った世界の嫌がらせだよ。恩恵を消したり、別の恩恵をつけたりできる実験だったろ?』

 「……ええ、それはもちろん。ですが、隠していることがありますね? ……アントンを含めて恩恵をいじった人達を……あなたは殺していませんね? どうやったのか分かりませんが、私の記憶を改ざんしましたね?」

 『……』

 無言のままニヤリと不敵に笑う神裂を見て肯定だと確信したゲルスはさらに続ける。

 「あなたの本当の目的は一体なんでしょうか? 私はこれまで孤児だった子供達を実験台にされた怒りであなたに復讐を考えていましたが、そうではなかった。これはどういう……」

 『ぎゃはははははは! おい、ゲルスよ、お前思い違いをしているんじゃないか? 俺がお前の記憶を改ざんしたと言ったな? その記憶は本当に正しいと思うか? 改ざんに改ざんを重ねて俺を恨まないようにしたとは考えないか? アントンにしたってそうだ。攫ったのはお前の中に居た俺。そして両親は死んでいるんだぜ? 俺のせいでな! 俺はお前達にとって悪人だ、それ以上でもそれ以下でもねぇはずだ。俺は世界を壊す、それだけのためにここまで来た』

 そう言って構える神裂を目にして、細い目を少し開けるゲルス。

 「……仕方ありません。そっちがその気なら覚悟を決めましょう。真意は、死にかけた時にでも話してもらいましょうかね」

 「でも師匠、どうする? そもそもこいつは強い上に、反転させる術がある」

 「大丈夫です。神裂と共有していた私に策があります。付いてきなさい! 《フレイムストライク》」

 「お、おう!」

 ゲルスが魔法を放ちながら飛び出し、アントンがそれを追う形で再び交戦が始まった。一方、回復に専念していたフォルサはそんな神裂を見ながら眉を潜める。

 「……ゲルスの話が本当なら、神裂は世界を壊す目的以外に何かある? この女神達と関係があるのかしら」

 「にゃーん♪」

 「きゅきゅん!」

 「わんわん!」

 「きゅふん?」

 そんな中、目が覚めたシルバとシロップが大きくなったリンを見て大はしゃぎしていた。すると、そこでルーナの鎧とサークレットから声が響く。

 <……ここは、鎧の中か?>

 <ハッ!? こ、ここはどこにゃ!?>

 <カームにバステトか! よくぞ戻ってきた!>

 チェイシャが叫ぶと、バステトが口を開いた。

 <そうか、あの時私は消滅したんだったにゃ……。今はどういう状況にゃ?>

 <神裂まで辿り着いた。後は倒すだけじゃが、この通りルーナ達は一度やられてしもうた。せめてお主らがいれば防御は間違いなかったのじゃが。それとリリーもおらん。主たちがいても真価を発揮できんのじゃ……>

 <なるほどな。まあ、七つ真価を発揮しなくても倒せない相手ではないのだろう?>

 <ぴー。そうね、反転術さえなければ、だけど。あのおじさんに手があるらしいから、教わりましょう>

 「回復を逆手に取ればいけるかもしれないわ。もしかするとフレーレ達を消したのはそのあたりもあるのかしらね」

 ゲルスとアントンの戦いを見ながら、フォルサはチェイシャ達にそう呟くのだった。

 
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