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第1章
第17話『望んだ煙』
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今の話に相応しくないニヤケ顔の悪魔を、念のために問い詰めてみるか。
「それで、お前がやったのか?」
「へ?」
「お前があの日、《境界門》の制御装置に手を出して──それで扉が開いたのか?」
「ち、ちょっとぉ……。悪魔だって濡れ衣きせられたら、否定する権利あるからねぇ?」
感情を乗せずに凝視すると、ベルフェゴールは金髪をくしゃりと乱して、鬱陶しそうに言う。
「匂いだけお届け~なんて片手落ちでしょ……。
ぼくだったら、ちゃんとみんなの目の前で殺されるように段取るしぃ、子供にも見せるように工夫するもん」
ホントこいつは……。でも妙に説得力がある。
「クズだもんな、信じてやるよ」
「クズ!? そっちは冤罪かぶせようとしたくせに!? 紅くんはホントひどい子だよぉ……」
めそめそと泣き真似をしている姿が大層カンに障るけど、コイツじゃないなら何だったんだろう。
悪魔は首を傾けながら「ん~」と考えつつ、尋ねてくる。
「そもそもさぁ、動物の姿で死んじゃった人は何が原因だったの?」
「…………機械生命体の誤作動に巻き込まれたらしい」
「えー、そんなことあるんだぁ? 《天渡衆》って普通に危ないじゃん。なんで憧れの職業なの~? きみも辞めたくなんないわけ?」
それは。朔摩義兄さんもずっと似たようなことを言っていた。若草さんが亡くなったあの時も───。
◆◆◆◆
一瞬で過ぎ去った悪夢の後、しばらくは里中が揺れに揺れた。
無理もない、犯罪なんて起きても軽いものばかりなんだから。
姉さんの事件は都だったし……みんなにとっては、現実味が薄かったんだろう。
若草さんの凶行に倒れた、多斗さんを弔った日。
後に八兼や先輩たち、特に狭土さんから色々教えてもらった。
「亡くなった隊員──三加早はさ。俺の同期で……あの日、俺と行動してたんだよ」
「……そうだったんですね」
「腐ったデカい木の近くにいて。人間かよ!?ってくらいの太い枝が落ちてきたから、避けて。
危なかったぜーってアイツの方を振り向いた時には──もう、ほとんど焼けて……残ってなかった。近くにアレは、確かにいたけどよ……」
「……………」
それは、一体どういうことなんだろうか。
機械生命体の誤作動などあまりにも稀すぎて、誰にも分からないらしい。
「余所見した俺のせいだ、なんて悩むのはやめてたんだけど。
ミカ……三加早は、そんなこと言ったらアホか?って本気で馬鹿にするヤな性格してたし」
それを受けて八兼も、
「あー、言いそうですね。めちゃ気位高いトコある人だったし!」
なんて、あえて明るく振る舞う。その目には親愛が滲んでいて。
きっと魅力的な先輩だったんだろう。俺も、会ってみたかった。
「火葬」を選んだのは本人だったこと──、自分がもしも《意識交換中》に死亡したら、煙になって空に昇りたいと言っていたことも聞いた。
ふつうは地下で土葬だし、多斗さんもそうだけど。
本物の空の美しさをよく知り、もともと自由な気質の人が多い《天渡衆》では、同じく火葬を希望する人が多いとか。
「実はオレもなんだよねー」と親友が笑うので、「俺もそれでよろしく」なんて返した。
そして、朔摩義兄さんは「せめて恋人である若草さんが納得するまでは、人間体を生かしておけないか」と都の総司令に直談判していたらしく………。
懇願は実を結べず正式に却下されたので、受け入れるしか無かったと。
(だけど正直、無理もないと思う──姉さんがそうだったとしても……いや……それは分からないか)
動物の意識が入った人間体は、任務の間、鎮静剤や催眠霧などで動かないように処置されている。
そんな状態を何日も維持できるワケがない、安楽死するのは現実的に仕方がない……そう判断されたことを理解できてしまう。
あの時、俺たちが《境界門》に到着する前。
彦名司令が言葉を尽くして彼女に説明したらしいのに、会話にならず。
義兄さんは一切言い訳をしなかったと聞いて、あの人らしいと悲しく思う。
若草さんの無残であろう遺体を回収するのに、自ら手を挙げたところも。
後日、義兄さんから常よりも根気強く、「紅には別の仕事に就いてほしい」と迫られた。
絶対嫌だと断り続けて、結局はあっちが「家族といえど、生き方に無理強いはできないのだろうね」と折れてくれたけど──実は、自分でも疑問に思っている。
(どうして俺は、家族を苦しませてまで《天渡衆》に固執してるんだろう)
本は好きだ。地上時代の未知の話は興味をそそられる。でも。
好奇心で無茶な行動をする人間だとは思っていない。それは我慢できる。
そう、「足るを知る」を信条としている身でおかしいだろうと悩んだままだ……今も。
◆◆◆◆
ベルフェゴールが『ラツィエルの書』をめくりながら、
「火葬かぁ、ぼくの世界でもずいぶん増えたし、問題はないハズだけど……」
と気になる言い方をしたので、「問題って何の?」と尋ねれば、
「蘇られるか、だよぉ。………うん、やっぱり大丈夫みたい。
わー、ぼくってば優しい! もうこれは契約するしかないよね?」
なんて押し売りをしてきた。そんな恩を買う気はないけど。
無視して話を戻そうとすれば、また挟んでくる。
「っていうかさぁ、死ぬの怖いとかないワケ?」
「そりゃ怖いだろ。でも自分だけで済むといえばそうだし……まあ、家族を悲しませるのはイヤか」
大体、脅してるクセにお前が言うなよ。だから嫌いなんだよ。
「それで、お前がやったのか?」
「へ?」
「お前があの日、《境界門》の制御装置に手を出して──それで扉が開いたのか?」
「ち、ちょっとぉ……。悪魔だって濡れ衣きせられたら、否定する権利あるからねぇ?」
感情を乗せずに凝視すると、ベルフェゴールは金髪をくしゃりと乱して、鬱陶しそうに言う。
「匂いだけお届け~なんて片手落ちでしょ……。
ぼくだったら、ちゃんとみんなの目の前で殺されるように段取るしぃ、子供にも見せるように工夫するもん」
ホントこいつは……。でも妙に説得力がある。
「クズだもんな、信じてやるよ」
「クズ!? そっちは冤罪かぶせようとしたくせに!? 紅くんはホントひどい子だよぉ……」
めそめそと泣き真似をしている姿が大層カンに障るけど、コイツじゃないなら何だったんだろう。
悪魔は首を傾けながら「ん~」と考えつつ、尋ねてくる。
「そもそもさぁ、動物の姿で死んじゃった人は何が原因だったの?」
「…………機械生命体の誤作動に巻き込まれたらしい」
「えー、そんなことあるんだぁ? 《天渡衆》って普通に危ないじゃん。なんで憧れの職業なの~? きみも辞めたくなんないわけ?」
それは。朔摩義兄さんもずっと似たようなことを言っていた。若草さんが亡くなったあの時も───。
◆◆◆◆
一瞬で過ぎ去った悪夢の後、しばらくは里中が揺れに揺れた。
無理もない、犯罪なんて起きても軽いものばかりなんだから。
姉さんの事件は都だったし……みんなにとっては、現実味が薄かったんだろう。
若草さんの凶行に倒れた、多斗さんを弔った日。
後に八兼や先輩たち、特に狭土さんから色々教えてもらった。
「亡くなった隊員──三加早はさ。俺の同期で……あの日、俺と行動してたんだよ」
「……そうだったんですね」
「腐ったデカい木の近くにいて。人間かよ!?ってくらいの太い枝が落ちてきたから、避けて。
危なかったぜーってアイツの方を振り向いた時には──もう、ほとんど焼けて……残ってなかった。近くにアレは、確かにいたけどよ……」
「……………」
それは、一体どういうことなんだろうか。
機械生命体の誤作動などあまりにも稀すぎて、誰にも分からないらしい。
「余所見した俺のせいだ、なんて悩むのはやめてたんだけど。
ミカ……三加早は、そんなこと言ったらアホか?って本気で馬鹿にするヤな性格してたし」
それを受けて八兼も、
「あー、言いそうですね。めちゃ気位高いトコある人だったし!」
なんて、あえて明るく振る舞う。その目には親愛が滲んでいて。
きっと魅力的な先輩だったんだろう。俺も、会ってみたかった。
「火葬」を選んだのは本人だったこと──、自分がもしも《意識交換中》に死亡したら、煙になって空に昇りたいと言っていたことも聞いた。
ふつうは地下で土葬だし、多斗さんもそうだけど。
本物の空の美しさをよく知り、もともと自由な気質の人が多い《天渡衆》では、同じく火葬を希望する人が多いとか。
「実はオレもなんだよねー」と親友が笑うので、「俺もそれでよろしく」なんて返した。
そして、朔摩義兄さんは「せめて恋人である若草さんが納得するまでは、人間体を生かしておけないか」と都の総司令に直談判していたらしく………。
懇願は実を結べず正式に却下されたので、受け入れるしか無かったと。
(だけど正直、無理もないと思う──姉さんがそうだったとしても……いや……それは分からないか)
動物の意識が入った人間体は、任務の間、鎮静剤や催眠霧などで動かないように処置されている。
そんな状態を何日も維持できるワケがない、安楽死するのは現実的に仕方がない……そう判断されたことを理解できてしまう。
あの時、俺たちが《境界門》に到着する前。
彦名司令が言葉を尽くして彼女に説明したらしいのに、会話にならず。
義兄さんは一切言い訳をしなかったと聞いて、あの人らしいと悲しく思う。
若草さんの無残であろう遺体を回収するのに、自ら手を挙げたところも。
後日、義兄さんから常よりも根気強く、「紅には別の仕事に就いてほしい」と迫られた。
絶対嫌だと断り続けて、結局はあっちが「家族といえど、生き方に無理強いはできないのだろうね」と折れてくれたけど──実は、自分でも疑問に思っている。
(どうして俺は、家族を苦しませてまで《天渡衆》に固執してるんだろう)
本は好きだ。地上時代の未知の話は興味をそそられる。でも。
好奇心で無茶な行動をする人間だとは思っていない。それは我慢できる。
そう、「足るを知る」を信条としている身でおかしいだろうと悩んだままだ……今も。
◆◆◆◆
ベルフェゴールが『ラツィエルの書』をめくりながら、
「火葬かぁ、ぼくの世界でもずいぶん増えたし、問題はないハズだけど……」
と気になる言い方をしたので、「問題って何の?」と尋ねれば、
「蘇られるか、だよぉ。………うん、やっぱり大丈夫みたい。
わー、ぼくってば優しい! もうこれは契約するしかないよね?」
なんて押し売りをしてきた。そんな恩を買う気はないけど。
無視して話を戻そうとすれば、また挟んでくる。
「っていうかさぁ、死ぬの怖いとかないワケ?」
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