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第1章
第20話『邂逅───ウロの中』
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死に直面中で脳内物質が出まくっている俺に、朔摩義兄さんから通信が入る。
【紅、状況は?】
【まだ大丈夫です。けど、首根っこ掴まれて空飛んでます。
首……石帯の輪っかに脚ひっかけられてるみたい、です。
伸びる素材だけど、息苦しい。ケガはしてないっぽい】
ちょっと無用な言葉が混じってしまった発信をすると、すぐさま返事が入る。
【特徴的な建物が見えたら知らせろ。飛んで行った方角に、全員向かってる。
──いいか。地面に降ろされた後、猛禽類の初動は大体、首か頭を狙ってくる。
お前は押さえつけられたままで、おそらく避けられない】
(改めて言われると絶望的……)
【だから石帯を解いて、それまでに脱出しろ。
もともと外れやすい造りになってる、90度の旋回が有効だ。
ただし地面に近づいてからやれ。上空で逃げても追いつかれる。
逃げるのは早すぎても、遅すぎてもいけない】
義兄さんの指示が的確なのは分かるけど、俺にそんな芸当できるんだろうか。どちらかと言わずとも、頭脳派だし。
【地上近くで外した後は、遮蔽物を探して走れ。キジの脚なら逃げられる】
【了解】
【………必ず追いつく。絶対諦めるな】
【クレ、お前の匂いは辿ってみせるから】
そう八兼も力強く発信してきた。
(それにしても、こんなニワトリみたいな身体で死ぬのか? 現実味が薄くてちょっと笑える。
いやいや、アイツ……っていうかコイツ?には、申し訳ないことしてるよな……)
あの不愛想なキジを、柚芽はやたらと可愛がっている。
雪みたいに白い体だから「ユキちゃん」と呼んでいるのに釣られて──俺も最近、「ユキチ」と声を掛けるようにしていた。
(とにかく逃げるしかない。……ってもう地面近くなってるし!)
今でいいのか自信はなかったけど、指示通り旋回すると、輪っかがパキッという音と共に外れて、俺は急降下する。
地面に到着後、泡を食って全力疾走、確かに鳥とは思えぬ速度を出せていそうだ。
(猛禽類の本能で追撃されるはず!
俺いまウマいけど食わないで! どこか隠れるトコないか!?)
そんな時、奇跡的に大樹のウロが目に入って全速力で逃げ込めば………。
敵は追ってきそうな気配はあったけど、さすがに諦めて去って行ったらしい。
【逃げられました! いま、デカい木……種類は分かんないけど。ウロの中にいます】
そう俺が発信すると、すぐに義兄さんから返事があった。
【──よくやった、そのまま休んでろ。後は匂いで追えるから、もう動くな】
【狭土だ。紅、スマン……。俺のせいだ】
【いやいや、全然違いますよ】
【あノ、私……。ごメんね、先輩なのに。怖かったよね。ゴメン…私のセい…ごめン】
【問題ありません、無事で良かった】
泣きそうな意識の混じる神経通信は、カワウソの先輩。
彼女には気まずく、苦しい思いをさせたに違いない。
かばったといえば聞こえはいいけど、相手の気持ちを何も考えてなかったし、なんだか申し訳ない。
……本当はもっと気の利いたことを言いたかったけど、集中力が限界なので、もう発信はやめた。
このまま心臓が千切れるんじゃないかってくらい、鼓動が早い。
安心したら、急にものすごく疲れた。首がズキズキ痛むし、もしかしたら少し出血してるのかもしれない。
(眠ったらマズいかな……?)
ウロの中の湿った、甘酸っぱい匂いが妙に落ち着いて、つい意識を飛ばしそうになった瞬間。
───俺はそこで、あり得ないものを、見た。
人間の男。地上では絶対に生きられないはずの存在が、いかにも眠そうに。
「……あれぇ? 人間だと思ったんだけど──違うの?」
なんて呟いて欠伸をし、またすぐ眠るという不審者ぶりまで発揮して。
(それを聞きたいのは、こっちの方だ!)
当然、言葉は出ない。俺に出来るのは、くちばしで突っつくことくらいだった。
◆◆◆◆
寝台で寝転がっていたベルフェゴールは、大げさに拍手をしている。
「お~、やっとぼくが登場したねぇ!
ほらほら、この時ぼくがウロの周りをどけてあげたんだよぉ?」
「なんだ、助けたってそれだけか」
「!? いちおう魔力使ったからね? 貴重なんだからね!?」
紫の瞳でじっとりと、さも恨みがましそうな目で睨んでくる。
図々しい奴だと呆れながら、思い出したことを付け加えた。
「そういえばあの時。お前を連れ帰って助ける案と、怪しいから見捨てる案で隊の意見は真っ二つだったんだけどさ。
俺は当然、後者だったから。それも一番主張したんで」
コイツにお人好しだと思われると、後々面倒かもしれないと思ったので釘を刺しておく。
「……ずっと黙ってたけどさぁ、きみ、なんか回想と違わない???
もっとこう、親切で可愛げある人物として語ってるよね? まさか盛ってんの?」
「逆。お前に対してだけ、こうなんだよ」
あれこれ小うるさい悪魔の文句は聞き流し、俺は考え事の最終調整と──自室の本棚にある紙の束を思い出していた。
白梅姉さんの贈り物が、俺たちを守ってくれるだろうか。
この──ヤギのような瞳の奥に、悪意が籠った男から。
【紅、状況は?】
【まだ大丈夫です。けど、首根っこ掴まれて空飛んでます。
首……石帯の輪っかに脚ひっかけられてるみたい、です。
伸びる素材だけど、息苦しい。ケガはしてないっぽい】
ちょっと無用な言葉が混じってしまった発信をすると、すぐさま返事が入る。
【特徴的な建物が見えたら知らせろ。飛んで行った方角に、全員向かってる。
──いいか。地面に降ろされた後、猛禽類の初動は大体、首か頭を狙ってくる。
お前は押さえつけられたままで、おそらく避けられない】
(改めて言われると絶望的……)
【だから石帯を解いて、それまでに脱出しろ。
もともと外れやすい造りになってる、90度の旋回が有効だ。
ただし地面に近づいてからやれ。上空で逃げても追いつかれる。
逃げるのは早すぎても、遅すぎてもいけない】
義兄さんの指示が的確なのは分かるけど、俺にそんな芸当できるんだろうか。どちらかと言わずとも、頭脳派だし。
【地上近くで外した後は、遮蔽物を探して走れ。キジの脚なら逃げられる】
【了解】
【………必ず追いつく。絶対諦めるな】
【クレ、お前の匂いは辿ってみせるから】
そう八兼も力強く発信してきた。
(それにしても、こんなニワトリみたいな身体で死ぬのか? 現実味が薄くてちょっと笑える。
いやいや、アイツ……っていうかコイツ?には、申し訳ないことしてるよな……)
あの不愛想なキジを、柚芽はやたらと可愛がっている。
雪みたいに白い体だから「ユキちゃん」と呼んでいるのに釣られて──俺も最近、「ユキチ」と声を掛けるようにしていた。
(とにかく逃げるしかない。……ってもう地面近くなってるし!)
今でいいのか自信はなかったけど、指示通り旋回すると、輪っかがパキッという音と共に外れて、俺は急降下する。
地面に到着後、泡を食って全力疾走、確かに鳥とは思えぬ速度を出せていそうだ。
(猛禽類の本能で追撃されるはず!
俺いまウマいけど食わないで! どこか隠れるトコないか!?)
そんな時、奇跡的に大樹のウロが目に入って全速力で逃げ込めば………。
敵は追ってきそうな気配はあったけど、さすがに諦めて去って行ったらしい。
【逃げられました! いま、デカい木……種類は分かんないけど。ウロの中にいます】
そう俺が発信すると、すぐに義兄さんから返事があった。
【──よくやった、そのまま休んでろ。後は匂いで追えるから、もう動くな】
【狭土だ。紅、スマン……。俺のせいだ】
【いやいや、全然違いますよ】
【あノ、私……。ごメんね、先輩なのに。怖かったよね。ゴメン…私のセい…ごめン】
【問題ありません、無事で良かった】
泣きそうな意識の混じる神経通信は、カワウソの先輩。
彼女には気まずく、苦しい思いをさせたに違いない。
かばったといえば聞こえはいいけど、相手の気持ちを何も考えてなかったし、なんだか申し訳ない。
……本当はもっと気の利いたことを言いたかったけど、集中力が限界なので、もう発信はやめた。
このまま心臓が千切れるんじゃないかってくらい、鼓動が早い。
安心したら、急にものすごく疲れた。首がズキズキ痛むし、もしかしたら少し出血してるのかもしれない。
(眠ったらマズいかな……?)
ウロの中の湿った、甘酸っぱい匂いが妙に落ち着いて、つい意識を飛ばしそうになった瞬間。
───俺はそこで、あり得ないものを、見た。
人間の男。地上では絶対に生きられないはずの存在が、いかにも眠そうに。
「……あれぇ? 人間だと思ったんだけど──違うの?」
なんて呟いて欠伸をし、またすぐ眠るという不審者ぶりまで発揮して。
(それを聞きたいのは、こっちの方だ!)
当然、言葉は出ない。俺に出来るのは、くちばしで突っつくことくらいだった。
◆◆◆◆
寝台で寝転がっていたベルフェゴールは、大げさに拍手をしている。
「お~、やっとぼくが登場したねぇ!
ほらほら、この時ぼくがウロの周りをどけてあげたんだよぉ?」
「なんだ、助けたってそれだけか」
「!? いちおう魔力使ったからね? 貴重なんだからね!?」
紫の瞳でじっとりと、さも恨みがましそうな目で睨んでくる。
図々しい奴だと呆れながら、思い出したことを付け加えた。
「そういえばあの時。お前を連れ帰って助ける案と、怪しいから見捨てる案で隊の意見は真っ二つだったんだけどさ。
俺は当然、後者だったから。それも一番主張したんで」
コイツにお人好しだと思われると、後々面倒かもしれないと思ったので釘を刺しておく。
「……ずっと黙ってたけどさぁ、きみ、なんか回想と違わない???
もっとこう、親切で可愛げある人物として語ってるよね? まさか盛ってんの?」
「逆。お前に対してだけ、こうなんだよ」
あれこれ小うるさい悪魔の文句は聞き流し、俺は考え事の最終調整と──自室の本棚にある紙の束を思い出していた。
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