やがて、紅(くれない)は罰になる

藍アキラ

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第1章

第19話『初めての上界任務』

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 《天渡衆あまわたりしゅう》になって約一か月後、俺はついに上界任務に就けることとなった。

朔摩さくま義兄にいさんは「まだ訓練した方が」と相変わらずだったが、彦名司令から
「ん~、副司令。過保護はダメよ?」
という鶴の一声があって話がついたのだ。さすが「超頼れる」お方……ありがたい。

当日、総指揮を執る義兄にいさんが口を開く。

「総員、整列。───本日は予告通り、近隣のみを巡回する」
 《境界門》前の監視所にて集合、上界では二手に分かれ、交通路の整備を行う」

上界任務は遺物収集の他にも、地上時代に作られた交通路の補修がある。
あるいは狩猟肉の確保だったり、美観の撮影だったり──外へ出た人の遺体回収だったりも。

秩序保全局に所属してるから、剣道や柔道は一通り仕込まれるんだけど、基本はとにかく地上に関わるすべてを行う部隊だ。

(それにしても……義兄にいさんの狩衣姿は、反則みたいにカッコいいよなあ)

黒く光る青毛、均整の取れた体──首には狩衣の証となる石帯が巻かれ、金属の輪で繋がれている。
さらに副司令官を示す琥珀こはくまっているのが、特別感を増していた。

他の集まった隊員は、馬やら犬やら鳥、イタチ、カワウソとか。

(分かってはいたけど、なんか御伽おとぎばなしみたいな状況だな………)

緊張してるせいもあって、妙に笑えてくる。 

そんなことを考えている内に出発の合図があり、ついに俺たちは《境界門》をくぐって地上へ出た。

◆◆◆◆

 ──地上は素晴らしかった、そんな普通の言葉しか浮かばないほどに。

(太陽の明るさが、ここまで格別だったなんて…………)

地下居住区は模造品なのだと思い知る。地下ではいとわしい虫さえも、日光に照らされて芸術品のようで……。
草花には露がきらめき、空気は清らかそのもので、あらゆるものに目を奪われてしまっていた。

(───この絶景を、地上を、人類はうしなっているのか)

命令のことなど頭から抜け、ただ立ち尽くす俺を先輩方はみんな待ってくれていて……きっと全員同じ経験をしたのだろうと知る。

そうしてたっぷり時間をもらってしまった後、俺は狭土さづち(犬)さんの隊で行動した。八兼はちがねも一緒だ。

狭土さづちさんは事件の日の命令違反で処罰されそうだったけど、「俺が一般人を守るために外へ行きたがったから」と言い訳したところに大山津おおやまづさんも口添えしてくれたので、どうにか事なきを得て。
狭土さんは「必ず恩は返すから」と義理立ててくれているけど、別にいいのに。

道中、はじめて機械生命体の群れを目のあたりにして、分かっていても心臓が凍った。
もちろん全員に緊張が走り──何も起きず。あれらはやはり、人類でなければ一切の用事が無いらしい。

三加早みかはやさんはどうして、誤作動に巻き込まれたんだろう。
遺体を探しに出た若草さんは、それと《意識交換》するつもりだったのか、もう知ることは出来ないけど。
事故の原因を突き止めるのがとむらいになるなら……調べたいと思った。

あれらを観察すると、ひたすら規則的であることは分かる。
まるでぬくもりを感じない外見。生きていないけど、死んでもいない不思議な存在。

(───人類のいない地上で、今は何のためにさまよっているんだ……?)

一体だけ、崩れ落ちたように動きを止めているものもあって。
まるで、こんな日々に飽きてしまったかのようだった。

◆◆◆◆

 巡回した近隣の交通路は大して荒れておらず、この身体でもみんなで作業すれば、そう大変ではなかったけど……。
急に風が強くなり、木々が轟轟ごうごうとざわめきだした。

(こんな音、聴いたことが無い。なんだか嫌な感じだ──たぶん全員そう思ってる)

不安に包まれていると、案の定、狭土さづちさんが発信する。

【副司令、天気おかしいんで集合場所に戻ります】
その瞬間。

「ガウッ! グォン!」

激しくうなる犬の声と同時に、熊が現れた。それも、二メートル近い超大型の個体。

(上界任務における問題の一つが、わざわざ俺の上界初日にいらっしゃるとは……) 

普通、犬が複数いれば避けてくれそうなものなのに、動物も自分の強さを過信とかするんだろうか。
俺を含む全員が、この強風で音も匂いも察知できなかったらしい。

とはいえ、カンの鋭い八兼はちがねが真っ先に気づいて、大きな声でえたので、熊の奇襲は失敗に終わったようだ。
黒と茶の入り乱れた虎毛が逆立ち、大柄のハチ犬は前傾姿勢になった。

【副司令、すみません! 熊を近づけさせました】
【対処できそうか?】
【はい。こっちに犬、五頭も配置してくれたんで】
【油断はするな】

そう受信している頃には、すでに犬たちが熊を囲んでおり、完全に戦闘態勢だ。
狩衣かりぎぬとなる動物は、《生体再設計》をほどこされたり、《神経強化機器》を埋め込まれており、様々な能力が大幅に底上げされている。

そのため奇襲さえ防げれば、負ける要素は限りなく少ない訳だ。良かった、と胸をなでおろす。
だけど葉擦はずれに潜む、かすかな風切り音が聴こえた気がして───。

(あぶない!!!)

隣にいたカワウソの先輩を思わず俺の羽根で包むと、気づいた時には上空にいた。どうやらワシかタカ、大型の猛禽類もうきんるいつかまれて、連れ去られてるらしい。そう、彼らも任務における問題の一つ……。

(それにしても、なんて鮮やかな狩りなんだ。見事すぎる) 

熊と時を同じくして狙うなんて、《機会捕食者》と呼ばれるその性質に惚れ惚れしてしまう。さすが愛するフクロウの仲間。

俺はそれどころじゃないのに現実逃避を兼ねて感心しつつ、太陽の暑さにも興奮していた。そして何よりも。

(手元が見えづらい身体だけど、遠くはすごい良く見えるよな。
 怖い……でも…空飛ぶのって気持ち良すぎだろ! 解放感やばい!! 
 って、むしろ拘束されてるんだった……死ぬのは駄目だ、義兄にいさんを独りにできない)
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