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第1章
第10話『思い出の切り売り』
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気が進まないまま悪魔に話すのは、あの日の続き──。
朔摩義兄さんと玉緑茶を呑んでいると、呼び鈴が鳴ったと同時に、玄関の自動扉が開いた。
俺たち以外で、この家の生体認証を通る人間は限られてるから、やっと待ち人たちが来たと知る。
木枠のガラス戸に目をやれば、外はすっかり夕暮れ顔で──。
春に合わせて空はうす桃色と藤色に設定され、里の灯りはやわらかく周囲を照らしていた。
夕飯時だ。そう自覚した途端に、昼飯を食べていない腹の音が鳴る。
「クレ、来たぞー。あ! 副司令もお疲れ様です」
「朔摩さん、紅、お邪魔します。今日は腕によりをかけますから! お台所お借りしますね」
勝手知ったる様子で上がりこむ彼ら兄妹は、そろって薄茶の瞳に涙袋がふっくらとしたタレ目で、誰にでも好感を持たれる──タヌキのような顔をしている。
二人ともいつもの着流しに小紋姿だ。
俺は出迎えもせず、座椅子にもたれかかったまま、図々しい態度で飯を催促した。
「やっと来たか~! 柚芽~、腹減ったよお……。はよ作ってくれー」
「二人ともいらっしゃい。……すごい量の食材だね。八兼、運ぶの手伝うよ」
家主がそう言うのだから仕方ない。
俺ものっそりと立ち上がり、買物袋を一つ手にした。
適正検査が近づく日々に、俺は緊張ですっかり食欲が落ちていたため、柚芽がご馳走を作ってくれることになっていたのだ。
というか、同じ歳の彼女も他人事ではないけども。
普段はおっとりした普通の少女でありながら、座学も武道も常に首位。
……芸術はからっきしなものの、望めば都の特別学級へ易々と進むことも出来た身のためか、
「○!※□◇#△~♪」
と、うめき声のように下手すぎる鼻歌(?)を歌いながら余裕そうで。
割烹着をまとって支度を始める後ろ姿からは、まるで気負いや不安が感じられない。
居間で隣り合って座る俺の親友・八兼も同じく能天気に言った。
「はーっ、ようやくクレと地上に行けるのかぁ……。早くいこうぜー?」
「いこうぜー? じゃない! ……自分だって、去年は子犬みたいに不安で震えてただろっ」
そう指摘すると、「わんわん!」と可愛い子ぶる。
「ハチぃ、頼むからあんまり期待しないでくれ。……駄目だったらキツい。
努力じゃどうにもならない上に、合格するのは1割以下なんて厳しすぎる」
そう。この低確率にも関わらず、1つ年上の八兼は去年みごとに《天渡衆》の座を射止め、既に何度も上界任務に出ている。
大地を駆ける気分をよく聞かされて、正直心底うらやましくて仕方ない。
………ただ、一度だけ犯罪者らしき焼死体も見つけたそうで、それはちょっとご遠慮したいけど。
「オレは適合できた動物…《狩衣》だって、正直かなり当たり引いたじゃん? 大型の甲斐犬だもん」
「え、わざわざ今日する自慢か……?」
呆れ顔で返すと、のほほんとした笑顔で親友は言う。
「いやいや、そうじゃなくて。運がいいオレが一緒に行きたいって、
こんなに思ってんだから……きっとお前も合格するよ」
「じゃあ俺が落ちたら、お前の思いが足りなかったせいだからな?」
どういう理論なんだよ、まったく。
さらに俺たちの斜め前に席を構えた朔摩義兄さんときたら、
「まあ確かに運がいい。それに本人もカンが鋭いし、すっかり頼りにしてるよ。
………ただ。お前たちが危険を冒すほどの仕事では、ないのだけれどね」
と呟いたので、「また過保護か」と思って聞き流す。
◆◆◆◆
《天渡衆》が身体を借りる鳥獣──《狩衣》とは、各人によって適正差がある。
哺乳類あるいは鳥類を対象とし、検査することで適合率が判明するのだ。
(───それにしても、地上に出るには獣にならないといけないとはね。今更だけどさ)
人類は罰を受けているんだろうか?
そうだとしたらどんな罪なのか……なんて風に考えてしまうのは、本ばかり読んでいるせいかもしれない。
朔摩義兄さんと玉緑茶を呑んでいると、呼び鈴が鳴ったと同時に、玄関の自動扉が開いた。
俺たち以外で、この家の生体認証を通る人間は限られてるから、やっと待ち人たちが来たと知る。
木枠のガラス戸に目をやれば、外はすっかり夕暮れ顔で──。
春に合わせて空はうす桃色と藤色に設定され、里の灯りはやわらかく周囲を照らしていた。
夕飯時だ。そう自覚した途端に、昼飯を食べていない腹の音が鳴る。
「クレ、来たぞー。あ! 副司令もお疲れ様です」
「朔摩さん、紅、お邪魔します。今日は腕によりをかけますから! お台所お借りしますね」
勝手知ったる様子で上がりこむ彼ら兄妹は、そろって薄茶の瞳に涙袋がふっくらとしたタレ目で、誰にでも好感を持たれる──タヌキのような顔をしている。
二人ともいつもの着流しに小紋姿だ。
俺は出迎えもせず、座椅子にもたれかかったまま、図々しい態度で飯を催促した。
「やっと来たか~! 柚芽~、腹減ったよお……。はよ作ってくれー」
「二人ともいらっしゃい。……すごい量の食材だね。八兼、運ぶの手伝うよ」
家主がそう言うのだから仕方ない。
俺ものっそりと立ち上がり、買物袋を一つ手にした。
適正検査が近づく日々に、俺は緊張ですっかり食欲が落ちていたため、柚芽がご馳走を作ってくれることになっていたのだ。
というか、同じ歳の彼女も他人事ではないけども。
普段はおっとりした普通の少女でありながら、座学も武道も常に首位。
……芸術はからっきしなものの、望めば都の特別学級へ易々と進むことも出来た身のためか、
「○!※□◇#△~♪」
と、うめき声のように下手すぎる鼻歌(?)を歌いながら余裕そうで。
割烹着をまとって支度を始める後ろ姿からは、まるで気負いや不安が感じられない。
居間で隣り合って座る俺の親友・八兼も同じく能天気に言った。
「はーっ、ようやくクレと地上に行けるのかぁ……。早くいこうぜー?」
「いこうぜー? じゃない! ……自分だって、去年は子犬みたいに不安で震えてただろっ」
そう指摘すると、「わんわん!」と可愛い子ぶる。
「ハチぃ、頼むからあんまり期待しないでくれ。……駄目だったらキツい。
努力じゃどうにもならない上に、合格するのは1割以下なんて厳しすぎる」
そう。この低確率にも関わらず、1つ年上の八兼は去年みごとに《天渡衆》の座を射止め、既に何度も上界任務に出ている。
大地を駆ける気分をよく聞かされて、正直心底うらやましくて仕方ない。
………ただ、一度だけ犯罪者らしき焼死体も見つけたそうで、それはちょっとご遠慮したいけど。
「オレは適合できた動物…《狩衣》だって、正直かなり当たり引いたじゃん? 大型の甲斐犬だもん」
「え、わざわざ今日する自慢か……?」
呆れ顔で返すと、のほほんとした笑顔で親友は言う。
「いやいや、そうじゃなくて。運がいいオレが一緒に行きたいって、
こんなに思ってんだから……きっとお前も合格するよ」
「じゃあ俺が落ちたら、お前の思いが足りなかったせいだからな?」
どういう理論なんだよ、まったく。
さらに俺たちの斜め前に席を構えた朔摩義兄さんときたら、
「まあ確かに運がいい。それに本人もカンが鋭いし、すっかり頼りにしてるよ。
………ただ。お前たちが危険を冒すほどの仕事では、ないのだけれどね」
と呟いたので、「また過保護か」と思って聞き流す。
◆◆◆◆
《天渡衆》が身体を借りる鳥獣──《狩衣》とは、各人によって適正差がある。
哺乳類あるいは鳥類を対象とし、検査することで適合率が判明するのだ。
(───それにしても、地上に出るには獣にならないといけないとはね。今更だけどさ)
人類は罰を受けているんだろうか?
そうだとしたらどんな罪なのか……なんて風に考えてしまうのは、本ばかり読んでいるせいかもしれない。
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