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第1章
第18話『最初に見つける綺麗なもの』
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自分で話しておいて何だけど、さっきからベルフェゴールが幸せそうな顔をしていて憂鬱になる。
三加早さんや若草さんの不幸がそんなに楽しいのかと嫌味を言えば、
「あー……。まあ、退屈はしなかったけどぉ。
そうじゃないよ、紅くんがお話上手だからだよ?」
と、最悪の言い訳をされた。
聞くんじゃなかったと後悔してしまうのは──二人の悲劇を面白おかしく売り飛ばしたのかと、自己嫌悪に陥ってしまうからで。そんなつもりはなくても、酷いよな。
さらにヤブヘビというか、話題の提案までされて。
「幼馴染の女の子! あの子のこと、もっと教えてよぉ」
「駄目だ」
「───じゃあ契約の話するぅ? それとも暴れればいいの? まあ、嫌いじゃないけど……」
脅迫してくる相手にムカついても仕方ない、それでも。
(あとで絶対殴る。柚芽の動きを思い出して、腰を捻ったイイやつを入れてやる)
そう心に誓い、出来るだけ薄めて話すことにした。思い出すのは、止められないけど。
◆◆◆◆
彼女の事件から少し時は過ぎて──。
俺と柚芽は《狩衣》の訓練に勤しんだ。
キジの姿で動くことは想像より難しく苦労したけど、それよりも《神経通信》が難関で。
鳥獣は当然、人間と発生器官が異なるため、一切しゃべれない。そこで神経を通じて連絡するのだけど。
それはつまり………思考のすべてが隊員に飛んでしまうのだ。
必要な時だけ短く《発信》すればいいものの、最初の頃はもう酷いものだった……。
ここまでを悪魔に説明すると、
「ぷぷ! 18歳の男子が考えてることなんて、9割がアッチでしょ」とせせら笑われた。
……まあ、今でも思い出すと死にたくなる。他の方法って編み出せないんだろうか。
お陰で『ラツィエルの書』で検索する時に困ることは無かったけどね。
あと、事件ではないけど大きな出来事はあった。柚芽が上界任務を断念せざるを得なくなったのだ。
最初の《意識交換》から自由にフクロウの姿で飛び回り、首を動かすことしか出来なかった俺との格の違いを見せつけていたものの……。
彼女自身が催眠霧も鎮静剤もほとんど効かない特殊体質だったらしく、《意識交換》をしても、一時間程度で人間体が覚醒してしまう。
俺もその場にいたけど、聞き馴染んだ柚芽の声とは思えぬ「グギャッグギャッ」という奇声を上げ、異様な表情でもがいていて。
正直「かなり綱渡りな仕事なのかもしれない」とは嫌でも理解させられた。
──それなのに。やっぱり辞める気がまるで起きない自分自身が、今でも分からない。
それにしても、あの(芸術以外の)万能天才・柚芽にしてみたら、初めての挫折といえそうだ。
俺がそろそろ上界任務に出られそうだと無神経に喜んでいた時……。
「良かったね、おめでとう。絶対気を付けてね、ケガしないで。
──私も一緒に行きたかった、紅と。初めての経験は、何でも紅としたかった。
いつでも私が守るつもりだったし、本だってたくさん見つけてあげたかった。
紅がいるから、私もここに入局したのに……これじゃ、意味ない」
「ま、まってまって。ごめん、俺が悪かった。お前も地上に行きたかったよな。
……俺が最初に見つける綺麗なものは、必ずお前に贈るから」
そう慌てて釈明すると、大きな垂れ目を潤めて微笑んでいた。
柚芽は子供の頃、こんなに俺にベッタリじゃなかったはずだ。
好意は有難いけど、こちらとしては妙に落ち着かないというか。上手く言えない……。違和感、が。
◆◆◆◆
そういえば、親友──八兼が先日、意外な真実を告げてきた。
「オレがここまで大きくなったのは、妹がお前のために料理上手になりたいっていうから……。その実験台となった結果だからな?」
「え? 俺のため……実験台?」
要は練習で作った飯を次々と与えられ、太りたくないと必死に運動、そしてまた大量に食べさせられて、の繰り返しで成長期を過ごしたらしい。納得した。
料理って芸術っぽいのに、なんでアイツ得意なんだろ?って疑問に思ったこともあったし。
ただ、一応言い返しておく。
「俺のためって………別に柚芽に好きとか、言われたことない。普通に家族的なアレじゃないの?」
「家族愛であそこまでしない、絶対。アイツの『料理帖』を見れば分かる……!」
なんだかコイツの真顔って怖い。タヌキ顔でも大柄だからか。
「オレに食わせた結果、肌ツヤはどうか、眠れているか、体臭はどうか、毎日きちんと出してるか……全部記録してたんだぜ?
何もかも、お前の健康のためだって断言してた」
「ヒッ………」
──あれはちょっと怖い話だったけど。変わらず、いや、むしろもっと彼女のことは大切な存在だと思えたけど。
(どうして素直に嬉しいって思えないんだろう。柚芽より優先したい女の子なんて、他にいないのに。可愛いとも思ってるのに)
俺は別に、同性が好きという傾向は無いはず。
何かが……何かが自分を抑えているようなこの感覚は気分が悪く、ずいぶん昔から恋愛については、出来るだけ考えないクセがついてしまった。
◆◆◆◆
まあ、それはさておき。傍らの悪魔も「そろそろ僕らの出会いだねぇ!」と嬉しそうで、俺は嬉しくない。
そう、時間稼ぎも終わりが近づいてきた。コイツに提供できる話題も尽きそうで。
だけど甲斐はあった、考えがまとまりつつある。
悪魔とかいう災厄をどうするか──里、ひいてはこの世界の人類すべてに懸かっているこの危機を、必ず切り抜けなければ。
(俺は、多くは望まない。だからこそ失うのは大嫌いなんだ)
三加早さんや若草さんの不幸がそんなに楽しいのかと嫌味を言えば、
「あー……。まあ、退屈はしなかったけどぉ。
そうじゃないよ、紅くんがお話上手だからだよ?」
と、最悪の言い訳をされた。
聞くんじゃなかったと後悔してしまうのは──二人の悲劇を面白おかしく売り飛ばしたのかと、自己嫌悪に陥ってしまうからで。そんなつもりはなくても、酷いよな。
さらにヤブヘビというか、話題の提案までされて。
「幼馴染の女の子! あの子のこと、もっと教えてよぉ」
「駄目だ」
「───じゃあ契約の話するぅ? それとも暴れればいいの? まあ、嫌いじゃないけど……」
脅迫してくる相手にムカついても仕方ない、それでも。
(あとで絶対殴る。柚芽の動きを思い出して、腰を捻ったイイやつを入れてやる)
そう心に誓い、出来るだけ薄めて話すことにした。思い出すのは、止められないけど。
◆◆◆◆
彼女の事件から少し時は過ぎて──。
俺と柚芽は《狩衣》の訓練に勤しんだ。
キジの姿で動くことは想像より難しく苦労したけど、それよりも《神経通信》が難関で。
鳥獣は当然、人間と発生器官が異なるため、一切しゃべれない。そこで神経を通じて連絡するのだけど。
それはつまり………思考のすべてが隊員に飛んでしまうのだ。
必要な時だけ短く《発信》すればいいものの、最初の頃はもう酷いものだった……。
ここまでを悪魔に説明すると、
「ぷぷ! 18歳の男子が考えてることなんて、9割がアッチでしょ」とせせら笑われた。
……まあ、今でも思い出すと死にたくなる。他の方法って編み出せないんだろうか。
お陰で『ラツィエルの書』で検索する時に困ることは無かったけどね。
あと、事件ではないけど大きな出来事はあった。柚芽が上界任務を断念せざるを得なくなったのだ。
最初の《意識交換》から自由にフクロウの姿で飛び回り、首を動かすことしか出来なかった俺との格の違いを見せつけていたものの……。
彼女自身が催眠霧も鎮静剤もほとんど効かない特殊体質だったらしく、《意識交換》をしても、一時間程度で人間体が覚醒してしまう。
俺もその場にいたけど、聞き馴染んだ柚芽の声とは思えぬ「グギャッグギャッ」という奇声を上げ、異様な表情でもがいていて。
正直「かなり綱渡りな仕事なのかもしれない」とは嫌でも理解させられた。
──それなのに。やっぱり辞める気がまるで起きない自分自身が、今でも分からない。
それにしても、あの(芸術以外の)万能天才・柚芽にしてみたら、初めての挫折といえそうだ。
俺がそろそろ上界任務に出られそうだと無神経に喜んでいた時……。
「良かったね、おめでとう。絶対気を付けてね、ケガしないで。
──私も一緒に行きたかった、紅と。初めての経験は、何でも紅としたかった。
いつでも私が守るつもりだったし、本だってたくさん見つけてあげたかった。
紅がいるから、私もここに入局したのに……これじゃ、意味ない」
「ま、まってまって。ごめん、俺が悪かった。お前も地上に行きたかったよな。
……俺が最初に見つける綺麗なものは、必ずお前に贈るから」
そう慌てて釈明すると、大きな垂れ目を潤めて微笑んでいた。
柚芽は子供の頃、こんなに俺にベッタリじゃなかったはずだ。
好意は有難いけど、こちらとしては妙に落ち着かないというか。上手く言えない……。違和感、が。
◆◆◆◆
そういえば、親友──八兼が先日、意外な真実を告げてきた。
「オレがここまで大きくなったのは、妹がお前のために料理上手になりたいっていうから……。その実験台となった結果だからな?」
「え? 俺のため……実験台?」
要は練習で作った飯を次々と与えられ、太りたくないと必死に運動、そしてまた大量に食べさせられて、の繰り返しで成長期を過ごしたらしい。納得した。
料理って芸術っぽいのに、なんでアイツ得意なんだろ?って疑問に思ったこともあったし。
ただ、一応言い返しておく。
「俺のためって………別に柚芽に好きとか、言われたことない。普通に家族的なアレじゃないの?」
「家族愛であそこまでしない、絶対。アイツの『料理帖』を見れば分かる……!」
なんだかコイツの真顔って怖い。タヌキ顔でも大柄だからか。
「オレに食わせた結果、肌ツヤはどうか、眠れているか、体臭はどうか、毎日きちんと出してるか……全部記録してたんだぜ?
何もかも、お前の健康のためだって断言してた」
「ヒッ………」
──あれはちょっと怖い話だったけど。変わらず、いや、むしろもっと彼女のことは大切な存在だと思えたけど。
(どうして素直に嬉しいって思えないんだろう。柚芽より優先したい女の子なんて、他にいないのに。可愛いとも思ってるのに)
俺は別に、同性が好きという傾向は無いはず。
何かが……何かが自分を抑えているようなこの感覚は気分が悪く、ずいぶん昔から恋愛については、出来るだけ考えないクセがついてしまった。
◆◆◆◆
まあ、それはさておき。傍らの悪魔も「そろそろ僕らの出会いだねぇ!」と嬉しそうで、俺は嬉しくない。
そう、時間稼ぎも終わりが近づいてきた。コイツに提供できる話題も尽きそうで。
だけど甲斐はあった、考えがまとまりつつある。
悪魔とかいう災厄をどうするか──里、ひいてはこの世界の人類すべてに懸かっているこの危機を、必ず切り抜けなければ。
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