やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第13話『翼あるものたち』

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 そうして迎えた適正検査実施日。俺はたしかに親友の予言通り合格した、しかも鳥。でもこれは………。

「ニワ…トリ…?」

そうつぶやいて愕然とする俺の前にいるのは、五十歳くらいの鳥獣管理官・大山津おおやまづさん。
気まずそうな彼が指さす方向には、不機嫌そうにウロウロと歩き回る鳥がいる。

(雪のように白い体、リンゴのように赤い…あれはトサカ…? なんか違うような)

大山津おおやまづさんは額に浮かんだ汗をぬぐいながら、

「あの子は、その、キジでして………」

と言うけども。いやいやいや?

「それなら青緑あおみどりのハデな色してるでしょう!? 
 だ、大体……食用の家畜は精神衛生上、狩衣かりぎぬに使用されないはずじゃ……!」

「ええと、この子はね。特別に白く生まれちゃったんですよ。
 だからお肉にするの躊躇ためらわれたみたいで、僕に引き取ってくれないかと話が来たんです」

そこで彼はいったん、俺の目をチラッとうかがう。さらに、

「まあ、一羽くらいなら上界本部ウチで面倒みようかな、
 意外と狩衣かりぎぬで有用かもしれないな、とか。思っちゃいましてね? 
 司令官も良いんじゃない?って言ってくれましたから……」

そう申し訳なさそうに弁明する大山津さんの顔を見ずに、うつむく俺は無礼者だけども……。

だって、あれは色合い的にどう見ても大きいニワトリだ。
食材でお馴染みすぎるし、絞めるところもさばくところも、当然見たことがある。
何だか自分が食用に回るような気がして、背中がゾワッとした。
それにキジはつい最近美味しく頂いたわけで、その身体を借りるというのは……。

(──確かにね、最近「うまいうまい」って食べたけどね。まさかそれが反映されて適合するとはね?)

隣で見守る朔摩さくま義兄にいさん、柚芽ゆめ、意外にも八兼はちがねまで、先日の食卓を思い出したのか、深刻な顔をして口を押えている……。

でも背に腹は代えられない。現実を受け止めるべく、俺は最後の確認をする。

「………他の個体はないんですよね? 俺と適合できる鳥は」
「ええ、鳥はいないんですよー…。紅くんはこの子との適合率が突出して高いねえ」

肩を落とす俺を見て、さらに続けるには、

「…………あ、そういえば。
 人間と脳の基本構造が近い哺乳類ほにゅうるいと比べて、鳥類は操作が難しいみたいなんです。
 だから適合する人っていうのは、経験則で言うと賢い人が圧倒的に多いんですよ?」

そうなのか、知らなかった。言われてみれば都の総司令だって、今も前任者も鳥と聞いたし。俺は気を取り直してたずねた。

「ちなみにキジってどんな能力なんですか? どれくらいの速さで飛ぶのか、とか。  
 目は良いのか、とか。今まで調べたこと無くて」

その途端とたん大山津おおやまづさんは、露骨に目を泳がせて口ごもってしまった。
少しの沈黙の後、見かねたらしい義兄にいさんが苦しそうな顔で答える。

「…………くれない。キジは、ほとんど飛べない」

滑空かっくうに近いんだ」とか「でも、たしか視力がとても良くて、色覚も視野も広いはず」とか言っているが、新たな事実に衝撃を受けた俺の頭には、入って来ない。

(あいつ、飛べない鳥なのか。そこまでニワトリに近いのか。……なんのための翼なんだ)

小屋の中の白い物体をにらみつけると、「やんのか?」と言わんばかりにメンチを切って来た。
目が良いのは本当らしいけど、なんかムカつくな、こいつ………。

オロオロしていた大山津さんは、

「キジはね、脚がすっごく早いんですよ。個体によっては犬と同じくらいの速度が出ます。
 そりゃ持久力は低いけど……走るのが得意で、一応飛べるなんて動物は中々いないっ。これはホント!」

なぐさめてくれた。そして最後にこう付け加える。

「あとギリギリだけど、紅くんに適合するのは……あっちにいるタヌキですね。
 というか、タヌキならいっぱい居ます」

もうキジで良いです。そう涙をこらえながら答えた俺は、
『秩序保全局 上界本部 筑紫つくし遺物探索隊 入局申請書』(覚えなくていい)に署名した。

くだんの飛べない鳥は俺の方を見て、どことなく不服そうな顔をしている。
あのな、俺もだからな?
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