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第1章
第15話『桜色の朝、子供で在れた日々』
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検査から一週間後、桜咲く春の朝。俺は自室で新品の黒い背広に袖を通した。
柚芽と共に、正式に筑紫の里の秩序保全局に入局したのだ。その制服を着ると実感が増す。
上機嫌で居間に行くと、既に支度を整えていた朔摩義兄さんが、まぶしそうに俺を見て言った。
「おはよう。……これで、紅も立派な大人だ。白梅も喜んでるよ」
「ありがとう、義兄さん。姉さんと二人で、俺の面倒を見てくれたおかげだよ」
そう心から感謝すると、
「ふふふ、そういう所もすっかり一人前だ。良い子に育って嬉しいね?」
なんて、絹糸のような黒髪をかき上げながら、流し目をされた。
子供のような外見なのに、この人と話すだけで舞い上がる人間(特に女性)が多いのは、よく分かる気がする………。
そうして二人で穏やかに朝飯を食べて、初めての出勤をする道中。
「理想と違うこともあると思う」とか「異動したくなったら何時でも俺に相談するんだよ」と、結局子ども扱いされるのは、もう仕方ないのかもしれない。
◆◆◆◆
中央地区にある目的地──厳めしい石材で出来た秩序保全局には、保衛本部、救護本部、そして《天渡衆》を擁する上界本部が設置されている。
生体認証を通過し、義兄さんに先導されて入った大部屋には、既に八兼と柚芽がいた。
義兄さんは二人に軽く手を挙げた後、奥へ歩いて行く。
二十名くらいの先輩隊員たちが、途端にピシッと背筋を伸ばした所から察するに、
(予想はしてたけど、かなり厳しい上司なのかもしれない……)
そう思いながら、俺は柚芽の隣に立った。
「二人ともおはよう。柚芽、制服似合ってるね」
「!!!!!」
「おはよ、紅。あとでもっと褒めてやって。そろそろ司令がいらっしゃるから」
そう雑談をやんわりと止めた八兼からは、先輩らしさが漂っていて少し驚いてしまう。
やがて現れた、控えめに言って福々しい中年の男性──。
筑紫の里の天渡衆を束ねる彦名司令は、義兄さんから聞いていた通り、失礼ながら愛嬌がある見た目をしている。
「みんなおはよう。やあやあ~、紅くんと柚芽ちゃんだねえ。
僕は彦名、はじめまして。とても賢い子たちだって、朔摩副司令から聞いてるよお~」
そう言いながら、俺たち二人に笑顔で近づいて来た。
「ん~、このお仕事はね。たしかに絶対安全とは言い難い──僕の力及ばず、この冬は犠牲者も出してしまったし……。
それでも、みんなが成果を楽しみにしている、やり甲斐のある職場だとは思うんだ」
司令は同意を求めるように、周囲を見渡す。
先輩方はこの人を信頼しているのだろうということが、向けられた視線だけで何となく分かった。
「お仕事だから、厳しいことを言うかもしれない。でも、必ずそこに大切な意味があるから……。
って、アイサツが長いと若者に嫌われちゃう! もうここまで!
一緒に、楽しく、事故はなく! 僕らと頑張ろうね~」
秩序保全局は上下関係に厳しいとされているが、彦名司令は異色の親しみやすさなのだろう。
「じゃ、僕と副司令は、これから朝イチの遠隔通信会議だから。
説明とかもろもろ、あとは狭土くんたち、よろしくねえ~」
そう手を振って背を向ける司令の隣にいた義兄さんは、
「紅、柚芽。狩衣を着るのは、最初から上手くいかないのが当然だから。
焦らずじっくり練習するようにね」
と、ほんの少し心配そうな顔をして微笑み、
「狭土。怪我をさせるな」
と日常では聞かない声色で、短く付け加えた。
「ハイッ」と答える先輩は、完全に縮み上がっている。
ゆさゆさと体を揺らして別室へ向かう我らが指導者と、風雅に歩いて行った義兄さんを見送った後。先輩方の緊張はあからさまに解けた。
俺たちの前に仁王立ちする狭土さんは、髪を逆立てて少しガラが悪そうだけど、八兼からは面倒見が良い人だと聞いている。
そんな先輩は咳払いをした後、話し始めた。
「……まあ彦名司令は一見ああだけど、マジで超頼れる。
朔摩副司令は厳しくて、それ以上にカッケーの。
隊員はみんな憧れてるし、俺もそう。家ではどんな感じなのか、そのうち教えてくれよ」
彼が力強く言うと、他の先輩方もうんうんと頷く。
家族のことをそんな風に言ってもらえるのは、当然嬉しい。
(俺、ここで頑張ろう。大切な人たちと……ずっと一緒に)
柚芽と共に、正式に筑紫の里の秩序保全局に入局したのだ。その制服を着ると実感が増す。
上機嫌で居間に行くと、既に支度を整えていた朔摩義兄さんが、まぶしそうに俺を見て言った。
「おはよう。……これで、紅も立派な大人だ。白梅も喜んでるよ」
「ありがとう、義兄さん。姉さんと二人で、俺の面倒を見てくれたおかげだよ」
そう心から感謝すると、
「ふふふ、そういう所もすっかり一人前だ。良い子に育って嬉しいね?」
なんて、絹糸のような黒髪をかき上げながら、流し目をされた。
子供のような外見なのに、この人と話すだけで舞い上がる人間(特に女性)が多いのは、よく分かる気がする………。
そうして二人で穏やかに朝飯を食べて、初めての出勤をする道中。
「理想と違うこともあると思う」とか「異動したくなったら何時でも俺に相談するんだよ」と、結局子ども扱いされるのは、もう仕方ないのかもしれない。
◆◆◆◆
中央地区にある目的地──厳めしい石材で出来た秩序保全局には、保衛本部、救護本部、そして《天渡衆》を擁する上界本部が設置されている。
生体認証を通過し、義兄さんに先導されて入った大部屋には、既に八兼と柚芽がいた。
義兄さんは二人に軽く手を挙げた後、奥へ歩いて行く。
二十名くらいの先輩隊員たちが、途端にピシッと背筋を伸ばした所から察するに、
(予想はしてたけど、かなり厳しい上司なのかもしれない……)
そう思いながら、俺は柚芽の隣に立った。
「二人ともおはよう。柚芽、制服似合ってるね」
「!!!!!」
「おはよ、紅。あとでもっと褒めてやって。そろそろ司令がいらっしゃるから」
そう雑談をやんわりと止めた八兼からは、先輩らしさが漂っていて少し驚いてしまう。
やがて現れた、控えめに言って福々しい中年の男性──。
筑紫の里の天渡衆を束ねる彦名司令は、義兄さんから聞いていた通り、失礼ながら愛嬌がある見た目をしている。
「みんなおはよう。やあやあ~、紅くんと柚芽ちゃんだねえ。
僕は彦名、はじめまして。とても賢い子たちだって、朔摩副司令から聞いてるよお~」
そう言いながら、俺たち二人に笑顔で近づいて来た。
「ん~、このお仕事はね。たしかに絶対安全とは言い難い──僕の力及ばず、この冬は犠牲者も出してしまったし……。
それでも、みんなが成果を楽しみにしている、やり甲斐のある職場だとは思うんだ」
司令は同意を求めるように、周囲を見渡す。
先輩方はこの人を信頼しているのだろうということが、向けられた視線だけで何となく分かった。
「お仕事だから、厳しいことを言うかもしれない。でも、必ずそこに大切な意味があるから……。
って、アイサツが長いと若者に嫌われちゃう! もうここまで!
一緒に、楽しく、事故はなく! 僕らと頑張ろうね~」
秩序保全局は上下関係に厳しいとされているが、彦名司令は異色の親しみやすさなのだろう。
「じゃ、僕と副司令は、これから朝イチの遠隔通信会議だから。
説明とかもろもろ、あとは狭土くんたち、よろしくねえ~」
そう手を振って背を向ける司令の隣にいた義兄さんは、
「紅、柚芽。狩衣を着るのは、最初から上手くいかないのが当然だから。
焦らずじっくり練習するようにね」
と、ほんの少し心配そうな顔をして微笑み、
「狭土。怪我をさせるな」
と日常では聞かない声色で、短く付け加えた。
「ハイッ」と答える先輩は、完全に縮み上がっている。
ゆさゆさと体を揺らして別室へ向かう我らが指導者と、風雅に歩いて行った義兄さんを見送った後。先輩方の緊張はあからさまに解けた。
俺たちの前に仁王立ちする狭土さんは、髪を逆立てて少しガラが悪そうだけど、八兼からは面倒見が良い人だと聞いている。
そんな先輩は咳払いをした後、話し始めた。
「……まあ彦名司令は一見ああだけど、マジで超頼れる。
朔摩副司令は厳しくて、それ以上にカッケーの。
隊員はみんな憧れてるし、俺もそう。家ではどんな感じなのか、そのうち教えてくれよ」
彼が力強く言うと、他の先輩方もうんうんと頷く。
家族のことをそんな風に言ってもらえるのは、当然嬉しい。
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